2002年11月28日、ケニアのモンバサ空港離陸直後のイスラエル・アルキア航空機に対して、旧ソ連製の携帯式SA−7ミサイルが発射された事件がありました。その直後に、ミサイル攻撃を探知し機体を自動制御して攻撃をかわす「回避装置」が搭載されていたとの情報が飛び交ったのは記憶に新しいところです。
当HPの掲示板でも、12月1日02時37分24秒付けで以下のように、論じました。なお、ここでは、ミサイルを回避するために「機体を自動制御する装置」を前提にしています。
◎使用されたミサイル
報道された映像から見ると、旧ソ連製の携帯式SA−7と思われます。実用段階に入ってのは1972年で、赤外線ホーイングで誘導されます。赤外線シーカーは冷却できず「視界」が広いため、標的以外の熱源(例えば太陽)に向かって誘導される可能性が非常に高くなっています。ミサイル飛翔方向から20度以内に太陽があれば、太陽の方向に飛翔すると言う代物です。1973年の第4次中東戦争で、アラブ軍はイスラエル軍機に対して5000発ほど発射したのですが、完全に撃破したのはたった2機で、小破したのは30機あまりという程度の命中率です。
◎どうミサイルを探知するか
携帯式なのでレーダー照準などは無く、ロックオンはできません。従って、レーダー波などの受信からミサイル攻撃を探知することはできません。機上のレーダーで向かってくるミサイルの探知はどうでしょうか?普通旅客機には機首にレーダーがついていますが、前方しか探知できません。赤外線ホーミング・ミサイルの場合、通常は後方から攻撃するので機体下部などにレーダーをつけなければなりません。そうすると、機体重量が増し、貨物室や燃料タンクの容積に制限を受けます。また、外部からその装置が見えるはずです。今のところ変な突起などが、当該機にあったという情報はありません。
◎レーダーがあったとして、どう機体を制御するか
当該機はB757で初期のハイテク機ではありますが、常時コンピューターが飛行を制御するA320以降の機体とは異なります。緊急時に自動的に機体を制御することができるのでしょうか?
◎そして、とどめの論拠
そのような装置があれば先ずは軍用機に装備されるはずですが、そのような話は、寡聞にして聞いたことがありません。
これを書いた直後、12月1日付の朝日新聞朝刊が、イスラエル運輸省の航空保安担当幹部が「2年前から地対空ミサイル『回避装置の開発』を進めていることを認め」、同国治安筋が「一部のイスラエル航空機が尾翼付近に『ミサイル探知装置』を積んでいると語った」と報じました。それを受けて、掲示板へ同日19時05分33秒付けで次のように書きました。ここでも、「機体を自動制御する装置」を前提としています。
微妙な言い回しの違いに注目すると、どうやら「探知装置」は既に搭載しており、「回避装置」は未だ開発中ということではないかと思います。
「探知装置」とは想像するに、ロックオン警報装置(映画「トップガン」などでお馴染と思います。レーダー照射が一定時間以上固定されると警報が鳴る装置です。)のことではないでしょうか。これなら、トランスポンダーを少し改良するだけで済みますし、外見上の変化は見られないことでしょう。
これに連動した「回避装置(機体が自動的に回避行動をとる)」となると、先にも書きましたが、A320以降の常時コンピューター管理化にある機体でないと上手く行かないのではないでしょうか。今のところボーイングべったりのイスラエル民間航空ですが、これがエアバスにシフトしたときには、その存在が感じられるかも知れません。ただ、最大の援助国である米国との政治的な問題もあると思いますが。
さて、今回の「噂」は次のような経緯で考え出されたのではないでしょうか。
1. 地対空ミサイルなら後方から発射される
2. それをアルキア機は察知して回避した
3. 通常B757の操縦席からは後方は見られない
4. それゆえ、何らかの特別な装置が搭載されていた
こんなところではないでしょうか。
ところが、英BBCのHPをみたところ、「自動操縦を前提にしない」回避装置の存在に気付きました。同月3日01時35分49秒付けの書き込みは以下のようになっています。
”BBC NEWS”に面白いことが書かれていました。エルアル機には「赤外線システム」が搭載されており、赤外線ホーミングの照準をかわすというのです。かつて北アイルランドで英軍機が使用していたとのこと。
詳細は良くは分りませんが、想像するに、複数の赤外線放射装置があり、機体をかわす位置で交差する(焦点を結ぶ)というような装置なのではないかと思います。これを読む前は、そこまでは考えつかなかった!!でも、どれくらいの重量になるのかは想像できません。また、外見からその装置が分るのか、再びエルアル機の写真を観察してみたいと思います。
その後調べてみたところ、この装置は「赤外線回避装置 (IR jammer)」と呼ばれ、軍用機及びVIP専用機に広く搭載されていることが分りました。基本的な仕組みは、赤外線レーザーを断続的に照射して、ミサイルの赤外線追尾装置を撹乱させるというものです。「この装置自体がミサイルを誘導して仕舞わないのか」など、細かい点で疑問は残っていますが、新聞報道されたイスラエル治安筋が語った「ミサイル回避装置」とは、この類の装置である可能性が高いと思われます。
そこで、手元にあるイスラエル民間機の写真をつぶさに観察したところ、それらしいものを発見しました。それは「世界のエアライン」誌17号の24ページにある、フランクフルト空港で撮影されたエル・アル航空B767のものです。水平尾翼(エレヴェーター)下に、少し細長い赤い点が見られます。何かが反射して映っていたり、あるいは印刷のシミ(汚れ)の可能性もありますが、「赤外線回避装置」である可能性も現段階では捨てきれません。ご覧の皆様のご判断をお聞かせいただければ、ありがたく存じます。 (2003年1月1日 記)