熊本知事、川辺川ダム「白紙撤回を」計画見直し必至

 熊本県相良村に国土交通省が建設を計画する川辺川ダムについて、同県の蒲島郁夫知事は11日午前、「現行のダム計画を白紙撤回し、ダムによらない治水対策を追求すべきだ」と述べ、反対を表明した。国の巨大ダム計画に知事が反対を明言するのは極めて異例。国交省が知事の反対を押し切ってまで事業を進めるのは難しく、42年にわたって進めようとしてきた計画の見直しを迫られるのは必至。流域住民から反対の声が出ている全国各地のダム計画にも影響を及ぼしそうだ。

 蒲島知事は11日開会した県議会で「治水は流域住民の生命財産を守るためにあるが、地元にとって(川辺川の本流の)球磨川そのものが守るべき宝。ダムによらない治水対策を進め、川と共生するまちづくりを追求したい」などと述べた。国交省が8月末、増水時のみ水をためる「穴あきダム」案を知事に提示したことについては「詳細な説明がなく、是非について判断できない」と意見を述べなかった。

 蒲島知事は今年3月の知事選で「ダムについては就任後半年で態度を決める」と公約し、ダム中止や反対を唱えた4候補を破り初当選。5月から有識者会議をつくり議論を重ねたほか、川辺川や下流の球磨川流域で公聴会や地元市町村長からの聞き取りを進め、「地元の意見も踏まえ総合的に判断する」と述べていた。

 97年改正の河川法は河川の環境保全を重視し、地元自治体首長や住民の意見を聞く手続きが盛り込まれており、河川整備計画を作る際は、蒲島知事の意見を聞く手続きが必要。知事の意見に法的拘束力はなく、知事の同意なしにダム建設を盛り込んだ計画を決めることも不可能ではない。だが、知事が反対した以上、ダム建設のための地元負担約300億円の支払いを熊本県側が拒むのは必至。国交省は今後、建設休止も視野に入れた計画の再検討を余儀なくされることになる。

 川辺川ダムは当初、県など地元の要望を受ける形で、旧建設省(現国交省)が建設を計画。3千億円を超える総事業費のうちすでに2千億円が道路など周辺整備に使われ、水没予定地の同県五木村住民の移転もほぼ終わり、ダム本体の着工を残すばかりとなっていた。

 ダムを前提とした農林水産省の利水事業をめぐる川辺川利水訴訟で、農家から同意を得る際に不正があったとして03年に農水省が敗訴し、利水事業が頓挫。新利水計画がまとまらず、国交省は05年に漁業権や五木村の土地収用申請を取り下げ、07年には利水、発電がダムの目的から外れ、従来の計画は事実上白紙となった。

 しかし、国交省は、新たに策定する球磨川水系の河川整備計画に引き続き川辺川ダム建設を盛り込む方針で、今年8月には九州地方整備局の岡本博局長が蒲島知事に「ダム以外の治水策は考えられない。ダムを造らない場合は洪水を受忍していただかざるを得ない」と伝えた。

 〈川辺川ダム計画〉 63〜65年に球磨川で相次いで水害が発生し、その上流の川辺川に、旧建設省(現国土交通省)が66年に建設を発表、治水や発電、利水を目的とした多目的ダムが計画された。建設予定地は相良村で、上流の五木村の中心部が水没することになる。07年にダムの目的から発電や利水が外れ、治水専用ダムとなった。総事業費は3300億〜3400億円。工期の遅れから当初予定より1千億円以上増えた。

asahi.com 2008/9/11より