カーディナル54
 G誌の連載にのっける写真のためにeBayでイギリスから取り寄せました。ポンド安のおかげでごあす。

カーディナル54
 アブ初のアウトスプールスピニング、カーディナル50シリーズの小型モデル54です。81年くらいのモデルのはずです。「スピニングリール諸君、追いつけるかな? カーディナルに」(当時の広告コピー)の実態はいかに。

 サイズは旧アブの4サイズ、実測自重325g、ギア比5.1:1、スプール径47mmです。

 メイド・イン・スウェーデン。

リアドラグ
 当然カーディナルですからリアドラグです。面白いのはノブにクリックが付いていないこと。手で締めるける感覚とドラグ力の上がり方を一致させ、感覚的に操作しようというものです。

 もうひとつ、これは感心すべきところかどうか難しいのですが、赤いポッチやダイヤルの模様は塗装ではなく、赤い樹脂部品を組みつけています。わざわざ金型を起こしているわけで、金かけてます。

ラインローラー
 33や44と同じ、ポリアセタールらしきブッシュが入っています。ブッシュはラインローラーに圧入され、ステンレスシャフトとの間でだけ回ります。この時期の4を昔見たことがありますが、それも同じでした。

 それにしても10万人の人間を殺したブッシュに靴を投げた記者がなぜ罰せられなければならないのでありましょうか!

ベールシステム
 ベールは同時期のミッチェル4400/3300と同じく、インスプール的設計。手ではリターンできません。手でリターンできるものでは特許の関係でトーションしか使えなかったため、耐久性を考えてこちらの方式をとりました。さらに33や44同様にダブルスプリングで信頼性を増しています。

ハンドル
 ハンドルはねじ込みではなく、共回り方式です。この価格でかよというところ。このリールは少し部品が欠品しているので確かなことはいえませんが、ハンドルを前後にがくがくしてみると、簡単に緩んできます。


ギアシステムと平行巻き機構
 33や44と同じウォームギア(スクリューギア)です。ドライブギアにかぶさっているポリアセタールらしき板は完全平行巻き機構「タイムフェースドオシュレーション」のカムです。

 裏側には中心からの距離が角度に比例して変わる溝が設けてあります。この溝にクランクのピンが入り、オシュレーションスライダーを介してメインシャフトを往復させます。

 55や57の大型モデルは、この板が独立した減速ギアになります。(少しあいまいな記憶ですが、「タイムフェースドオシュレーション」の名は減速方式を指すのかもしれません)

 オシュレーションスライダーはポリアセタールらしき樹脂ですが、ここに直接ネジを切ってクランクを止めています。ネジはたった2mm。中古オークションの落とし穴というかなんというか、当然のごとく前オーナーにネジバカにされておりました。

 他にもベールワイヤのねじ込まれる部分の樹脂部品(シマノでいうところのベール取り付けカム)も割られていました。ホント分解の形跡のある中古品はダメですね。

 とはいうものの、生の樹脂に2mmのネジを立てる設計も、どうなんだ?

メインシャフト
 メインシャフトは真鍮からステンレスになりました。90年型44は真鍮ながら5mmありましたし、ミズホC4も同じくらいでした。しかし、昔見たベージュの4は真鍮で4mmくらいでした(*)。おそらく落下などで曲げてしまう対策として真鍮からステンレスに変更したのでしょう。(*これは記憶違いの可能性があります。もしそうならスプールに互換性がなくなってしまいますが、90年型のスプールが70年代のものに付かないという話は聞いたことがないからです)

 もうひとつ、ピニオンとの接触面を口の部分だけにするために、中ほどの径が落としてあります。リアドラグブッシュによって後端を受けると3点受けみたいになって回転不良が出るため、こうしたのでしょう。

 ただし、カーディナルはピニオンギアもステンレスです。同質だからといって必ずしも焼きつくとは限りませんが、ステンレスはマジで焼きつきます。たとえばオイルの付いていないステンレスのナットをステンレスのボルトにはめていくと、まったく荷重をかけなくてもギリギリギリッと重くなって固着するほどです。

大丈夫か・・・?

ピニオンギアブッシュ
 でも大丈夫なんですね。ピニオンギアには真鍮のブッシュが入っています。

 しかしまあ、ここまでするか。

ローターブレーキ
 33や44にも付いていたローターブレーキを50シリーズも採用。ゴム製のOリングをシマノでいうところのフリクションリングとして使っています。エライ。

 しかし、シマノ98モデルのフリクションリングはオイルでふやけて切れてしまったのに、30年前のOリングが生きてるってすごい。

 そういえばカーディナル50シリーズは(通ったのかどうか知りませんが)「1台丸ごと特許」ということをしていたそうです。そうなるとローターブレーキも特許になっていたのでしょうか。シマノ某氏によると98年にシマノがローターブレーキを採用したのは岐阜県に住む竹中氏というすばらしい人から来た手紙を読んで決めたということでしたが、アブの特許(15年のはず)が切れて使えるようになったという理由もあったのかなあ。まあ、それはどっちでもいいけど、現在のカーディナル(33系は除く)にローターブレーキ採用機がひとつもないのは、つくづくあかんなあ。

ストッパー
 33や44のカリカリいうストッパーから、サイレントタイプに改良されました。ポリアセタールらしきクワガタ状の部品がドライブギアのシャフトにはまり、ストッパーの爪を上下します。

 でもまあ、切り替えレバーを含めるとプレス品3個、ピン4本、固定ネジ2本、役割がいまいち不明のスプリング1個、そして樹脂部品1個と、コストかけまくりです。もう少しシンプルにできるような気がしますが・・・。

スプール
 形状は44などと同じトラブルの出にくい平行フランジです。材質はポリアセタールだったらしいです。だから市場では割れたそうですが、写真のリールは糸が巻きっぱなしでしたが大丈夫でした。極端なテンションで巻かなければよかったのかも。

 割れさえしなければ軽いし錆びないしガラス入りナイロンよりエッジのすべりもよさそうだしいいのですが、現実には想定を超えた使用や樹脂成型のばらつきもあるわけで、メーカーとしては失敗だったということになります。

 このリールは、実質的に最後のスウェーデン製カーディナルとなります。コストダウン版の左ハンドル専用機150シリーズも出ますが、同じシリーズと見ていいでしょう。どちらも売れなかったのでしょうね。

 実際この54を見ていても、前オーナーに壊された部分を直してまで使おうという気になるかというと、いま持ってる44でいいもんなあと思ってしまいます。せいぜいサイレントストッパーがうらやましいくらいです。

 高級品らしくコストをかけていますが、なんかムダに終わっているように思えます。当時の新素材だから仕方ないともいえますが、樹脂パーツの使い方にも危うい面が散見されます。

 もうひとつ、致命的かもしれないのが、スプールとボディーのバランスでしょう。このスプールサイズでこのボディーはでかすぎです。駆動ギアが大きいならともかく、ドライブギアのサイズは33と同程度です。

 日本で33がいまだ評価されるのは、44mmの大口径スプールも大きな理由です。しかし50シリーズに53はなく、さらに小さなスプールと低いギア比の52になってしまいます。52も巻き上げ力とか耐久性を考えたのかもしれませんが、あれでは用途が限られてしまうでしょう。

 重量バランスなど大スプール小ボディーが必ずしもいいとは限りませんが、50シリーズはリールが「糸巻き」であることを忘れてしまっているのではないでしょうか。

 ダブルベールスプリングとか、ローターブレーキとか、いい面もあるのですが、「アブは堅牢」というイメージにアブ自身がとらわれすぎていたのかもしれませんね。(2009/4/15)

AbuGarcia