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【天を突くヤシ】
ビンロウ樹はヤシのなかまで、東南アジアが原産地。観賞用に鉢植えされたものは背が低いが、屋外に生えているものは、ココヤシのように背が高く、てっぺんからの葉っぱの生え方もココヤシに似ている。ココヤシの幹は太くて反っているのにたいして、ビンロウ樹の幹は細いながらも、天を突くように一直線に伸びている。
幹はフシがあって茶色をしているが、上方の伸びざかりの部分は、あざやかな黄緑をしている。観賞用のビンロウ樹は、おおむね幹の下半分にフシがあり、上半分が黄緑の棒状で、てっぺんからヤシの葉が出ているという愛嬌のある姿である。ベトナムでもっとも愛されている観賞用植物のひとつである。
【禁断症状も起きる】
ビンロウ樹はフシのある部分と黄緑色の部分の境目あたりに、オレンジ色の鶏卵を小さくしたような実がたくさんつく。このビンロウの実は嗜好品で、これを口に入れて噛む習慣は、インド・マレーシア・台湾など、熱帯〜亜熱帯アジアに広くみられる。
ベトナムでは、「ビンロウの実」「キンマの葉」「石灰」をセットにして噛むのが普通である。ビンロウの渋みに、キンマの辛みが混ざり合って、強烈な刺激になる。
ビンロウの実には興奮物質アルカロイドが含まれ、コカの葉(コカインの原料)のように精神を高揚させる作用がある。実際にビンロウを朝噛むと眠気が消えてしまう。若干の依存性もあり、常習者はビンロウがきれると眠気や倦怠感などの軽い禁断症状を起こす。
ビンロウとキンマを噛む習慣はとくに高齢の女性に多い。たまったツバを吐き出しながら長時間噛みつづける。吐き出したツバは血のように赤く、歩道にツバが吐いてあると、血が滴っているのかと思い驚くことがある。ビンロウとキンマを噛むとしだいに歯が黒く染まるが、石灰の作用もあって歯が強くなるといわれている。そのほか、ビンロウは胃腸障害や寄生虫駆除にも効果があり、キンマにも健胃や去痰の作用がある。
【結婚式に欠かせない供え物】
キンマは漢字では「蒟醤」と表記されるコショウ科の植物で、ツル草である。ベトナム語では「チャウ」とよばれる。料理のボーヌオンラーロット(レストランメニュー参照)に使われるロットの仲間で、ハート形をしたキンマの葉は、ロットの葉に似ている。コショウ科の植物と聞けば、キンマの葉のコショウのような刺激がうなずける。
ベトナムでは、ビンロウとキンマは結婚式の儀式に欠かせない品とされている。キンマのツタがビンロウ樹に巻きつくことから、相愛のシンボルになっているのである。本来は新郎新婦がビンロウの実をキンマの葉と一緒に噛むのであるが、現在では形式化して供え物にすぎなくなっており、実際に噛むことはめったにない。
また以前のベトナムでは、訪ねてきた客のもてなしにビンロウとキンマを出す習慣があった。ベトナム語には「一片のキンマは話のはじまり」という成語があるが、ビンロウとキンマを噛みながら話をはじめる習慣は、コーヒーを飲みながら話をする現在の習慣に通じるものであったろう。ビンロウ・キンマであれ、コーヒーであれ、精神高揚作用のある嗜好品は、人類にとって会話をはずませる材料なのかもしれない。
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