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| <hikkiの森>宇多田ヒカルの世界 * Wait&See〜リスク〜 - 2 - さて今回は、「Wait&See〜リスク〜」において、宇多田ヒカルが挑んだ「冒険」について、詳しく考えてみよう。 タイトルの「Wait&See」は、この部分だけだと、“様子見”という意味だが、これに「リスク」という言葉が付くことによって、意味は全く変わってくる。 「あせってものごとを決め付けることはない。時間がたってから判断したっていい。だけど、それは、何もしなくていいということではない。やる前からダメだと思わず、行動を起こすことが大事なんだ。」・・・このような意味になるだろうか。 この「行動を起こす」というところが、彼女自身が取り組んださまざまな「冒険」とつながってくるのである。 そのへんをふまえて、簡単に整理してみよう。この作品において、新しい試みとして注目されるところを挙げてみる。 1. 初めて自分でもアレンジ この曲では、彼女がひとりでデモテープもゼロから作っている。今回もJimmyとTerryがプロデュースとアレンジをやっているが、彼女がつくったアレンジも最終的に取り入れられていて、クレジットにはアレンジのところに宇多田ヒカルの名前もある。 2. アメリカと日本で、離れて作業 彼女が日本で学校があるという事情で、今回は、JimmyとTerryとは、アメリカと日本で離れて作業を行った。オンタイムで話し合いながらの作業ができないので、まず彼女から投げられたものを彼らが受けとめ、それをまた彼らが返してくる、という形をとった。言葉では伝えられなかった分、曲がそれぞれの思いを伝えてくれたという点で、互いの信頼感は大きく増したという。初めは面倒だと思っていたこの作業も、やってみたら、よりよい結果を生んだ。その意味ではこれもこの作品のテーマにつながるわけである。 アメリカと日本とで離れて作業する中で、コラボレーションしていくということは、セカンドアルバムの「Distance」のテーマにもつながっていってるのが、興味深い。 3. 「はやとちり」の題名 この作品は、マキシシングル全体を通して見てもらいたいというのが、彼女の願いのようであった。さまざまなところで、勇気をだして、新しいチャレンジをしている。 カップリング曲の「はやとちり」は、題名がまず印象的だ。日本語のタイトルで、ひらがな5文字のちょっとおかしみのある言葉というのが、これまでにないものである。 4. 初めてのカバー曲 カバー曲を取り入れたのも、初めてのことである。単なるカバーでなく、自分なりの解釈と味付けをして、しかも原曲の雰囲気をこわさない、というきめこまやかな作り方がすばらしい。 5. バトンガールMIXの遊びごころ プラスチックの下敷きのポコポコという音のサンプリングがおもしろい。鼓笛隊のイメージがするので、このタイトルにしたという。ここにも遊びごころがいっぱいだ。 6. 素のままのジャケット写真 これでいいのかと本人が気にするぐらい、普段の彼女そのままの姿である。 7. 歌詞に工夫をこらす ここが、最も重要なところだ。この作品は、特に歌詞に重点が置かれている。言葉遊びも取り入れ、韻を踏んだり、哲学的な内容の歌詞も多くみられる。 たとえば、「愛情向かって左に欠乏 だから君が必要」というところ。並べて書いたときの向かって左側とは、「愛」の方である。愛が足りないから、君が必要になるということなのだ。 韻は、歌い始めのところの、「だって」「ながらって」「待って」「分かって」「勝手」・・・という言葉がそうだ。促音が、リズムを強く印象づけている。 哲学的な内容の歌詞というと、「リスクがあるからこそ 信じることに意味があるのさ」の部分だ。初めからわかりきったことなら、信じようが信じまいが、あまり意味はない。もしかしたら、そうではないかもしれない時に、それでも信じようとすることにこそ、大きな意味があるのである。 ラジオの「トレビアン・ボヘミアン」の中で、彼女は、この歌では、2ヶ所好きなところがあると語っていた。(注1)ふだんは自分の書く歌詞に好みはあまりないそうだから、よっぽど気に入ったとみえる。 それは、「どこか遠くへ逃げたら楽になるのかな そんなわけ無いよね どこにいたって私は私なんだから」の部分と、「変えられないものを受け入れる力 そして受け入れられないものを変える力をちょうだいよ」の部分だ。変えられない・・・のところは、それを書いた時うれしくて、1分くらいそのあと何も書けなかったくらいハマッたという。 どこにいたって私は私・・・のところは、次の「キーが高すぎるなら下げてもいいよ 歌は変わらない強さ持ってる」と呼応している。キーが変わっても、歌の持つ力には変わりはない。それと同じように、どこにいても、自分は自分なんだ、もっと自信をもとう、というメッセージとなっている。特にこの部分は、実際の歌でもメロディーが転調しているのが、心にくいアレンジだ。ここの「強さ」という言葉は、この作品を作ろうとしている自分自身への言葉でもあっただろう。これは、全体を通じてのテーマといっていい。 なお、シングル曲の「Wait&See〜リスク〜」と、セカンドアルバム収録の「Wait&See〜リスク〜」とは、最後の笑い声の部分が違っている。アルバムでは、やはりアルバム全体の流れを重視するのだろう。セカンドアルバム「Distance」では「Wait&See〜リスク〜」の笑い声は消えていて、ボーナストラックとして宇多田ヒカルが手がけた「HAYATOCHI-REMIX」の最後のところに、笑い声が入っている。マキシではマキシ全体、アルバムではアルバム全体を単位に、強い思い入れがあるところが、宇多田ヒカルらしいところだ。作品としての全体性が、彼女の表現なのである。 注1: FM802において、2000年3月31日放送分 参考文献: 「Gb」2000年5月号 □ 2001年12月16日 (矢島瞳) |
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