機上の空論

NW52便 ブリュセル誤着事件

 

1995年9月5日、デトロイト発フランクフルト行きのNW52便DC10が、ブリュッセルに誤って着陸した事件がありました。同年10月1日付の「ワシントン・ポスト」が報じ、それを引用する形で同年同月3日付「読売新聞」夕刊でも報道されました。もう7年以上も前の事件で、既に「報告書」も出されているとは思いますが、インターネット上で検索しても「報告書」は見つかりませんでした。そこで、当時この事件について報道されたものを基にして、以下に考察してみます。

先ずは先述の「ワシントン・ポスト」の記事より事件経過をを要約すると、

上記の報道に加え、当時調べたところによると、

この事件の最大のカギは、「シャノンの管制官が何故目的地を変更してしまったのか」にあります。この点を推測してみましょう。

先ず考えられるのは、何らかの理由でハイジャック信号が52便から誤って発信されていたことです。これは52便からの「フランクフルト・アプローチ」との呼び掛けに、ブリュセルが反応しなかった事実からも補強されます。しかし、報道からはその場合の緊迫感が感じられません。また、その場合には、「管制官の行動の理由が不明」と報じられていることと相容れません。

そこで、謎解きのアプローチを変えてみましょう。欧州には大きな空港がいくつもあります。それなのに変更された目的地が、何故「ブリュッセル」だったのでしょうか?何故パリやローマではなかったのでしょうか?

地図で調べてみると、若干のずれはありますが、シャノン、ブリュッセル、フランクフルトはほぼ直線上にあります。もし52便がブリュッセル上空を経てフランクフルトへ向かうルートを飛行していたならば、ブリュッセル以後の航路が何らかの理由でコンピューター上から消去されてしまったことも考えられます。ただ、52便のフライト・プランが分らないのでなんともいえません。また、上記報道が、もっと積極性のある「意図的な目的地の書き換え」を示唆していることから、この消去説も疑問が残ります。

「書き換え」という視点から両都市の綴りを見ると、それぞれ Brussels(仏語ではBruxelles)、Frankfurt です。共通点と言えば、仏語標記の場合9文字であること、2番目の文字が "r" であることくらいです。これでは間違えようがないと思います。

しかし、この共通点が示唆に富んでおり、意外な仮説を生んでくれました。もしコンピューター上の目的地が3レターコードで示されいたならば、次のようにフランクフルトをブリュッセルに変更することは可能かもしれません。

3レターコードにすると、両都市はそれぞれBRU、FRAとなります。もしデトロイトが提出したフライトプランが誤って、目的地をBRAとしていたならば、どうなるでしょうか?キーボード操作に慣れた者なら、BもFも左手人差し指で押します。押し間違える可能性は高いと思います。次に「目的地 BRA」を見たシャノンの管制官はどう反応するでしょうか?BRAは欧州には存在しません。BRUの間違いだと思って、そのように訂正するのではないかと思います。FRAの間違いとは思わないでしょう。実際、何人かを相手に以下のような実験をしてみました。(被験者は航空知識に乏しい人ばかりですが)

欧州の主要空港の3レターコード紙に書いて示し、BRAはどれと間違えたものかを問いました。紙には

FBU ARN HEL
CPH HAM FRA
LHR BRU AMS
CDG ZCH VIE
LIS MAD FCO

と記してありました。結果は全員が全員、BRUを指摘し、FRAを指摘した者は皆無でした。

残念ながら、管制コンピューター上で3レターコードが用いられているか否かの確認はとれていません。しかし、私はこの「BRA誤記説」を有力視しています。識者諸氏のご批判をお願いしつつ、この稿を閉じます。

(2003年1月2日 記)

 

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