和歌と俳句

山口誓子

一隅

一 二 三 四 五 六 七

濡れづめの氷柱が滝の中に立つ

雪の駅駅丁寧に停めり行く

女座の局に吾も修二会見る

髪を撫づ修二会香煙手に受けて

聖霊会迦陵頻伽の翅なよなよ

梅近く見るその蕊の長睫毛

凍て滝に白玉楼といふ語あり

雪洞は仰向きさくら俯向ける

春潮に飛島はみな子持島

一隅の蝌蚪のかたまり墨こぼし

ラレレラと水田の蛙鳴き交す

雲丹の壺海はどこにも潮忘る

眼をとむる神体山の花菫

清姫の黒き執念磯若布

蜘蛛の囲にかかり蛍火はや食はる

鳥居立つ大白滝を敬へと

大滝は裾の乱れをつくろはず

火なき舟沖に鯖火をつけに行く

雲の峰潰え一切無に帰せり

生きて吾在り渦潮の中に在り

播州野月蹤いて来る蹤いて来よ

蟷螂の真黒になり生きつづく

熊の子が飼はれて鉄の鎖舐む

海を行く妙義生れの虎落笛

もがりぶえとぎれとぎれのものがたり

神懸を写し青嶺が石となる

舟虫生かす築城残石は

海草の打ち揚げられし遍路道

焚火の穂こころの如く定まらず

火を焚きて衰太陽を励ませり