「ある日」


電話越しに言われた。

「もう、会わない方がお互いの為だよ」



彼女は会社の派遣さん。

年上の彼氏と上手くいって無かった。

「相談くらいなら乗るよ」

本当に聴くだけのつもりだった。

色々聴いた。

過去・今・これからどうするか。

聴けば聴くほど

「俺なら…」と反論した。

どんどん加速していくそれが「恋愛感情」だと気付いているのに

それは駄目だと思ってるのに

とめどなく溢れる感情は理性の壁をあっさりと乗り越えて行った。



「酒でも飲みに行こうか」

「彼氏には秘密でか…久々だから良いよ」

密会は金曜の夜、実行に移された。

下らない話・うわさ話・最近の流行の話…。

宴は永遠を感じさせるほど上手く行った。

「あなとなら上手くやれるかな?」

「当たり前やん」

お酒の上での社交辞令では無かった。

彼女は泣いていた。



それから何度か会った。夜の2時でも会いに行った。

全ては幸せになるために。



「やっぱり別れられない」

携帯のメールが俺の静寂を打ち破った。

こうなると何の武器も無い人間は惨めだ。

言葉すら無機質な塊と化す。

「お前さんがそれで幸せになるなら良いよ」

俺の発した最後の言葉はもう

「ポツダム宣言」

以外の何者でも無かった。



あの2ヶ月が俺に何を教えようとしてくれたのか

半年たった今も良く解らないでいる。ただ、いる。

それでも、「あの一瞬」だけでも

俺と彼女の心がシンクロしてくれていたなら

それで良かったのかも知れない。



以上。


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