大天使たち -Archangels-
偽ディオニュシオスが作った位階の中で、他の階級の天使が単に階級名でしか呼ばれないのに対し、大天使はミカエルやガブリエルなど個人名が知られている唯一の階級である。キリスト教神父たちは神の使いとしての天使信仰を否定はしなかったが、神二のみ捧げられる崇拝とは区別していた。しかし、神父たちの意図とは異なり、個人名が知られているだけに人気があり、偶像崇拝の対象にされる傾向があった。
360年のラオディケア公会議では、聖書に明示されているミカエル、ガブリエル、ラファエル以外の天使名を使用することが禁止されたが、その後も他の大天使への信仰は残った。その後さらに789年のアクスグラーナ公会議でも再確認され、破門のみか死刑さえも適用されるようになったにもかかわらず、3人以外の他の大天使に祈る習慣がキリスト教の歴史から消失したことは一度もなかったのである。
偽ディオニュシオスの位階論では九階級のうち八階級目という低い位置にある大天使であるが、実際にはこの大天使の中に、天界の軍団の総指揮者といわれるミカエルや、最高位であるセラフィムの指揮官とされるメタトロンなどが入るという地位の矛盾が生じている。こうした位の混乱は、天使への過度の信仰を抑制しようとする教会の意図と、大天使に対する人気の高さとの違いから生じたものだろう。
大天使の定数は7人とされるが、四大天使と呼ばれるミカエル、ガブリエル、ラファエル、ウリエル以外の3人は確定していない。
名のある大天使を以下に挙げる。
★ミカエル★
「神に似た者」の称号を持つ天使軍団の最高指揮官。
ユダヤ教、キリスト教を通じて神の片腕的存在となっていき、人々の人気も高い。最後の審判の前に悪魔との最終戦争を統率するとされる。キリスト教美術では鎧で身を固めた美少年の姿で表されることが多い。
★ガブリエル★
「受胎告知の天使」と呼ばれる。
大天使の中では唯一の女性ではないかとされ、他の大天使が男性的に描かれるのに対し、ガブリエルの姿は中性的に描かれる。だが常に穏和な天使というわけでもなく、「エノク書」などでは槍で武装し、仮借なく敵を討つ戦士として描かれることもある。
★ラファエル★
「癒し」の天使と呼ばれる。
キリスト教世界では守護天使の中の守護天使と考えられ、医学への造詣が深いとされる。天使の中でも明るく穏和な気質を持ち、何も知らない人間と楽しく語り合っていることも多い。正典に名前を残す主要な天使のひとりである。
★ウリエル★
最後の審判の日に黄泉の門を開き、すべての魂を審判の席に座らせる役目を持つ。
宇宙の運行と地球の気象をつかさどるとされ、「太陽の統率者」と呼ばれている。また人間の運命を知ることができる。ノアに洪水が迫っていることを教えたのも彼とされている。
★メタトロン★
「天使の王」の称号を持ち、また巨大な身体の持ち主とされる。
ユダヤ神秘主義の中で重大な位置を占め、「神の代理人」との称号も持つ。大天使長のミカエルをしのぐ天使とも言われる。
メタトロンはエノクがなったとされている。
★ラジエル★
ヘブライ語で「神の秘密」の意味を持つ。
地上と天界の全ての秘密を知り尽くしていて、その秘密をまとめた「ラジエルの書」を書いたとされる。この本は宇宙の謎を千五百項目に渡って記してあるというが、秘密の文字で書かれているため、ほとんど人間はおろか、天使でさえも判別ができないという。
★ラグエル★
アラム語で「神の友」。
天使の善行を監視し、堕落を防ぐ職務を持っている。だが、745年のザカリアス教皇の開いたローマ法王庁の教会会議によって、このラグエルも他の天使たちとともに堕天使とされた。これは当時庶民の間で加熱していた天使信仰を抑えるための処分だったらしい。
★サリエル★
「神の命令」の称号を持ち、人間が過ちを犯さないように監視する役目を持つ。
視線によって相手を傷つけたり病気にかける力「邪視」と関係がある存在とされる。サリエルの加護があればこの力から逃れられるというこから、逆にサリエル自身が邪視の能力を持つ天使であるとされてしまい、サリエルは堕天使の有力な候補になってしまった。
★レミエル★
「神の慈悲」のヘブライ名をもつ。
神からのメッセージを、人間に対して幻視という形でビジュアル化して伝える。ラミエルとも呼ばれ、また堕天使のひとりとしても数えられている。