機上の空論

何でこうなるの   飯は !?

 

 飛行中の楽しみの一つに機内食があります。エコノミークラスでは飛び抜けて美味というものにはお目にかかることはないと思いますが、かといって出てくる物はそう悪くもありません。機内で食い逸れたことはありませんが、予期していたよりも配られるのが遅くなったことが二度あります。これらの経験について書いてみましょう。そのときの様子をよりリアルに思い浮かべて頂くために、航空会社名をそのまま記します。読んでいただければお分かりになると思いますが、関係する航空会社には何の落ち度もなく、筆者には、我が身に降りかかった笑えるエピソードの提供以外、一切他意はありません。実際に同様なことはどの航空会社ででも起こり得ることですし、第一何の損害もなかったわけですから。

 1989年6月、成田からロス・アンジェルスへ向かうノースウエスト機上、通路側の席にいました。午後4時過ぎに離陸し、2時間と少しが経った頃、機内食のサーヴィスが始まりました。シートベルトサインは離陸後点きっ放しです。夏の太平洋上空は気流の悪さで悪名を轟かせています。順調に配膳されカートの先端が私の席にかかったところで、機体は酷く揺れ始めました。人や物が天井まで浮き上がるほどのタービュランスではないのですが、危険を察知した客室乗務員はサーヴィスを一時中断して様子を見るようです。そして私にカートを抑えているように依頼しました。2〜3分ほどそのままでいたでしょうか。いくらか弱まったとは言え、揺れはまだ続いています。このままでは危険との判断が下され、カートはギャレーへと引き揚げて行きました。その後約30分揺れの波状攻撃が続き、ベルトサインが消えミールサーヴィスが再開されたのは45分後くらいです。やっとありついた機内食は3分ほどで平らげました。大きな揺れが来ると危険ですし、何より折角の料理が天井まで吹き飛ばされて食い逸れるのは嫌ですから。その後同機は太平洋の気流に幾度かもまれながらも無事ロス・アンジェルスに着陸しました。目出度し、目出度し。

 1991年1月コペンハーゲンから休暇で、成田に飛びました。今回はロンドン経由で英国航空です。その夏イラクがクウェートに侵攻し、湾岸戦争直前の時期です。最後の外交交渉がジュネーヴなどで持たれていましたが、決裂したばかりでした。そんな国際情勢は他所に、小雪の舞うコペンハーゲン・カストラップ空港はいつもの華やいだ雰囲気に包まれていました。午前8時10分発BA803便は手荷物の安全確認や機体の除氷等で20分ほど遅れて出発しましたが、ヒースロー到着は定刻でした。これからが大変です。成田行きのBA007便の出発のロンドン時間午後2時半(コペンより1時間遅れ)まで5時間以上あります。空港内をぶらぶらして時間を潰しているとだんだん空腹を覚えてきました。朝食は機内で済ませたのですがやはり昼食の時間です。定刻に飛んだとして機内での食事が離陸後1時間に出されれば、昼食はコペン時間の午後4時半となります。少し考えましたが、12時間運動もしなくなるので、空港では何も食べないでいることにしました。いよいよ搭乗の時間となり、指定された通路側の席に着きました。出発予定時刻が少し過ぎた頃、機長からのアナウンスが入り、「搭乗手続きをした人数と実際に搭乗している人数が違うため、安全を期して確認が取れるまで出発を控える」と通告されました。「早くしてくれ!腹減ってんだから!」と叫びたいのをぐっと抑え出発を待っていました。すると今度は何処かのツアー御一行様が、席が気に入らないから変えろなどと騒ぎ始めました。添乗員さんがツアー客内で調整していますが、いかんせんほぼ満席の機内では全員を満足させるには至らず悪戦苦闘しています。出発予定時刻から35分が過ぎる頃、搭乗人数の確認が取れ、ドアが閉められたとのアナウンスが入りましたが、先の御一行様はまだ揉めているようです。客室乗務員が間に割って入り何とかエンジンスタート。予定より40分遅れの出発となりました。

 BA007便は無事離陸し、成田へ向けてどんどん高度を上げて行きます。巡航に移るとドリンクサーヴィスがあり、そしてお待ちかねのミールサーヴィスです。乗務員が機内食の入ったカートを押してこちらに向かってきます。何と神々しい姿なのでしょうか。私のすぐ横に機内で一番の美形乗務員が立ち止まりました。「これはツイている。すぐに食事にありつける上に、こんな美人にサーヴィスしてもらえるとは!」と思ったら、彼女は何と、私のすぐ後ろの列から配膳を始めたのです。つまり私の席はサーヴィスセクションの最後列で、機内で一番空腹を覚えている(と自分勝手に考えている)私には、機内で最後に配膳されることとなったのです。ツキの無い時には徹底してツイていないのですね。私のセクションのカートは遥か彼方に霞んでいました。

 ここでの教訓 1. 空腹では搭乗しない。
          2. 真っ先に配膳される席を指定する。

 以上。お後がよろしいようで・・・

 

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