![]() |
![]() |
![]() |
| <hikkiの森>宇多田ヒカルの世界 * Addicted To You 「Addicted To You」は、宇多田ヒカルにとって、デビューして最初の転機になった作品といえるだろう。一つの壁にぶつかり、悩みもがきながら、次のステップへと歩み出すまでの過程でつくられた秀作だ。 「アルジャーノンに花束を」の作家ダニエル・キイス氏との「文藝春秋」での対談で、彼女はこの時の状況を、こんなふうに語っていた。少し長くなるが、引用してみよう。 「これまで黒い髪だったけれど、気分を変えたくて染めたら、それがマスコミで大騒ぎになった。ファンのみんなが「どうして髪型を変えたの?」って聞くの。みんなに誤解されたようで、考えちゃった。」「私が外見を変えたのは、日本で最初のアルバムが売れたあと、それはそれはクレージーな状況で、次の曲をと考えたけれど、どうやって作ればいいのかわからなかった。それまでが何もかもパーフェクトだったので・・・。まず、同じことを繰り返してみた。いつも必ず直したいと思うところを見つけるので、それを手掛かりに新しい曲を作るんだけれど、最初の曲があまりにもきれいにフレームされていたので、指紋をつけることさえできなかった。自分の外観を変えるのが、別の道を進む唯一の方法だと思ったの。先に進む道をね。」(注) 外観を変えるのは、当然一つのきっかけをつかむためのものであって、本質的なことではない。しかし、ものをつくる人間にとっては、意識のちょっとした変化が一つの流れを呼ぶということはあるかもしれない。この対談は、彼女の創作家としての素顔を知ることができる、貴重な記録だ。 さて、次に、歌詞の内容について考えてみることにしよう。 以前、ネット上で、この歌は「不倫」の歌なのか?、「遠距離恋愛」の歌なのか?などと議論になったことがあった。人によって、その受け取り方は様々あるようだ。ここでは、その様々ある見方の一つとして、私の解釈を書いてみよう。 私が聴いた感じでは、これは、「毎日会おうと思えば会える距離に住んでいて、お互いまだ独身ではあるけれど、女性の方がうんと年が若くて(10代)、男性の方が社会人の大人で」という設定に思えたのだが、どうだろうか?なかなか会うのが困難な環境より、「もしかしたら会えるかもしれない」と期待しがちな環境の方が、「君に中毒」という題名のとおり、“禁断症状”が出てしまうことになるように思う。 ただ、遠距離恋愛でたまにしか会えなくても、電話を使って毎日会話していれば、また会いたいという気持になることもあるから、これはこれで考えられる話だ。 「二人のこと誰にも言わない」や「お互いの事情分かってる」のあたりは、「不倫」を思わせる表現ではあるが、私は、あえてそう考えなくても、会うのにある程度配慮が必要な立場に二人はあるということではないかと想像した。たとえば、男性は仕事が多忙で、夜遅くしか自由な時間がない、一方、彼女の方は、未成年だから、深夜酒の席に出たりはしにくい、などという見方もできる。なにより、「不倫」という事実があると、忍ばなくてはならない「苦しみ」が生じて、なかなか「中毒」という気持にはならない気はする。「どこまでも続く道じゃない」というところも、彼女は年のわりにクールな目を持っていて、「何事にも終わりがあるからこそ、今を大事にしたい」という考え方の人だと考えればいいのではないか?「不倫」という見方は、わかりやすいが、そこだけに話を持っていくと、この歌の世界を小さく限定してしまうように思う。 歌詞の中で、一つポイントになるのは、「言えないから言わないんじゃない」という言葉だ。ここは、どういう意味だろうか? たとえば、彼が忙しさを理由になかなか会ってくれないとする。そこで、彼女が「どうしてもっと会ってくれないの?」と言えば、彼は、なんとか都合をつけてでも会ってくれるかもしれない。だけれど彼女にとっては、彼がどこかで無理をして会ってくれてると思うと、本当の気持ではないようでさみしくなってしまうのだ。会えないと不安だし、言いたいという気持は抑えきれずあるのに、やはり、ためらってしまう。お互いに求め合っている気持はわかっているから、「会ってほしい」と迫ってみること自体は難しいことではないけれど、あえてそれを言わないことで、純粋な気持を守りたいというところがあるのだろう。会いたいから、会うという形がほしい。「キレイ事」とあるのは、そういうことではないか。同様に、会えない時も、彼が会えない理由を言ってくるのがなんとなくいやだと思っている。彼女は、会えないなら会えないでいいと思っているのに。 会えない日にも「ときめく」ことにこそ、恋愛の醍醐味はある。側にいるのと同じくらい「会えない日の恋しさもクセになる」、というところが、まさに「中毒」なのであり、少しぜいたくで意地っぱりな女の子の恋愛心理なのだ。 □ 2001年11月19日 (矢島瞳) |
||
![]() |
![]() |