和歌と俳句

山口誓子

和服

一 二 三 四 五

虹の環を以て地上のものかこむ

枯蘆原青年の来るところならず

鴨群れて浮くこれほどの奢りなし

日頃憎む邸芝焼けばなほ憎む

焼芝に午前のうちの柵の影

学生の落第せると浦づたひ

猫の毛がちらばる昨夜の恋おそろし

水のなきところへ上り蝌蚪は死す

蝌蚪暮れし上ともなくて鴉とぶ

水増して蝌斗の寄る岸高くなりぬ

光ぎつしり蝶老ゆることありや

紫が深まれば黒雨の菫

海上の音みな虹の環に籠る

田鋤牛やすらふや前のめりして

鋤き終へし向にて牛の立ち憩ふ

指に匐はせ美濃の蛍を頒ちあふ

眼に力籠めて立てるに虹衰ふ

田掻牛身を傾けて力出す

死にければ闇たちこむる蛍籠

葉桜の駅に字を書く洋傘の尖

新緑に声しはがれて鴉過ぐ

向日葵の十四花ゴッホの場合の如く

炎天の三重より奈良へ歩き出す

金魚かたまれり数尾の死の後に

瓜貰ふ太陽の熱さめざるを

曽て吾通りし麦の中黄ばむ

麦畑秘密なきまで吹き荒るる

どこにこのしぶとき重さ西瓜抱く

花火にて荒れし空雁鳴きわたる

待ち待ちしただ二時間の花火の夜