<hikkiの森>宇多田ヒカルの世界

* Automatic


 ボーイフレンドと一緒にいると、自然とドキドキしてからだが熱くなってくる・・・

 この歌は、何の説明もいらない、十代の女の子の日常を歌ったもののように思える。しかし、歌詞の内容をじっくり読み込んでいくと、いろいろ奥深いものも見えてくる。注目するのは、一番最後の方の、「側にいるだけで」に続く歌詞だ。よく読むと、いくつかの疑問がわいてくる。

 そんなにドキドキするほど好きな「彼」のことなのに、「愛しいなんて思わない」とは、どういうことだろうか?「ただ必要なだけ」とは、どういう意味なんだろう?「淋しいからじゃない」って、どういうこと?

 その疑問に対する答えがどこかにあるわけではなくて、聴いた人がそれぞれに想像してみるのが正解だと思うが、ここでは、私の解釈を書いてみよう。

 「淋しいから」というのは、自分の側からの感情を優先したあり方。度が過ぎれば、「もたれかかる愛情」にもなり、淋しさをいやしてくれるなら相手は誰でもいい、ということにもなりかねない。
 「ただ必要なだけ」というのは、特定の彼を一人の大事な存在として認め、好きだけれど、もたれかかったりはしないという、彼女と彼が自立したスタイル。(これは、のちの「For You」の歌詞にもつながっていってる気がする。)

 つまり、ここには、精神的に自立しようとしてる女の子の心理みたいなものも表れているのではないだろうか?
 もっとも、それも完全に割り切ったものではなくて、自分で自分に言い聞かせているような感じでもある。また、あいまいな態度でいる「彼」への強がりの感情もどこかにあるかもしれない。

 「側にいるだけで」の部分は、あとの「愛しい」だけにかかっていくのか、「愛しいなんて思わない」全体にかかっていくのかで、意味が違ってくるが、私は、「愛しい」だけにかかる方を取る。「側にいるだけで愛しい」なんて思わない・・・ただ側にいればそれだけで愛しい、というのじゃないよ・・・あなたが必要だから愛しいんだし、側にいなくても愛しいんだ、と。

 「側にいるだけで」という歌詞は全体で三箇所出てくるが、それぞれかかる形も長さも違うかかり方をしていて、構成に微妙なずれが生じている。同じかかり方をしないというやり方には、作り手の遊び心も感じられて、なかなか面白い。
 聴きなれた歌も、あらためて見直してみると、いくつも楽しい発見があるものだ。



□ 2001年09月11日
(矢島瞳)