深海
何も言わない君を見て
俺は「何かやったらしい」事が解った。
「…」
思い当たる節は無い。
「沈黙は雄弁だ」とか誰かが言ってたが
どうやら俺には解らない言語を
この沈黙は「しゃべって」いる様だ。
10分経過。
俺の目の前には汗を掻き、ほぼ存在証明を無くした「アイスコーヒー」だったモノ。
あいつの目の前にも「ミックスジュース」っぽいモノ。
せっかく飲んでもらう為に作られていたのに
いまや枕を濡らして泣き寝入りの体である。
「なにか言ってよ」
永遠と思われる沈黙を打ち破ったのは
俺が一番、返事に困る言葉だった。気持ちの中、汗。
「何って…」
つい、愛想笑い。悪い癖だ。
「私が悪いの解ってるんだから、知ってるんでしょ。アノ事。」
「はん?」なんだなんだ?何が起きた。
俺が悪いわけじゃ無さそうだ…けど何だ?額に汗。
一度破れた堤防は徐々に傷口を広げていった。
「☆○×…※※★△○…」
でも早口すぎて聞き取れませんよ、それじゃ。
と、思った矢先っ!
「だから、ちょっと前から出来てるのよ、先輩と私っ!」
左肩口から袈裟懸けにバッサリ。。。
20分経過。
何やら目の前に座っている、「俺の彼女の形をしたラジオ」は
時々チューニングを狂わせながら、ひたすらに「戦況報告」をしている。
雑音が多くて聞き取りにくいのだが、どうやら「俺チーム」は
敗色濃厚らしい。頑張れ、俺。
一度傾きだした心は止まらない。
それは良く解る。
だからといって、人の休日をこんなに浪費させといて
自分の「敗戦」を知らされるだけとは。唖然、呆然。
汗は引いたけど、心が引ききってしまってて
今度はこっちが「沈黙」するしか無くなった。
45分経過。
「ねぇってば。何か言ってよ。」
(勘弁しろよ)心の突っ込み。
あ、確かに「沈黙」って「雄弁」かもしれませんね。はは。
今の俺にしゃべる事は何も有りません。
行けるなら。深海に潜って行って、心行くまで泣きたいだけです。