水むけの茶碗の湛へ 揺れしるし。備れる墓のぬしと なりませり
吹きとほる風のそよめき、線香は、ほむら立ち来も。卒塔婆のまへに
包み紙の赤きが濡れて、塚のうへにくゆり久しも。線香のたば
さかりゐし松葉牡丹 へりにけり。み墓さやかになりにて 寂し
ただひと言 ほめくれたりと思ふ翁がことば うやうやしけれど 思ひ出でず。今は
おくれ来て 寺の広間にとほる茂吉 あつさ暑さと 扇ならすも
大川のさつきの水の濁り波。秀がしら光る。そのくづれ波
ま昼の照りきはまりに 白む日の、大地あかるく 月夜のごとし
ま昼の照りみなぎらふ道なかに、ひそかに 会ひて、いきづき瞻る
��ぞらは、暫時曇る。軒ふかくこもらふ人の 息のかそけさ
はるけく わかれ来にけり。ま昼日の照りしむ街に、顕つおもかげ
ま昼日のかがやく道に立つほこり 羅紗のざうりの、目にいちじるし
街のはて 一樹の立ちのうちけぶり、遠目ゆうかり 川あるらしも
目の下に おしなみ光る町の屋根。ここに、ひとり わかれ来にけり