ペン・スピンフィッシャー750SS
 せっかく買ったし・・・。

スピンフィッシャー750SS
 大型海用リールの代名詞にもなっていた「ペンリール」です。これは4桁品番になる前のもの。私がS社にいたころUS向け海用大型リールの対抗品として社内にゴロゴロ転がっておりました。ちょっと懐かしい。これはギジー誌の連載用にハイポイドギアの写真が必要になって買ったものです(採算度外視やのお)。

 ウルトラライトサイズの420SSから海用最大850SSまでの5機種のラインナップ。750SSはスプール径68mm、実測自重735g、ギア比4.6:1、20Lb(昔の表示だから6〜7号くらいのはず)250ydsで、「へヴィー・ソルト・アンド・フレッシュウォーター」とされています。

 メイド・イン・USAです。

ドラグ
 ペンらしい金色アルマイトのスプールには多板式ドラグが入っています。フリクションワッシャーは上2枚がカーボンらしきもの、下1枚がテフロンです。もしかすると前のオーナーが組み替えているかもしれませんが、おそらく取説から見て純正だと思います。

 耳付きワッシャーの代わりに六角ワッシャーが使ってあります。

スプール受け
 スプールを受ける部分は安定したドラグ作動のために太いメタルになっています。当時の日本製大型ではあまりなかったのではないでしょうか。確かS社の当時の対抗品CX(カスタムX)はメインシャフトで直接受けていたはずです。

 さらにスプール側にも材質はわかりませんが黒いブッシュが入っています(叩いた感じでは金属でないかもしれない)。

ベールスプリング
 時代が時代だけにベールスプリングは2回巻きのトーション式。このタイプとしては余裕がありそうですが、おそらく1万回ももたないのでは。でも、キャストを頻繁に繰り返す淡水ルアーではありませんから、いいのでしょう。

 記憶が定かではありませんが、折れても予備パーツがすぐ手に入るから、あちらのアングラーはこういうものだと受け入れていたという話を聞いたような気がします。

ベールトリップ
 ベール反転はレッグの突起にベールアームを当てる外蹴り(エクスターナルトリップ)です。サーフからの投げやボートからの釣りなら、内蹴りよりむしろ使いやすいかもしれません。

ラインローラー
 小型の716Zは直受けでしたがさすがに大型モデルはブッシュ入りです。パーツリストを見ると、3桁シリーズでは420と430はブッシュなし、650、750、850はブッシュ入りです.

 それにしてもブッシュのアメリカはまさしく「悪の帝国」でした。市場原理主義でテロの温床たる貧困を世界中にばらまき、ありもしない大量破壊兵器を口実にイラク戦争を始めて10万人以上を殺し、大量の温室効果ガスを出しながら京都議定書を離脱、あげくにサブプライムローンの破綻で世界は恐慌寸前。オバマ圧勝も当たり前というか、あそこまでやらんとアメリカ人はわからんのかというか・・・。しかしわが国ではイラク戦争をいち早く支持した小泉がいまだ総理にふさわしい人アンケートで上位に入り、格差社会を作った御用学者竹中(わしやないぞ)は評論家づらしてテレビに出てきます。どうなっているのでありませうか。

ベールワイヤー取り付け部
 ベールワイヤーの反対側はこんな感じ。最近のリールは高級感を求めて機能が入ってなくてもレバー風のものを付けますが、このリールはシンプルです。むしろこちらのほうが閉じたときの衝撃がないのでいいはずです。

ハンドル
 ねじ込みハンドルです。元が左ネジ、先が右ネジです。ただ、これが純正かどうかはちょっと不明。取説では右用と左用のネジは別と書いてありました。なにぶん中古なので・・・。

 ノブは日本のダイワ精工も昔同じような形をよく使っていて、トーピード型といっていたものです。ルーツはこれだったのかな。ついでに思い出してしまいましたが、たしか昔ダイワ精工はペン両軸の代理店をやっていました。デュポン・ストレーンとかも扱ってました。今では考えられませんね。

ベアリング
 ドライブギアを支えるベアリングは、外側から入れてキャップで止める設計。海水やゴミの浸入を防ぐフェルトシール付き。

 外からベアリングを入れていますが、ダイワの「エンジンプレート」のように通し穴になっているのではありません。なぜこういう設計にしたんだろう。

駆動ギア
 ハイポイドギアです。現在のリールはフェースギアをオフセットさせたものですが、これはベベルがベース。自動車のディファレンシャルギアに使われるのと同じ形式ですが、増速用に使うのはおそらくリールだけでしょう。ギアの分類については2008年11月21日発売のギジーを(買って)見てください。

 実釣での耐久性には定評がありますが、昔耐久マシンテストにかけたときは、どんな方法を試しても弱かったです。ようわかりません。現実に即した結果を出すのは難しいのだよ・・・。

 昔耐久テストでかじったり焼きついたりしたのはグリスのせいだったのかも。昔はブルーグリスといって透明な青いグリスがペン純正でしたが、このリールは(おそらく塗り替えられていない)ベールスプリングのグリスを見ても普通の(?)機械グリスっぽいものが使ってあります。ブルーグリスはボートのトレーラーのベアリングが海でもさびないくらい耐海水性がいいとされていましたが、純粋な潤滑性はダメだったとか・・・あくまで想像ですが。


ピニオン支持
 ハイポイドギアは高級材料を歯切りしているから優れているかっていうと、そうとも言い切れないのがここ。ピニオンが傘歯車状なので後ろにボスが付けられないのですね。このリールの場合メインシャフトでピニオンの傾きを止める設計になっています。その代わりにメインシャフトを受ける部分に真鍮のブッシュが入っていますが、特に大型リールでは効率や耐久性に不利でしょう。

オシュレーションとシャフト支持
 オシュレーションスライダーとメインシャフトは真鍮の板と2本のビスでがっちり固定。オシュレーションギアも真鍮の歯切りです。メインシャフト後端も真鍮ブッシュで支持しています。

 それにしてもブッシュのアメリカは・・・ええっちゅうに。

ストッパー
 一昔前のベイトリールに付いていたようなサイレントストッパーです。ステンレスの板バネのクチバシがストッパーの歯を挟んでいて爪を動かします。ストッパーの歯の内側は六角形で、ローターの裏と噛み合うようになっています。

 遊びはありますが、実用上十分でしょう。海水や低温できかなくなることもないでしょうし。

 画像右(ボディーの上側)がストッパー、反対側はレバーで切り替えるクリック音出し機構です。

取説
 ちゃんと持ち方投げ方が書いてあります。親指がロッドのセンターに乗っていないシマノや水野裕子にいまだ人差し指はさみ&右巻きをさせておるダイワ精工は見習うように。

 今の日本でも、これが好きだという人は多いようです。アメリカらしいややどぎつい配色や無骨なボディーラインも、海で使われているところを想像すると、ぴったりくる感じがします。

 それがあるから、日本リールの攻勢にもかかわらず、それほど大きな変化をすることなく生き残っているのでしょう。


 アメリカというと、いち早く大森と組んだシェイクスピアのようにとっととモノ作りをあきらめてしまう印象があります。ブランドの買収にしか関心がないかのようなバークレイ/ピュア・フィッシングも同じです。

 安易なOEMとブランド買収は、こつこつ儲けるのではなくてうまく立ち回って金を儲けようという今のアメリカの金融資本主義というかバクチ資本主義に通じる感じがします。

 だから、やっぱり日本のモノ作りが正しいんだ・・・という見方が強くなってきています。たぶんそうなのでしょうけど、じゃあ100%日本のモノ作りが良かったのかというと、私はちょっとへそを曲げてみたい気分です。

 日本民族はなんでも徹底してやらないと気が済みません。だからこそ完成度の高いリールを作ったともいえますが、絨毯爆撃のごとく製品を輸出して相手国の産業を死に絶えさせてしまうほどの徹底ぶりはどうだったのでしょう。昔S社のシンガポール工場の重役が「世界中のリールは全部ここで作ってやる!」と言うのを聞いて背筋が寒くなったものです。

  いま、欧米にリールを生産している会社がいくつあるでしょう。強い者が勝つんだといえばそれまでですが、日本の侵攻の後に何が残ったのでしょう。かつて欧米メーカーは、スピニングのミッチェル、スピンキャストのゼブコ、高級品のアブ、ロッドはロッドメーカー、そしてこのソルトのペンという具合に専門分野を守って棲み分けていました。これも遠い昔の話になってしまいました。

 (釣り具がどうのではなくて、日本製品全般の話ですが)正当な方法で作った製品ならいいでしょう。でも、日本の労働時間や労働条件はどうですか。21世紀になったって異常な長時間労働や賃金不払い残業、下請け・孫受けいじめが当たり前です。70年代80年代など推して知るべしでしょう。

 こんな風にして作った製品を安く大量に輸出されたんじゃあ相手国の産業はたまりません。それだけ日本人はがんばったんだって言っても、いわば60分のテストを90分でやって100点取ってるようなものなんだから、ルール違反です。かつてフランスのクレッソン首相が「日本はルールを守らない」「日本は世界を征服しようとしている」と言ったのは、まさしくこのことでしょう。

 さらにいえば、それで日本人は幸せになったのでしょうか?

 そう考えると、アメリカにありながら自らの分野を堅く守ってリール作りを続けてきたペンみたいな会社があったのは、救いというか、何らかのヒントになるような気がしてきます。

 もっとも、そのペンももはやピュア・フィッシング傘下、何年か後には名前を残すのみになっているのかもしれませんが。(2008/11/12)

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