『 浅間 』 観劇記

ー池袋サンシャイン劇場ー【2004年4月28日〜29日】

天明3年浅間山が大爆発を起こし、その山麓に程近い鎌原村が一瞬にして火砕流、土石流に飲み込まれてしまった。村民570人のうち、生き残ったのは僅か93人だったと言う。その後、周囲の村を始め多くの人々の協力で復興がなされ、絹織物の発展と共に今の群馬県嬬恋村が存在する。

原作『浅間』はこれらの事実を元に架空の人物を登場させ、立松和平さんが小説にしたものである。それを今年の正月、劇団スケッチ座によりFMラジオで放送した。好評を得て、いよいよ舞台化することになり、4月28日昼公演より池袋サンシャイン劇場で幕が開いた。

では、公演の記憶が薄れないうちに、報告方々ストーリーを辿って行きたいと思います。


原作 立松和平 脚本 津川泉 演出 清水こうせい(劇団スケッチ座)
配役 
ゆい 伊織直加 万次郎 石橋正次 祖母 谷本小代子  岡田東己 すま 神谷萌歌 
和尚 石橋雅史 音七 桑島義明 まつ 清水智子 さき 沢木まゆみ 他

幕が開くと、子供達の歌声が何処からともなく聞こえます。ここは中仙道板鼻宿、夕方になると、ゆい(伊織直加)が『お泊まり下され〜』と慣れない悲愴な声で客引きをする。16歳のゆいは母とばぁちゃんの住む鎌原村から、生活苦の為に3年間の奉公に出されていたのだ。見知らぬ旅人やお侍さんの相手をし、辛い日が続く。昼間は時間があると、裏の蚕屋で一心に蚕の世話をしているまつ姉さんの傍に行って、手伝いながらお蚕さんの成長を見守る。そして、給金を貯めて、自分もいつかはお蚕さんを育てようと決心する。
ふわんとした可愛らしい直ちゃん演じるゆいさんです。日本髪が自然でとても良く似合っています。着物が短くてちょっとツンツルテンだけどね。生活が変化する度に髪型を地味な日本髪にしたり、着物も少し良い物に着替えています。全体的に地味で素朴な衣装だけど、お顔はとても綺麗な直ちゃんです。蚕屋のまつは清水智子さん、はきはきとした台詞まわしで、キリリとした役作りをしています

漸く、ゆいは3年奉公が終わり、貯めた給金で買えるだけの蚕種を買い、まつに別れを告げて、実家のある鎌原村に帰って来る。途中で馬方の音次郎に出会い、荷物を家まで運んでもらう。家では年老いたばぁちゃんと母が「難儀でやんしたなぁ〜」と心から喜び迎えてくれた。
母、岡田東己さんはとても感じ良く演じておられ、ばぁちゃん役の谷本小代子さんもなかなか好感の持てる年寄りで結構受けていましたよ。

ゆいが帰った事を聞きつけた延命寺の和尚さんが尋ねてきた。和尚は19歳になったゆいの縁談を持ってきたのだ。相手は同じ村に住む馬方の音次郎である。
音次郎と夫婦になったゆいは、和尚の計らいで桑の葉や道具を得、一心に蚕を育てます。母とばぁちゃんは野良仕事に精を出し、少しずつ生活が豊かになっていきます。
品の良い和尚は石橋雅史さん、さすがベテランと言える自然な演技で、和尚に成りきっていました。音次郎は石橋正次さん、一頃は映画やテレビで大活躍だったベテランさんですね。純朴で人の良い馬方を演じていました。直ちゃんとは、おままごとみたいな仲良し夫婦でしたよ。(笑)】

板鼻宿で飯盛り女をやっていたゆいを、いつも怪訝そうに見ては意地悪をしていたさきさんが、ある日雪の中で倒れていた。危うく死にそうな所をゆいの家族に助けられた。その日から、さきさんの気持ちが素直になり、ゆいから蚕の育て方を学び、自分も蚕を育てるようになった。繭から糸を引く所などもゆいから教わったりし、ゆいのお産には手助けをした。
さきは沢木まゆみさん、スラッとした背丈で目の大きな人、意地悪をする所など凄みがありました。(笑)

ゆいは娘すまを出産、音次郎は宝物のような妻と娘を馬方仲間と自慢し合い、一家は幸せに包まれていた。
繭を売って、少しずつお金を貯め、もうすぐ娘のすまにも絹のべべを着せられる……。
ゆいの幸せを見て安心したのか、ある日、ばぁちゃんが台所の釜戸近くで仰向けになって亡くなっていた。
子役のすま、神谷萌歌さんはとても可愛らしくて、蛍の歌が印象的です。ばぁちゃんお疲れさまです!

そんな頃、浅間山の小噴火が度々起こっていた。その度に村の衆は恐ろしさに震え、お寺の観音堂に身を寄せては和尚の教えを聞きながらひたすら祈った。お山の爆発がだんだん酷くなり、灰が振り、桑の葉が全部枯れ、やがてはお蚕さんも真っ黒に縮んでしまい、一匹残らず死んでしまった。
田畑は瘠せ、ろくな食べ物がなくなってきた。音次郎は他の村に移り住もうと提案するが、ゆいが断固として反対したので、そこに留まる事にした。

天明3年初夏、ゆい23歳、すまは3歳になっていた。運命の時が来た!
そう、浅間山が最大に怒りを爆発させたのだ!大爆音がして、辺りは真っ暗になり、頭に火鉢やこおり(衣装籠)を被って逃げ惑う人々、ゆいは母やすまの名を呼び続けるが見つからない。あわてて観音堂の石段にしがみ付き、四つん這いになって上がろうとすると、さきさんが姑を背負って、和尚と現れた。手を差し伸べようとしたが、一瞬のうちに山津波の鬼どもに飲まれてしまったのだ。
気が付けばゆいだけが生き残っていた。
お山の怒り狂う様は赤と黒の鬼に扮したダンサー達が激しく舞い踊り、宙返りをするなどで表している。

やがて、お山の怒りは収まったが、呼べど叫べど夫も母も娘の姿さえも無い。観音堂に逃げたわずかな人だけが生き残った。ゆいを始め生き残った人々は何日も何日も飲まず食わずで泣き明かし、とぼとぼと歩き続け、近くの干俣村に辿り着いた。干俣の村民達から労う言葉と、暖かい粥を賜り、ゆいも少しの元気が出て来た。
干俣村の小兵衛【
渋い声に説得力がある徳山富夫さん】が新しい村を建て直すためには、ここから7組の家族を誕生させてはどうか?と持ちかける。皆は賛成し、中でも若いゆいは馬方仲間で妻子を亡くした音七さんと夫婦になる事になった。
音七は桑島善明さん、ユニークで面白い感じの人。声がハスキーで、始め大声を出し過ぎなのかと思ったりしたが実は地声なのかなぁ〜(笑)

「お蚕さんも4度、生まれ変わる。ゆいもこれが4度目の生まれ変わりだ。お蚕さんのように生まれ変わって、強く生きなければいけない。」「音七さんと夫婦になる。万次郎さん堪忍してくんろ!音七さんの家の皆、堪忍してくんろ!かぁちゃん、すま、あんた、堪忍してくんろぉー!おら1人、生き残らせてもらって…、堪忍してくんろ!堪忍してくんろ〜!」ゆいと音七の声が響く。
ゆいの新しい家族は音七の他に姑と男の子が加わった。隣村から桑の苗が届けられ、ゆい達はそれを植える。
そんな時、懐かしい人がやって来た。あの蚕の育て方を学んだまつ姉さんだった。沢山の蚕種を背負って、ゆいを尋ねて来てくれたのだ。山焼けが始まった頃、万次郎がまつの所に行って「山焼けが静まったらゆいに蚕種を届けてくれ」と頼んでいたらしい。今は亡き万次郎の暖かな思いやりが、ゆいの心に切なく染みた……。終わり


以上、皆一生懸命に演じていました。直ちゃんの台詞は膨大だったと思います。初めから終わりまでほとんどが出ずっぱりで、喋りっぱなしの大熱演でした。マイクを付けていたのは直ちゃんだけで、後の人は大きな声でオーバーに演じていました。暗転で場面転回をし、大道具さんが立ち動く姿が丸見えでした。小仕掛けで昔の舞台を観ているようでした。観劇のチケット代は凄く安いので文句は無いのですけどね。
万次郎さんの馬が見えなかったですね。組み立てた木を丹念に拭いていたのが気になりました。観音堂も石段だけでちょっとチャチな感じがしました。それに欲を言えば、お山の大噴火をもっとダイナミックに表現して欲しかったですね。

作品はとても良いので、また、練り直して、今度はもっと大掛かりで実現出来たらと切に思います。

直ちゃんお疲れさま!!

2004年5月5日yuko記

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