ある日突然鞠絵が「兄上様、少しお散歩にいきませんか?」と、言った。
不思議に思ったがとにかく散歩しに外へ出た。

「天気もいいし風が吹いてて散歩日和だね」と僕が言っても
鞠絵は「ええ、そうですね。」と心ここに在らずって感じの返事しかしてくれない。

しばらく歩いて森を抜けて湖のほとりまで来た時
なにか思いつめた表情で鞠絵が
「兄上様に大切なお話があります。」と言い出した。
僕は鞠絵の何かを決心したようなそれでいて悲しいような表情を見て
鞠絵の顔をしっかりと見据えた。

鞠絵は気を落ちつけるようにひと呼吸して
「実は、わたくしは兄上様の本当の妹ではないんです!」と言った。
「この間お父様がお見舞いにいらしてお話くださったんです。」
「わたくしその話を聞いて目の前が真っ暗になりました。
だって兄上様をもう兄上様とお呼び出来なくなるんですもの。
それに、この事を兄上様が知ったらもうお見舞いに来てくださらないかもと
思ったら悲しくて兄上様に言い出せなかったのです。」
「どうして鞠絵が妹でなかったら僕が見舞いに来なくなるんだい?」
「それは・・・わたくしが妹でなくなったら見舞いに来る義務がなくなりますもの・・・」
「僕が兄の義務だけでお見舞いに来てたと思ってたのかい?」
「いえ、それは・・・」

「僕は鞠絵が本当の妹じゃないって知ってたよ。昔からね。」
「えっそれは本当ですか?」
「僕が小さい頃お母さんはいなくてお父さんと二人だった。
ある時お父さんが再婚したいと言って女の人を僕に紹介してきた。
その女性が家に来たときその両手にはかわいい女の子の赤ちゃんが抱かれていた。
僕がその赤ちゃんを眺めていたらお父さんが
「今日からこの子はお前の妹だ。兄として守れよ。」と言ったんだ。」
「その赤ちゃんってわたくし?」
「そう、鞠絵きみだよ」

「それ以来僕は兄として鞠絵を見守ってきた。いや、見守ってたつもりだった。」
「鞠絵が病気になって入院した頃から僕の中には『兄』としての自分とは別の心を感じていた。
この前鞠絵が倒れた時に判ったんだ。」
「僕は鞠絵を妹としてではなく一人の女の子として愛してるってね。」
「愛してる女の子が入院してるんだからお見舞いにくるのは当然だろ」

「兄上様・・・わたくしも兄上様を愛しております。」
そして鞠絵は兄の腕の中へ・・・・・

そして帰り道
「ねえ、鞠絵」
「はい?兄上様」
「病気が治って退院できたら僕と一緒に暮らさないか?」
「えっよろしいのですか?」
「歓迎するよ。」