機上の空論

号外   2002.05.25.中華航空機事故検証

 

 事故発生から5日を経て、報道されてきた概要を振り返り事故の状況を検証してみる。主に朝日新聞(千葉県八千代市に配達された版)の報道に基づき、TVの報道を参考にしていることを、予めお断りする。

 

1. 事故の概要

 5月25日15:08(日本時間16:08。以下全て現地時時間を用いる。)乗員・乗客225名を乗せ台北を離陸した、香港行きCI611便(B747−200)の機影が、同28分03秒にレーダーから消える。同29分に管制センターから呼びかけるも応答なし。救難信号もなかったようである。(近くを飛行していたキャセイ航空機が、トラブル発生の信号を受信したとの初期報道もある。)墜落現場は澎湖諸島北西10海里の海上と見られている。

 現場の海面には、機体の残骸や救命胴衣のほか、大量の油が浮んでいる。収容された遺体には、火傷の跡はほとんど見られず、前身骨折などが目立っているという。

 離陸後、台北との交信は4回あり、最後の交信は同16分30秒に、3万5千ftを維持する旨の報告が行われた。いずれの交信でも異状を示すものはなかった。

 「機体は四つに分解し、そのうち三つは香港方面へ、一つは逆方向に落ちていった」との、レーダー記録を分析した専門家の話が伝えられている。

 墜落現場から東に約70km離れた台湾中西部の彰化県では、血痕のついた座席の頭部カバー、書類、機内誌の切れ端、防火綿などが、25日午後から26日朝にかけて広範囲で見つかっている。墜落現場上空では比較的強い西風が吹いていたため、風に乗って飛来したものと見られている。

 

2. 疑問点

 報道に接して先ず疑問に思ったのは、「空中分解した機体の一つが逆方向に落ちた」ことである。物体には慣性があり、その運動を維持しようとするはずである。単なる空中分解だけならば、徐々に速度を落とすにせよ、かなりの高速で進行方向を維持する。逆方向へ向かうためには、その塊が非常に大きな逆方向の力を受けたことになる。残骸などに焼けた跡がないことから、爆発による力を受けたとは考え難い。また機内の与圧で機体が破裂したとしても、時速約900kmの速度を瞬時に反対方向の速度に変えるほどの力があるとは思えない。

 軽いものが中心であるとはいえ、70kmも離れたところに客室内のものが風に運ばれるのかも疑問である。TVで見た映像には厚みのある冊子物が含まれていたよう記憶しているが、これは曖昧である。記憶が正しければ、疑問は深まる。因みに新聞の天気図によれば、25日の06:00及び18:00(いずれも日本時間)は台北で東風である。

 

3. 分裂した機体が逆方向に進む仮説

 先ず考えられるのが、相当な速度と質量を(あるいは推力も)もった物体が逆方向から衝突したことである。この説で、空中分解の理由も説明できる。

 事実隕石衝突説も現地ではあるらしい。隕石の速度は見当がつかないので否定も肯定もできない。ただ、レーダーに何らかの反応があると思われるので、その情報がない以上除外しておくべきであろう。

 ミサイルが当ったことも考えられる。破裂する弾頭が入っていなくとも、その速度と質量に加えて推力を持っていることから有力な仮説となる。事実、中国が近くで軍事演習中であったとの報道もある。しかし、中国側がミサイルの発射を否定している上、これもレーダーに何らかの反応があると思われるので、この説も除外して考えよう。

 では、分裂した機体が逆方向に進むことはありえないのか。ここで一旦思考が行き詰まった。逆方向に進んだように見えただけかもしれないし、また、誤報の可能性もある。そこでもう一度頭を空にして記事を読むと、「香港方面と逆方向」とある。当該機が何らかの理由で旋回していれば、「慣性の法則」を破ることにはならない。

 このように考えると、理由は分らないが、当該機が「きりもみ」していたのではないかと思えてくる。回転している物体の一部が離れた(千切れた)場合、回転円の接線方向に飛んで行く。香港と逆方向に回転方向が向いたときに分解したとすれば、その部分は本来の進行方向と逆方向に落ちる。これで一応説明がつく。

 

4. 「きりもみ」説から全体像を見る

 もし何らかの理由で当該機が「きりもみ」に入ったとすれば、機体の一部が逆方向に進んだことばかりか、空中分解した理由も説明できる。旋回半径が小さいほど大きな力を受けるからである。伝えられているような、単なる金属疲労による空中分解ではなさそうである。

 しかし、疑問は残る。まず「きりもみ」で、B747が分解するのか。ここは正直分らない。データ不足もさることながら、応力計算などは私の手に余る。1983年9月、ミサイルで尾部を破壊された同型機は、最終的に「きりもみ」で海面に激突したと思われるが、途中で更に幾つかの塊に分裂したかどうかは、聞いたことがない。この事件関連の書籍は多く読んだが、分裂していないような印象がある。ただ、同じ中華航空のB747SPがサンフランシスコ沖で、「きりもみ」には入りほぼ垂直に落下した事故の分析では、「在来型のB747なら分解していたであろう」との記述があったように記憶している。

 また、何故「きりもみ」に入ったのかについては、現在の限られた情報では推測すらできない。

 台湾本島で落下物が見つかったことを考えると、推定されるより早い時点で何らかの異状があったのかもしれない。当該機の飛行時間は20分であり、最後の交信は離陸8分後である。飛行の半分以上、すなわち後半12分の様子は地上には一切伝わっていない。

 今後の調査の進行とともに事故の詳細が明らかにされ、今後の事故防止に役立つよう願っている。

 

 以上は、現時点での、しかも報道によるという、限られた情報の中で全体像の整合性を考察したものである。報道されている事柄が「事実」であるとの前提に立つ仮説であることを、念の為に断っておく。

 

 末筆ながら、この事故の犠牲者の方々のご冥福をお祈りします。

(2002年5月30日記)

 

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