機上の空論

何でこうなるの   セキュリティーチェック

 

 搭乗手続きを済ませ搭乗口へ向かう途中には、ハイジャック防止のセキュリティーチェックがあります。金属探知をするゲートをくぐり、同時に手荷物の検査を受けなければなりません。

 身体検査用ゲートの感度は空港によってばらつきがあるようです。私自身相性の良い空港と悪い空港があります。特に相性が悪いのは、成田とストックホルム・アーランダ空港のものです。「何でこうなるの?」と思うくらいの相性の悪さです。正確に統計を採っているのではありませんが、引っかからずに抜けた記憶はあまりありません。大概の場合ベルトのバックルや胸に挿したペンが反応するようですが、ゲートを通り抜けた途端にチャイムが鳴るのは気持ちが良いものではありません。潜在的なハイジャック犯として疑われているのですから。でも野暮なことを言うのはやめましょう。このチェックが安全な空の旅を支えているのです。

 手荷物の検査も曲者です。こちらの方はあまり引っかかったことはないのですが、金賢姫事件やロッカビー爆破事件の直後では電化製品の検査が厳しかったと記憶しています。電化製品の有無を問われ、実物を検査官に見せることを何度か求められました。金賢姫事件直後に新潟空港で手荷物スキャンに引っかかりました。手荷物の中に、その事件で起爆装置に使われたものと類似のラジオがあったからです。検査官に「何処かで見たラジオですね」と声をかけると苦笑していました。このラジオはその後も各空港の検査官とのコミュニケーションに役立ちました。ベルリン・テーゲル空港の検査官はなかなか粋な対応をしてくれました。曰く、「良いラジオだね〜。音楽が聴きたいんだ。ちょっと聴かせてくれるかな?」と電源を入れるように求めてきたのです。吹き出しそうになるのを抑えて、「ごめんなさい。ニュースしか入らないんだけど・・・」と応じてスイッチを入れたところ、電波がターミナル内に届かないのか雑音しか入りません。二人で大笑いとなりました。

 湾岸危機の時は、検査の後搭乗口でも「電化製品や武器になるもの」の有無をよく問われました。全ての乗客に対してではなく、抜き取り検査的に尋ねるのですが、私は毎回訊かれていました。余程テロリスト面に見えたのでしょうか。多少頭にきたので、「武器になるもの」を問われたら、「あるよ」と応じて喫煙用のライターを見せることにしました。係員の顔が一瞬歪み、その後安堵の表情を見せるのを楽しませていただきました。係員もこちらのジョークと取り、笑いながら「良い旅を!」等と応じてくれました。(話は逸れますが、私自身では一見芸術家タイプと思っています。1986年6月、丁度チャイコフスキーコンクール開催中のモスクワでのことです。ホテルのエレベーターで乗り合わせた品の良いロシア人が英語で「君もコンクールに出るのか」と尋ねてきました。話を聞くと審査員の一人でした。それ以来自分では見た目は一流の芸術家だと信じています。)

 最後にアーランダ空港での出来事を一つ。手荷物のスキャンが終わったところ検査官が、「鞄の中に金属製のものが入っているが、何か?」と尋ねてきました。余程強い金属反応があったのでしょう。こちらも即座に「ナイフ」と答えたところ、その検査官は多少青ざめて見せるように求めてきました。こちらは何故そんなに過敏に反応するのかと訝りながら、ぎっしり詰め込んだ鞄の底を探りました。悪戦苦闘してやっと取り出した「ナイフ」を見て、鋭い視線で私の動作を監視していた検査官は大笑いし、「OK!OK!」と私の肩をたたきました。その時私が握っていたものは、剥き出しの「ナイフ」とフォークとスプーンのセットだったのです。

 何はともあれ、日々安全な飛行のために頑張っておられる方々に感謝と敬意を表します。

 

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