浮世絵は江戸の人たちにとって、決して手の届かない、高嶺の花などではなかった。むしろ、日用品として意識されていたものである。ある時は扇や団扇の紙の張り替えに使われたし、子供の双六として作られたものもあった。中には凧を作るために使われたのもあったかもしれないし、もしかしたら、破れたふすまの穴をふさぐためなんかにも使われたのかもしれない。
当時の人たちは、こんな絵を買って家に飾った。買って帰った先は広い家ばかりではない。当時は一間しかない家に家族が住んでいるのが当たり前の時代である。そんな人たちも、いや、そんな人たちだからこそ、こういう絵を求めたのだろう。狭いながらも絵が飾ってある家。当時、世界のどこに庶民までもが普通に絵を飾ってある国があっただろうか?
江戸時代というのは、封建社会で身分制度があり、何となく暗い時代だというイメージがある。しかし、江戸の人たちは、毎日の生活の中で、思っていたよりずっと心豊かに暮らしていたのではないか。浮世絵を見ていて僕はそう思う。
2006年5月6日