曲げにこだわる
 昔のアブはスプリングの曲げにこだわっていました。

80年型カーディナル3
 昔(もう20年も前か・・・)シマノで「アブは曲げがうまい」と言われていました。どこがどううまいのか、昔のカーディナルで見てみましょう。

ベール反転レバーのスプリング
 ベール反転レバーにまで寿命の長いコイルスプリングを使っているだけでもたいしたものだと思うのですが、さらに細かく見ると「うむ立派」なのです。

 左が90年代以降の瑞穂製33および3など、右が80年の3のスプリングです。レバーやローターの突起部に掛かる輪への立ち上がりの形状を比べてください。

 左の瑞穂製は立ち上がっていくところに急角度の曲げ部がありますが、右のスウェーデン製は緩やかなカーブでつないで曲げが急角度になるのを防いでいます。

 応力集中を減らして、疲労破壊を避けているのです。おそらく往年のアンバサダーも同様のはずです。

ベールワイヤー
 同時代の日本のリールのように90度に曲げるのではなく、ラインローラーサポートの穴を斜めにしてワイヤーの曲げ角度を緩やかにしています。これだけでもたいしたものですが、さらに細かく見ると・・・。

 こちらは瑞穂製33の曲げ部を内側から見たところ。曲げ治具の角の跡が残っています。

 80年製3は上のような治具の跡がなく滑らかなカーブを描いています。これも応力集中を避ける気配りです。

ベールスプリング
 上の二つとは少し違いますが、ベールスプリングも比べましょう。前提として、左右両方にスプリングを入れる安全思想そのものがアブです。

 左は92年(市場に出たのは91年かも)の瑞穂製5巻き、中央が00年代の33など、右が80年の3です。

 5巻きは論外ですが、6巻き同士を比べても、スウェーデン製時代のはすべての部分ですき間をあけて巻いています。

 すき間をあけるのは線材同士の接触を避けて寿命を延ばすためだと思いますが、両端のみ接触してしまう90年代以降の形状はかえってこの部分に力が集中してしまうため、すき間をまったくあけない(私の92型33に入れた自分で図面を描いて作ったスプリングはそうしました)より悪いのではないかと思います。

 ベール反転レバーのスプリングやベールワイヤーは、90年代以降のものでも折れるわけではありません。ベールスプリングにしても、ネット上の画像でコイルの真ん中あたりで破断した5巻きを見たことがありますから、すき間のあけ方はあまり関係ないのかもしれません(しかし、先日昔リールを設計していた人に聞いたのですが、コイルの途中で破断したからといって接触部の影響がないとはいえないそうです。接触部のために端のひと巻きの変形が抑えられ、コイルの途中の部分に曲げが集中、寿命が短くなることも考えられるそうです。それならやはり瑞穂製のスプリングはダメですね)

 じゃあいちいち指摘しなくてもいいだろうと言われそうですが、逆にいえばそんな部分にまで昔のアブはこだわっていたということです。

 経験した人はわかると思いますが、スプリングやベールの疲労破壊は本当に嫌なものです。ギアや軸受けがだんだん磨耗してダメになっていくのは症状がわかりますし、本当に使えなくなるところまではいかないものです。これに対してスプリング類が折れるのは突然ですし、その瞬間からリールが使えなくなります。一瞬にして大切な休日が台無しになるのです。

 そう考えると、疲労破壊に対して過剰とも思える対応を取っていたアブは、釣りをわかった会社だったんだなあと思います。(2010/1/4)

AbuGarcia