コンコルド搭乗ノート    再び

 2003年8月13日、平たく言えばコンコルド搭乗の翌日、再びコンコルドに乗ることが出来た。とは言え、超音速で飛んだ訳ではない。ロンドン北方にあるダクスフォード・帝国戦争博物館 (The imperial War Museum Duxford) を訪れたのである。英国機が好きな私にとっては、是非とも行きたかった場所である。その名が示す通り英国軍が使用した航空機を中心に展示がある。しかし民間機も何機か展示されており、その目玉がコンコルドである。

 コンコルドは入り口のある1番館 (Hanger1) に鎮座している。因みにこの博物館では、8つの展示館がある。中に入ると、すぐにコンコルドが目に飛び込んで来るが、広い展示場に所狭しと、往年の名機が軍民問わずひしめき合っている。民間機では、コメット4とダブ、軍用機では、ランカスター爆撃機、モスキートといった大戦機の他、バルカン爆撃機、ヴィクター爆撃機(給油機)、ハリアー、トルネードなどなど圧倒される展示である。何故かMig21まで展示されているのには笑った。3番館には、ミーティア、シーヴィクセン、ハンター、ヴァンパイアー、ライトニングなど憧れの英国製ジェット機が並んでいたが、その頃には、もう頭がクラクラしてしまい、写真を撮る気力も失せてしまっていた。今から考えるともったいない話だが、見る機体見る機体感激していては身がもたないほどの展示内容である。寝不足と暑さで、体調はあまり良くなかったのかもしれない。もう一度訪れる機会があれば、是非とも体調を万全に整えてからにしたいものだ。

 前日の晩は、コンコルド搭乗の余韻と暑さでなかなか寝付けなかった。冷房のない煉瓦造りの建物には、この夏の熱波は厳しかったようだ。それでも、4時間は眠れたか。6時前に目が醒め、8時ごろにホテルを出た。地下鉄でユーストン駅に向かう。ケンブリッジ行きの列車に乗るためである。切符を買う段になって、ケンブリッジ行きの列車はここではなく、キングスクロス駅から出ると知らされる。歩いて300mほどのところにその駅はある。ケンブリッジまで小一時間列車に揺られる。ケンブリッジの駅前空無料のバスが出ているが、出発まで40分ほどの時間があった。暫く駅周辺をぶらぶらし、時間を潰さなければならなかった。バスは途中市内のホテルにより、博物館までは25分ほどかかった。

 さて、話を戻そう。展示されているのは、コンコルドとして生産された3番機、量産先行型1号機のG-AXDNである。ガイドブックによると、1971年に初飛行し、その後5年にわたり12トンの試験用機材を抱え飛行したとのこと。209時間の超音速飛行実験が行われ、構造と飛行特性の計測に使われたそうである。うち、マッハ2を越える飛行は170時間。1974年にはマッハ2.23のコンコルド最速を記録している。ブライアン・トラブショー著「コンコルド・プロジェクト」(原書房)によれば、総飛行時間は634時間である。この本にはこの機体で行われた各種試験飛行を含め、その開発経緯が詳しいので一読をお勧めしたい。また、複数の著述に紹介されているが、この機体はこの博物館に自ら飛来している。この博物館は滑走路を持っているのである!ここの1800m滑走路への着陸はコンコルド最短記録である。私が見たところ、滑走路は舗装されてはおらず、芝のようである。実際に芝の上に着陸したのであろうか。

 展示はタラップが付けられ、中に入れるようになっている。タラップを昇ると、左手に操縦室がある。ロープが張ってあり、中には入れないが、覗き込むことは可能だ。前日見た量産機とほとんど変らないが、手前に棚積みされている電子機器の山はスイッチ類がほとんどなく、実にシンプルである。前方の客室は計測計器が付いたテーブルが広がり、実験機であることを思い出させる。天井は配線等が剥き出しになっており、その雰囲気を醸し出している。実験中の様子を示す写真パネルもあり当時の雰囲気に浸ることが出来る。写真を撮ろうかとも思ったが、少し暗いので止める。後方キャビンは客席が並ぶ。窓から翼を撮ろうと思っていたが、こちらもロープが張ってあり、窓に近づけない。監視員もいるので、無茶は出来ない。後方右のドアにタラップが取り付けられており、短い「搭乗」を終える。このタラップからエレボンをはじめ、翼をじっくり観察できる。ただ、エンジンが搭載されておらず、赤い栓がしてあるのが残念である。リヴァーサーに兼ねるバケットを見たかったのであるが・・・

 以下に、同機の写真を示す。量産機との違いを楽しんでいただければ、幸いである。

 

機首を見ると、その絞込みの激しさが分かる。音速を超えるための精悍さを感じる。
操縦席の下にはマッハ2.23記念の塗装がある。帰国後にその意味を知った。もっとアップで撮れれば良かった。
下から機首を望む。両脇についた整流板(「ひげ」と呼ばれている)は意外と大きい。
操縦室。量産機とあまり変らない。ただ、手前に積まれた電子機器の外観がかなり違っている。
「搭乗タラップ」より左翼を望む。前縁に付けられた数字が実験機であることを物語る。また、後方翼端の捻り下げが分かる。
同じ左翼を下から見る。こちらはローマ数字で番号がふられている。
「出口タラップ」より右翼を望む。エンジンは取り外されており、少し味気ない光景。しかし、翼面の広さを実感できる。
全体像。「搭乗タラップ」に遮られ、またも機首が見えない。結局まともなコンコルドの姿は撮影できなかった。

翼の形状がよく分かるのが救い。下げられたエレボンが、その存在感を示す。

垂直尾翼後方のテールコーンが、量産機より短い。また、テール・バンパーも車輪ではなく板状になっている。試作機から量産機へ向かう過程を示す、貴重な資料である。
音速を超える原動力、オリンパス・エンジン。バイパス比の高いターボファンエンジンを見慣れた目には、小さく感じる。

(2003.09.08. 記)

 

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