機上の空論

動力飛行100周年に寄せて

 

今から100年前、米国ノースカロライナ州キティーホークでライト兄弟が人類初の動力有人飛行をしました。1903年12月17日午前10時35分のことです。この100年間の航空機の発達には目を見張るものがあります。毎日沢山の乗客を乗せて何百機もの旅客機が、高速で大陸間を当然のように飛び交っています。戦闘機は、これまた当然のように音より速く飛んでいます。更に人工の物体が太陽系を離れようともしています。これらはすべて、あの大きな凧のような「フライヤー」の僅か12秒・36.5m(120ft)の飛行から始まりました。

この進化を促したものは何だったのでしょうか。それは一言で言えば、「より遠くへ、より力強く、より速く」の追求でした。100年の間に様々な創意工夫が積み重ねられて、ライト兄弟が飛んだ時には想像もつかなかったであろうことが次々と実現して行きました。機体の外観も、それに伴ってより美しく洗練されてきています。「美しい機体は性能がよい」との言葉があるように、100年の進歩は外観の「美的な追求」とも言えそうです。

しかし、今は少し流れが変って来ているのかもしれません。そう感じさせたのが、B-2やF-117といったステルス機の出現です。飛ぶのが不思議なくらいの、はっきり言って非常にグロテスクな外観をしています。これらの機種の性能については今後の歴史が評価することですので、今は何と言えませんが・・・ ただ、ステルス機の登場は、「推力と強度と制御」の3要素が揃えば「どんな形をしていても飛べる」ということを教えてくれました。

この観点に立てば、大推力大型エンジンの開発、複合素材の導入、そしてアド・テク機の登場という最近の流れが掴めます。3要素それぞれが研ぎ澄まされて行く過程を、我々は目撃しているのです。

その結果、先に述べた3つの追求目標のうち、「より速く」が欠落し始めているようです。民間機では唯一の超音速旅客機コンコルドが、今年退役したのも象徴的です。軍用機については、冷戦終結でほとんどの国が軍事予算を削減し、また「唯一の超大国」と通常兵器で鎬を削る勢力も現れそうにありません。「より速く」に取って代ったのが、「より安く」の流れです。すなわち、「ほぼ同じ速度で飛ぶなら、同じ量の燃料でより遠くに飛ぶ」ということの追求に代わって来ています。

今のところ「より遠くへ、より力強く、より安く」は、特に民間機において、互いに補完しあっており、矛盾を生じていません。強力なエンジンが開発され、その推力を過剰な速度の追求には向けず、むしろペイロードの増大や航続距離の延長に向けているからです。また、航続距離が延びることで途中経由の必要がなくなり、「より速く」も併せて達成されています。

この傾向は当分の間続くことでしょう。これは環境の視点からすれば喜ばしいことです。しかし、地球上の何処へも無着陸で到達できるようになれば、再び「より速く」が追及されることでしょう。ただ、その時は「単葉」革命・「ジェット」革命に続く第3の革命として、燃料が石油から別のものに替わっていると思われます。それが何時のことかは、神ならざる身では分りません。

 

最後に手元にある限られた画像で、大胆にも100年の歴史を振り返ってみましょう。

 

全てはここから始まった
ライト・フライヤー(レプリカ)

小さな一歩でしたが、大きな飛躍に繋がりました。

 

「より遠くへ、より力強く、より速く」
上左より時計回りに

エアバス A340-600
アントノフ 124
ロッキード SR-71

それぞれ順に、上の目標を極めました。

 

レシプロ機の変遷
上左より時計回りに

デハヴィランド タイガーモス
デハヴィランド ドラゴン・ラピード
ダグラス DC-3

複葉から単葉へ。
尾輪式が主流の時代がありました。

 

ジェット化のパイオニア

ロッキード T-33                  デハヴィランド コメット

尾翼翼を見ると、両機ともプロペラ時代を引き摺っているかのように見えます。
また両機とも搭載エンジンは遠心式で、現在主流の軸流式ではありません。

 

戦闘機の変遷

富士 T-1 練習機

戦闘機ではありませんが、時代を示しています。音速の壁が立ちはだかっていました。

マクダネル・ダグラス F-15

現時点で究極の戦闘機です。音速の2倍を軽く超えてしまいます。

 

アド・テク旅客機
ボーイング 767-200(左)
 アド・テク機の嚆矢です。

マクダネル・ダグラス DC-10(下左)
マクダネル・ダグラス MD-11(下右)
 コンピューターで、静的に不安定な機体も制御できるようになりました。水平尾翼の大きさに注目してください

(2003.12.17. 記)

 

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