ヒメゴト(takeU)

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「あのさ。」


悠久と思える沈黙(2人でこたつで漫画読んでただけだが)を破って俺は切り出した。


「n?。」


―返事位普通にしなさいって。


「来週、泊りがけでどっか行こうか?。」

「どこにって、どこによ?。」

「いや、目的無くぶらっと出て、どっか目に入った温泉にでも入ろうよ。」

「それで泣きそうになったのたった2ヶ月前よ?。」


―そう、あの時は悲惨だった。目的無き温泉旅行は、長期休暇の「計画的な」旅行客に押し出され、通常の4倍の移動時間と1回の給油と3回のトイレ危機を乗り越えた揚句、「場末のラブホテル見学ツアー」に変わった。彼女の怒りは相当なモノで、半泣きの眼で「帰る」と「トイレ」を都合62回聞かされた(ちなみに復路では沈黙病を患った)。


「いや、あれは日程が悪かっただけだよ。」

「計画性は?。」

「スイマセン無カッタデス。」

「だからさ、どうするつもりなの?。」

「…リベンジしたいです世の中に。」

「ふ。変な理屈だけどまぁいいわ。来週なら土日とも休みだと思うから、お泊り準備してくりゃ良い訳ね。」

「あぁ、できればあと一つ。」

「何?。」

「寛容な心も準備して貰えれば。」

「…行かないわよ。」

「嘘ですすいませんすいません。」



>>>>>>



彼女と晩飯を食って別れた後、俺はパソコンを立ち上げ、もう一度「戦略書」を見直した。第一段階、「普通に旅行にさそう」OK。チェック欄に「○」と打ち込む。

前回の行き当たりばったり旅行。別れ際に、突然沈黙病を克服した彼女に


「ワタシタチの行く末みたいな旅行だったわね。」


と言われた時から考えていたシナリオだ。実はもう行く先は決まっており、宿も押さえてある。無計画に見せるのは「劇的」の伏線なのだ。それともう一つ、手元に昨日届いた「必殺技」も仕込み万全。静かに輝くその「必殺技」は彼女の誕生石を乗せて押し入れの中で虎視眈々と登場機会を伺っている。夕日をバックに決めてやる。スッキリ最高の形をで決めてやる。どうだこの計画性。惚れ直しても知らないからな。

〜♪♪〜

ん。携帯に着信か。あれ、アイツなんか忘れたのか?。ピ。


「どしたの?。」

「あ。言いそびれてたんだけど。」

「ん?。何さ?。」






「…3ヶ月目らしいからね。」

「…うん。…結婚しよう。」


こうして俺のヒメゴトは未遂に終わり、彼女のヒメゴトに押しつぶされた。ヤラレタ。