機上の空論

アエロフロート   機内食

 

 アエロフロートは、機内食についても評判はあまり芳しくはありませんでした。「西側の空港を発つときは、現地のケータリングを利用するのでまずまずだが、ソ連発では口に合わない」などと囁かれるのをよく耳にしたものです。私は何でも食べられるとの特技(?)があるので、そんな偏見に惑わされることはなく全て平らげました。エコノミークラスではどの航空会社でも似たり寄ったりだと思っています。正直言って、どんな航空会社でも印象に残るような美味い機内食にはお目にかかっていません。前置きが長くなってしまいましたが、アエロフロートでの機内食についての思い出を綴ってみましょう。

 初めての機内食はコペンハーゲンからレニングラード(現サンクト・ペテルブルグ)へ飛んだときのことです。印象はほとんどありません。デンマークのケータリング会社からのコールドミールでした。初のソ連ケータリングはモスクワ発ストックホルム行きの機上でです。その時に出たキャビアが美味かったことは忘れられません。エコノミーででもキャビアが出たのです!とは言っても小匙三分の一位ですが。しかもそのキャビアは今まで食べた中で最高の味でした。粒はそれ程大きくはないのですが、とろりとした舌触りがなんとも言い難いものでした。多分機内の低い気圧のせいで膨らんだり、一部は外皮が少し破れていたためではないかと思います。とにかく絶品でした。この時他に何が出たかは全く記憶がありません。

 1988年3月、国内線でモスクワ・ドモジェドヴォからハバロフスクへ向かうIl-62の機上では、骨付きの鶏の腿肉が出ました。ロシアでは鶏肉が最高のご馳走なのです。長距離国内線ではよく鶏肉が出るそうです。味については全く記憶がないので美味くも不味くもなかったのでしょう。印象深いのは狭い機内で、しかも両脇を他の乗客に挟まれて、ナイフとフォークで骨付きの肉を食べる苦労です。他の乗客は手で掴んでかぶりついていましたが、私は意地でナイフとフォークを両肘を狭めて使いました。これが結構シンドかった!それでもきれいに平らげるととなりのロシア人乗客が驚嘆の目で見ていました。

    

 極めつけは、1988年3月ハバロフスク−モスクワ線でのことです。何と機内食のトレーにティーバッグ(上左)と袋詰のインスタントコーヒー(上右)が乗っていました。食事中に乗務員が白湯を注いで廻るのです。一種類のポットだけで済む、非常に合理的なこのサーヴィスに感銘を受けました。機内でティーバッグやインスタントコーヒーが出たのはこれが最初にして最後です。他の航空会社でインスタントコーヒーが配られた経験をお持ちの方がいらしたらご一報ください。この時はネスカフェゴールドブレンドを持っていましたので周りにも振舞い、乗務員の方の仕事を増やしてしまいました。

 国内線では長距離路線でもアルコール類はサーヴィスされなかったと記憶しています。国際線ではウォッカ(!)やビールのほか、アルメニアのコニャックなどを有料でサーヴィスしていました。ビールは出発地で積むらしく、成田発ではサントリー生、ベルリン発ではなぜかフランス製の缶ビールがサーヴィスされました。また、グルジアのワインやロシアのシャンペンを無料でサーヴィスすることもありました。

 でもやはりロシアと言えばウォッカでしょう。ストレ−トで一気に流し込めば、ロシア気分を満喫できます。ザ・ズダローヴィエ!−乾杯!この言葉は直訳すると「健康のために」なんですよ。何年か前に(ソ連崩壊後)アエロフロートの広告を見たときに、酒類の写真が出ていました。そこに写っていたウォッカはロシア製ではなく何とアメリカ製のスミルノフでした。ロシア人はここまで自信を喪っていたのか、と痛ましい思いで見ました。

 1991年4月に、モスクワから成田へ飛んだときに、小さな事件が起きました。食後トレーが片付けられるとき、ある乗客に乗務員が大声で何か叫びました。良く聴いてみると、「みやげ物ではないので返してください」と言っています。どうやらアエロフロートのマークが入った金属製のナイフとフォークを仕舞い込んだ乗客がいたようです。(私じゃありませんよ。ごみになるプラスチック製のものは頂きますが金属製のものは失敬したことはありません。マニアの皆さん、コレクションは節度を持って集めましょう。)

 最後に私のコレクションから3品をご紹介しましょう。

  1990年3月
成田−モスクワ線で配られたメニューの表紙
(余白は編集で削った)

エコノミークラスでも配布された。
中は日・英・露の三ヶ国語で書かれている。

     
  国内線で甘い固焼きのパンが乗っていた紙

ちゃんと記章が入ってる。

     
  国内線でパンの入っていた袋
厚手のビニール製 

ロゴは古い時代のものらしい。
描かれている双発プロペラ機は
翼の形や水平尾翼の位置からいって、Il-14。

レトロ感覚で楽しんでいるのか、
単に硬直した体制のせいなのかは不明。

 

機上の空論 目次へ