『娘よ』 観劇記

東京、ル・テアトル銀座2005年2月20日(日)〜3月3日(木)
福岡市民会館2005年3月5日・6日  
大阪、シアタードラマシティ2005年3月8日・9日

原作 小島政ニ郎

脚本 砂田量爾

演出 石井ふく子

配役  藤沢みこ (一路真輝)

藤沢省ニ郎 (杉浦直樹)

高野冴 (竹下景子)

林哲郎 (橋爪 淳)・小林弘 (えなりかずき)

吉川きよ(大方斐沙子)・川村明子(水野千夏)・他


1昨年の秋、TBSで放映された『娘よ』が、今年、同じ出演者で舞台化されました。

父と娘を中心に描かれ、役者の演技が全てを物語ると言ってもよい程、歌も踊りも無い2時間半たっぷりのシリアスなお芝居です。内容はテレビと全く同じですが、生の舞台は、作品の重さや登場人物の息遣いがしっかりと伝わって来て迫力があります。それに不思議な位、台詞を噛み違えない。(あっ!笑、あたりまえの事だけど、最近は到る所で噛み違えを耳にする事が多いので、つい〜)
役者さんの登場人物に対する成りきり度もかなり高く、観る側としては違和感無く自然に入ってくるのが、また、良いですね。

戦争の足跡はこんな所にもあったのかと改めてしみじみと感じます。娘のみこは、ぼやいても仕方が無い現実を背負って、孤独な内面を心の奥に閉じ込め、表面的には弾くような乱暴な言葉使いを親父に発しています。
遠慮の無い家族の良さであり、さりげなく温かい思いやりでもあります。やがて、みこの病が悪化し、亡くなってからも父親の中で一層強く生き続けるみこ!そんな娘を一路真輝さんはきめ細かに力強く演じています。

亡くなって初めて判る、自分の中のその人が占めていた位置の深さ、家族の絆の深さ……。
作家で親父役の杉浦直樹さんは、昔気質の頑固な面や少年のような無邪気な面を持ち、娘の身体を蝕んでしまった戦争やお国に対するやり場の無い怒りをぼやくなど、なかなかの名演ぶりです。

親父の後妻になる高野冴は竹下景子さんが演じています。さりげなく控えめで、人の心が解る温かさを感じさせる女姓です。実際こんな人いるかしらん?と思うほど、会った事も無いみこの心の中にそっと入り込み、怖い位良く出来た人です。
お着物姿がどれも素敵で、みこが亡くなった後、家を訪れた高野さんの赤紫の着物姿は上品で、帯の前後に「偲」の文字、これは効果抜群〜!

みこを慕う学生の小林弘はえなりかずきさん、みこの同級生でお医者様役の橋爪淳さん、どちらも自然な演技で良かったです。
お手伝いの吉川きよさんを演じられた大方斐沙子さんも個性的な楽しい役作りをなさり、なかなかお上手でした。他には婦人雑誌のカメラマン、引越しを手伝った隣近所の3人。出演者はこれで全部、たった10人だけです。それに子犬が一匹特別出演かな。(笑)

舞台は鎌倉の家をイメージした自然な造りですが、それとなく気が効いています。朝夕の明かりの変化、庭の木々、終電車が通り過ぎる踏み切りの音がやけに耳に残ります。
本物の水(雨水)、これは凄い!舞台上には前の部分だけ一段下がった網目状になっていて、そこへ向けて天井から水(激しい雨降り)がジャージャーと落ちるようになっています。
父親の杉浦さんは本当に頭からビショビショに水を被るんですからねぇ〜。悲劇は倍増、親父の悲しみを物語っています。始め、温かいのかなぁ?と思ったりしたのですが、湯気は立っていないし(笑)、ヒヤッとした冷気が客席に伝わってきたので、やはり冷たいんですよね。(笑)
ワンちゃんは私の観た中日は中位の大きさの白い犬で、杉浦さんに抱かれると片時もじっとしていなかったので、千秋楽には茶色の子犬に代わっていました。与えられた牛乳をよく飲み、抱かれると、まるで死んだように杉浦さんの腕に顔を埋めてじっとしていたので、逆に心配した位です。(笑)
すみません!みこが亡くなると言う大変な時に、私は何処を見ているんでしょうねぇ〜。

東京千秋楽もカーテンコールはありませんでした。よく考えると舞台は水浸しだし、悲しみの余韻を大切にしたのでしょうか。実際、すぐには席を立つ事が出来ない位、作品の重さと悲しみが残りましたからね……。

2005年3月5日yuko記

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