天使 -神の使者-
 紀元一世紀頃のギリシャ人に、ディオニュシオス・アレオバギタという、聖パウロの弟子と呼ばれた人がいた。彼は初期のキリスト教の重要な神学者とされ、その著書は聖書に次ぐ権威のあるものとみなされていた。ディオニュシオスの署名のある、天使を九階級から成るとする「天上位階論」もその一つである。
 しかし、この「天上位階論」は5世紀頃に書かれたものだと、かなり後になってから判明することになり、この著者は学者たちに偽ディオニュシオスと呼ばれることになる。しかし、この偽ディオニュシオスの天使の位階が、キリスト教国では今ももっとも支持を得ている説となるのである。
 この位階による天使の階級は、次のようになっている。
上級三隊 熾天使
(セラフィム)

Seraphim
 燃えさかる蛇というヘブライ語源を持つ。最高位の天使。「愛と想像力の精霊」と賞されることもある。
 聖書では「イザヤの幻視」でセラフィムにふれているが、それによるとセラフィムは天の玉座に座る主を取り囲んでいる。6枚の翼を持つとされていて、2枚で顔を覆い、2枚で足をかくし、2枚で飛びながら、休むことなく、「聖なるかな、聖なるかな、聖なるかな、万軍の主、その栄光は全地に満つ」と歌い続けたという。
 純粋な光の思考として神と直接に交わり、愛の炎と共振するとされる。
  智天使
(ケルビム)

Cherubim
 ヘブライ語のCherubは「知識」「仲裁する者」という意味を持つ。アッカド語のkaribu(祈る)が語源とされる。
 非常に古い存在で、カナン人たちの宗教ではケルビムは正確には天使ではなく、恐怖を吹き込むエデンの番人的存在であった。預言者の前に現れたケルビムの姿は、4つの翼を持ち、2枚は高く上げられ、2枚は下に畳まれ、数多くの目がそこに付いている翼の下からは人間の手がのぞいているが、足は牛の足であり、その足下にはトパーズのようにきらめく車輪があるという。ケルビムはさらに人間、獅子、雄牛、鷲の4つの顔を持ち、それぞれの頭上には水晶のように輝く空が見えると表現されている。
 彼らは天国の中でも特別な「聖なる境界」の内に生き、神の美と荘厳を瞑想することに没頭し、昼夜絶えず神を目の前にして神を讃え続けるのである。
  座天使
(オファニム)

Ofanim
 「神の玉座を運ぶ尊厳と正義の天使」、「意思の支配者」とされる。別名スローンズ(Thrones)、ガルガリン(Galgalim)とも。火車がシンボルとされる。
 ユダヤの伝統ではオファニムの階層の長にオファニエルと呼ばれる天使がいて、「ヘブライのエノク書」には「オファニエルは16の顔を持ち、100対の翼と8466の目を持つ」とある。
 オファニムはユダヤ神秘主義では特殊な天使的存在とみなしている。
中級三隊 主天使
(ドミニオンズ)

Dominions
 ドミニオンズは統治、支配を意味するDomintionで、別名を主権(Loadship)、ギリシア語でドミナツィオーニ(Dominazioni)とも呼ばれる。
 ドミニオンズの役目は神による真の統治を熱望することにあるという。そのために神の言葉をあまねく宇宙に知らしめるためにさまざまな活動をする。
 ヘブライの伝承では「炎を発する天使」と呼ばれるハシュマリム(Hashmallim)がドミニオンズに相当する。ディヌル(Dinur)と呼ばれる火の川は、彼らが神の台座を担うときに発する汗から発しているという。
  力天使
(ヴァーチュズ)

Virtues
 「高潔」を意味するVirtueからきている。ヘブライではマラキム(Malakim)またはタルシシスム(Talshishism)と呼ばれていた。(Malakh)とは普通「使者」と訳される。
 人間が創造されたときも、人間の日常生活の場でも、常に活動している彼らを褒め称えるのを役目としている。したがって英雄を力づけたり、善を行う者の前に出現し勇気を与えるのである。キリストの昇天に出現し、付き添ったのも彼らヴァーチュズであったとされる。
  能天使
(パワーズ)

Powers
 別名をポテンティアス(Potentates)、または「美徳」を表すギリシャ語でデュナミス(Dynamis)と呼ばれる。
 彼らは神によって最初に創られたとされ、堕天使である悪魔の軍勢の最前線に陣取り対抗するというもっとも危険で過酷な任務を帯びている。常に戦闘態勢にあり、普段から悪の誘惑に身をさらされているが故に、この階級の天使が堕天使になるケースが少なくないとされる。
下級三隊 権天使
(プリンシパリティーズ)

Principalities
 もともとはPrincedoms(プリンスが支配する領地)という意味を持つ。またはアルカイ(Archai)とも呼ぶ。Principalitiの名は、彼らが神のように命令し指導する任務を持っていることに由来する。
 地上の国や都市を統治支配する役職にある彼らの具体的な仕事は、人々の指導者を監視し、彼らの決意を鼓舞することにある。また、善霊を悪霊の攻撃から守るという役割も持つ。
  大天使
(アークエンジェルス)

Archangels
 ギリシャ語の「第一の(archai)」+「使者(angeloi)から、アルカンゲロイ(Archangeloi)とも言われる。
 8番目の軍団とされながら、天使の中で最も知名度が高く、トップランクの権力と能力と誇示する。神の玉座の前に立ち、その命令を直接受ける立場にいる。ユダヤ、キリスト教ともに大天使の数は7人とされているが、その名前については各説あり、一定していない。
 世界が終末に向かうとき、7つのラッパを吹く役目を持っている。
  天使
(エンジェルス)

Angels
 ギリシア語のアンゲロイ(Angeroi)は古代ギリシアでは単なる「使者」という意味に使われていたが、聖書をギリシア語に翻訳する際に、ヘブライ語で同じく「使者」と訳され、天使の意味も持つマラクヒム(Malakhim)の意味が取り入れられた。
 人間に最も近く、もっとも人間に親しみやすい姿を持つ。人間生活の至る所で正義のために監視、激励、鼓舞する役目を持っている。ただし、人間と似た自我を持つゆえにまだ不完全であり、宇宙の階梯を登りはじめたばかりの存在とされる。
 第3位の座天使から第7位の権天使まではあまり語られることが少なく、第1位のセラフィムと第2位のケルビムもまた人間の前にほとんど姿を現すことはない。そのためにどうも活躍の場が少なく、下位であるはずの大天使の活躍が目立っている。
 第7位の権天使までは階級名でしか知られていないが、大天使にはミカエル、ガブリエルなどの有名な天使が知られている。そのため、偽ディオニュシオスの位階論とは別に最も偉大な天使とみなされる場合がある。実際に第1位のセラフィムの指揮官として、第8位の大天使の一人であるガブリエルの名が上がるくらいである。

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