クマムシ ―どれだけ耐えられるか―

 とてつもなく強いということで知られた動物がいる。外見はちょっと熊に似ていて、足の先端には4本の爪があり、口から鋭い針を突き出す。150度の高温にも、マイナス200度の低温にも耐え、真空に対する抵抗力も強い。さらに人間が耐えられる限度の千倍以上の放射線を浴びても生き残れる。

 ・・・などと書くと空想上の怪物のように思われるが、こんなのが実際にいるのである。ウソだと思うかもしれないがこれは本当の話。ただ決して凶暴な怪物などではない。少し説明を付け加えるが、この動物の体長は1ミリにも満たず、性格はいたっておとなしい。口から針を突き出すのは植物の中の液を吸うためで、動きはといえば運動用の筋肉である横紋筋という筋肉がないのでのろのろとしか動けない。つまりはこの動物の有名な強さは悪条件に耐える力なのだ。

 この動物の名はクマムシ。その動きから緩歩(かんぽ)類といわれるグループに属している。このクマムシは環境が悪くなると樽型に丸まる。こうなると耐久力は上にも書いたように不死身とも言えるようになるのだ。さらにこの動物は本来淡水中で活動するのだが、水がなくても死んだような状態で10年以上も平気でいる。いったいその限界がどれくらいなのかわからないが、博物館で120年間保存されていたコケの標本に水分を与えたところ、中に隠れていたクマムシのうちの2,3匹が活動状態に戻り、2,3分歩いてその後死んだという報告もある。

 まさに驚異的な耐久力である。しかし、真空状態やマイナス200度の超低温などという、地球上ではあり得ないような環境にも耐えることができるという能力が持ち得たのだろうか。クマムシは呼吸系も循環系も持っていない。排出器もあったりなかったりする。つまり激しい代謝活動に必要な仕組みは持っていないのである。どうやら最初からその仕組みを持っていなかったのではなく、途中で退化したらしい。おそらく進化していく中で、運動する能力を捨て、ひたすら耐える能力を磨いたいうことなのだろう。

 進化というものは実に多様な方向性があるものだ。しかし、クマムシにしてみれば、そのような能力を持ったがために、のちに人間という動物によって様々な耐久力テストをされることになるなど、思いもしなかっただろう。

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