金曜の物語

 英語の金曜日(Friday)は、北欧神話の愛と美と豊饒の女神フレイア(Freija)から来ています。ローマではローマの愛と美の女神ヴィーナスがあてられ、現在のフランス語の金曜日(Vendredi )の語源ともなっています。また、シュメールの神話でも、金星の神は愛と美と豊饒の女神イナンナ(イシュタル)です。明け方、または日が沈む頃にひときわ輝く金星は、美の象徴と映ったのでしょう。
 ここでは、シュメールに伝わる、イナンナの冥界下りの神話を紹介します。

  ある日イナンナは、姉エレシュキガルが支配する冥界に降りる決心をした(決心をした理由は定かでない)。行く前に小間使いであるインシュブルに、3日経っても戻らないようなら、神々に助けを求めるように言い渡し、王冠や腕飾りなどで身を飾り、冥界に向かった。

 やがて冥界の門に至り、冥界の門番ネティに門を開くように命じる。そこでネティはエレシュキガルに門を開いてもいいかと尋ねた。エレシュキガルは不快な顔をしたが、イナンナが一つの門を通るごとに、身につけていているものを一つずつはぎ取ってから入れてやるように命じた。
 ネテイは言われたとおりに門を開いてイナンナを招き入れる。冥界には7つの門があり、イナンナはその全てを通過したが、通過する度に身につけているものをはぎ取られ、最後の門を通過したときには素裸になってしまう。
 やがてイナンナは玉座に座ったエレシュキガルのもとに通される。そこには冥界の裁判官である7人の神がいた。7人の神々はイナンナに死刑の判決を言い渡す。冥界の掟を破ったためである。エレシュキガルが睨むと、イナンナは死体となり果て、釘に掛けてつり下げられる。

 イナンナが3日経っても帰ってこないので、小間使いであるインシュブルは神々に助けを求めた。だが、神々はイナンナが冥界の掟を破ったことを非難して助けようとしなかった。しかし、その中でもエンキ神だけはイナンナの救助に乗り出した。彼は爪からクルガルラ、ガラトゥルという2人の神官を造りだし、生命の食物、水を与え、冥界に遣わした。これらのおかげでイナンナは再び生命を得ることができたのである。
 だが、彼女が再び地上に戻るには、誰か代わりのものをひとり冥界に渡さなければならない。イナンナは、2人の亡霊を連れて代わりのものを探すために地上へ行くことになった。

 地上に戻ったイナンナたちがやがてクラブという場所を訪ねたときのことである。そこには夫のドゥムジがいた。ドゥムジは喪服の替わりに立派な服に身を包み楽しそうに遊んでいたのである。イナンナはそれを見て腹を立て、ドゥムジを冥界に連れて行くよう叫んでしまった。
 
この後は、ドゥムジを助けるため、ドゥムジの姉のゲシュティアンナが冥界に下り、冥界に留まる期間を半年ずつドゥムジと分け合ったという話、あるいはドゥムジが冥界の神として認められたという話があるが、定かではない。

 

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 イナンナは、後にアッシリアの戦争神イシュタルに吸収・合併され、同一の神とされます。イシュタルは次第にその勢力を拡大し、バビロニアの聖典では、「世界の光」「万軍を率いるもの」「正義の判事」「律法を定めるもの」「女神の中の女神」など、多くの称号をもらうこととなりますが、後年、キリスト教徒からは、「大淫婦」と、魔女にも等しい憎悪をうけることになります。
 また、イシュタルとは無関係ですが、キリスト教において「悪魔の王」とされるルシファー。この名前は、「光をもたらす者」のラテン語で「明けの明星(金星)」の意味を持っています。キリスト教の伝承によればルシファーは元々神の右側に座ることを許された、最も信頼された大天使だったとのことです。彼は輝かしいほどの美貌と、神すらも一目置くほどの知力を持っていたとのことです。
 ―美しさと魔性。金星の伝説にはその両面があります。