「You ! See ! Me !」〜ジャズピアニスト 深澤芳美 〜
ディキシーランド・ジャズなどを演奏する四弦バンジョー。
明るい音色で聞く人をウキウキさせてしまうアメリカ生まれの楽器です。
そんな楽器をカリフォルニアで四十年近く指導して、
オクラホマの「四弦バンジョー・ミュージアム」に殿堂入りまで果たした日本人がいます。
チャーリー・タガワの名で親しまれている東京下町生まれの田川善三さんです。
私が田川さんに初めて会ったのは六年前、サンノゼ近郊のホテルでのコンサートの時でした。
日本から参加した私と友人を人なつっこい笑顔で迎えてくれた彼は、住み慣れた町を案内しながら
「ここでは、まず自分をアピールする事。そうしないと日本にいる時と違って、なかなか分かってもらえないよ。」
とアドヴァイスしてくれました。
そのコンサートでは、田川さんと何曲か演奏する事になっていました。
「ハンガリアンダンス」「チェルダッシュ」「剣の舞」などバンジョーのテクニックを駆使した手強い曲ばかりです。
リハーサルはしたのですが、初参加という事もあって、少し緊張したままピアノの前に座り客席を見渡すと、
会場をうめつくした何百人もの人々が、じっとこちらを見つめています。
その雰囲気に圧倒されている私を、田川さんが紹介しました。
(客席を指して)「YOU」(自分の目を指して)「SEE」(私を指して)「ME」。
これで「芳美」という名前をいっぺんでみんなに憶えてもらえました。
そして、こんなユニークな紹介に客席もリラックスして良い雰囲気になり、私も自然に演奏する事が出来、
気がつけば割れんばかりの拍手、スタンディング・オベイションでした。
彼が私に「自分をアピールして分かってもらう」という事の大切さを伝えた訳を、身を持って実感出来たステージでした。
毎年この季節になると、日本に里帰りする田川さん。
確か昭和十年生まれなので、そろそろ七十歳なのですが、相変わらず若々しいGパン姿で元気一杯。
お会いする度に「あなたも、しっかり頑張りなさい」と力強く励まされている私です。
(2004年10月30日の「東京新聞」の朝刊に掲載されました。掲載時のタイトルは「気楽になれた自己アピール」)