ラジオで展覧会:大阪市立自然史博物館の「大絶滅展:生命史のビッグファイブ」から

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 8月15日、NHKラジオAMの午前1時台「ラジオで展覧会」で、大阪市立自然史博物館で開催の「大絶滅展:生命史のビッグファイブ」が放送されました。多様な古生物だけでなく、ボーリングコアなど地質学的に貴重な資料も展示されていて、とても興味深かかったです。案内は、大阪市立自然史博物館館長の川端清司さん。(聞き手は中村宏)以下に聴き起こした内容をほぼそのまま掲載します。[ ]内は補足で、ネット上の記事や AI も参考にしました。

 地球に生命が誕生したのは40億年前。以来今日まで命をつないで今も多様な生物が存在している。しかし、長い生命の歴史の中で多くの生き物が絶滅するという大量絶滅が5回あり、ビッグファイブと呼ばれている。全部の種のうち、70%から80%、多い時には90%以上が絶滅したという。しかし、生命はその都度新たなグループが繁栄することを繰り返してきた。地球に何があったのか、大阪市立自然史博物館館長の川端清司さん(化石と地質が専門)に、展示品の前で解説していただいた。
中村:まずこの大絶滅展の趣旨から教えてください。
川端:絶滅というのは、絶えず起っていること。生物種が絶滅して次の種と入れ替わるということは「通常絶滅」と言われている。しかし、生命史40億年でみると、地球の歴史からいうととても長期間に生物種の60%から30%もの種が一斉に絶滅するという事件が分かってきている。それを「大量絶滅」と呼んでいる。今回の特別展では、それを「大絶滅」と言うことにした。地球上の生命は、大絶滅とそれを乗り越えたグループの繁栄、ということを何度も繰り返したということが分かってきた。例えば第5回目の絶滅は、小惑星が地球に衝突して恐竜が絶滅したというのはよく知られるようになってきたが、それ以外のビッグファイブの残り4回についても、何があって、どういうことが起こったのかというのがかなり解明されてきた。今回の特別展では、国立科学博物館の古生物つまり化石の研究者と火山の研究者の監修のもと、その5回の大量絶滅それぞれの要員と、絶滅前と絶滅後の生物多様性の変化を解説して、最新の研究を紹介している。
 
 およそ500点もの展示資料の中から、ポイントとなる何点かを紹介していただく。
●第1章「O-S境界 海の環境の多様化」
 O-S境界は、オルドビス期とシルル期の境界で、約4億4400万年前。
中村:4億年余前、何があったのでしょうか。
川端:このO-S境界では、現在の中国揚子江の周辺にあたる地域で、大規模な火山噴火が繰り返し、それが引き金になったと考えられている。火山噴火の噴出物の影響による急激な寒冷化、それと火山から噴出された二酸化炭素ガスによる温暖化、これが繰り返すことによって絶滅が起こったと考えられている。
中村:そのO-S境界、最初の絶滅で姿を消した生き物たちの展示がある。「アノマロカリス カナダ」国立科学博物館所蔵のレプリカ(化石の複製)と復元模型。レプリカは、岩に化石のように残っている生き物の姿で、体長20cmくらいだろうか、これ自体は魚を横から見たような姿[たぶん、化石では体の堅い部分だけがばらばらになって残っているだけだと思う]。レプリカの上に展示されている復元模型を見ると、体長60cmくらい、見た目ではエビだろうかカブトエビだろうか、のような形をしている。ただ、はさみの代わりに2本の触角のようなものが頭から前に伸びている。色は赤。色は赤なのですか?
川端:色については、化石からは分からない。ただし、復元模型をつくる時にどういう色にしようかということで、あくまでも想像して着色している。アノマロカリス(Anomalocaris)というのは、Anomalo は奇妙な、caris はエビ、という意味の学名。それでエビからすると赤でもいいかなというところかなと。
中村:胴体の横に、細長い葉っぱ[ひれ]のようなものが何枚も飛び出している。次に、その隣りに「エーギロカシス モロッコ」化石(甲皮(で、実物資料。国立科学博物館所蔵。素人が見てもこの化石、よく分からない。復元模型がすぐ上にある。これを見ると、びっくり!体長が2mくらい、一見はさみのないエビのような形で、ほぼ全身が殻で囲まれていて、とんがった頭の付け根の両側にぎょろっとした大きな目がついている。長いひげのようなものが、口の下あたりから下に出ている。模型は緑色。甲皮というのは、どういうことをいうのですか?
川端:これらの、アノマロカリスとかエーギロカシスというのは、大きく言うと節足動物(エビ・カニナド)の仲間になるので、それらの体の外側を覆っていた革というか殻と言っていいようなもの。色については、あくまでも推定したもので、エビのような青い体液[ヘモシアニン:銅を含み酸素を運ぶ]に由来すると考えてもいいかも。
 [エーギロカシスは、アノマロカリスなどと同じラディオドンタ類。カンブリア紀末に最高位の捕食者(肉食)だったアノマロカリスがほぼ絶滅、オルドビス紀前期(4億8000万年前)に、最大でも1m未満のアノマロカリスを大きくしのぐ全長2mにもなるエーギロカシスが登場。アノマロカリスのような初期のラディオドンタ類は、鋭い前部付属肢(頭部の突起)で獲物を捕らえる肉食動物だったが、エーギロカシスは頭部にある一対の付属肢に細かな毛のような構造(櫛状の器官)をびっしりと並べ、この触手を網のように使って海水中のプランクトンをこし取って食べる「濾過摂食」を行ていた(今のジンベイザメなどと同じ)。オルドビス紀は海洋プランクトンが急激に増加、この豊かな海に支えられてエーギロカシスのような巨体の濾過摂食者が繁栄できた。なお、エーギロカシスは、国立科学博物館によるモロッコのフェゾウアタ化石群の発掘で発見されたもので、2015年に新種として発表されたという。]
中村:その隣りに、もっとびっくりするようなもの。「アクティラムス アメリカ」(シルル紀、ウミサソリ目)。化石のレプリカ、国立科学博物館所蔵。全長2mくらい。復元模型が隣りにある。全長2m以上あるかな、巨大なウミサソリ。見た目は、エビかサソリのようにはさみを持っている。模型の色はモスグリーン。サソリですから、しっぽで刺すんですかね。
川端:ウミサソリという名前だが、サソリではない。直接的な関係はない。トゲがあって、毒を持っているかどうかは分からない。注目してほしいのは、先ほどのエーギロカシスとこのアクティラムスの間の背景に、ぎざぎざと赤い稲妻のようなのが描かれている。これがO-S境界の大絶滅を示している。展示を見る時は、この赤い稲妻模様に注目してほしい。
中村:つまりこのアクティラムスは大絶滅の後に出てきたということですね。
川端:そうなんです。絶滅の後、こういう仲間に主役が取って代わったというふうに言えるかと思う。
 [アクティラムスは、シルル紀後期からデボン紀前期(約4億2000万年前〜約4億年前)に生息した鋏角類に属する水生の節足動物(クモやサソリ、カブトガニに近い仲間)で、全長2m以上になるものもある。頭部には前方に伸びる特徴的な大きなハサミ(鋏角)があり、それで獲物を捕らえ、体の後方には平らなパドルのような脚(遊泳脚)があり、これをボートのオールのようにつかって海中を器用に泳いでいたと考えられる。展示されているアクティラムスの化石レプリカの周囲にはふつうのサイズ(十数センチ〜数十センチ程度)のウミサソリ「ユーリプテルス」の化石も一緒に並んでいて、アクティラムスがいかに大きかったかがよく分かる。]
 
●第2章 「F-F境界 陸上生態系の発展」
中村:F-F境界は、1回目の大絶滅から約7000万年ほど経った3億7000万年余前、デボン紀後期のフラニアン期とファメニアン期の境界。
[フラニアン期は約3億8270万年前から約3億7220万年前、ファメニアン期は約3億7220万年前から約3億5890万年前。「紀」の境でなく「期」の境界。ビッグファイブ中もっとも小規模な大絶滅]地球にこの時、何があったのですか。
川端:激しい火山活動とともに、もうひとつ、この時期生命史上初めて巨大な森林の出現が明らかになっていて、森林=植物が二酸化炭素を吸収し、そのことで温室効果ガスが減って地球が寒冷化することも起こったと考えられている。つまり、火山活動の噴出物による寒冷化とともに、森林の出現による寒冷化、それと火山からの二酸化炭素の放出による温暖化、そういう環境の激変が考えられている。
中村:展示されているのは、巨大な甲冑魚「ダンクルオステウス モロッコ」(板皮綱節頸目 デボン紀後期 東京都市大学所蔵)。モロッコで発見された化石。細かく割れており、かなりの大きさがあることが分かる。横に復元模型が展示されており、これで姿が分かる。大きな魚の頭の部分。長さが150cmくらい、同回りが1mある。シーラカンスを甲羅で覆ったような姿を思い浮かべるとよい。そんなに大きくない目がぎょろっとして、口を開けて、牙をむき出しにしている。
川端:頭骨と胸の回りのばらばらの骨が実物で示めされており、これを組立てて復元していくのは本当にたいへん根気が必要で、たいへんな労力だと思う。顎を持った最古の魚類のグループで、非常に繁栄した。このダンクルオステウス、頭部だけで1.5mほどと紹介されたが、この全長は、この頭だと6mとか7mくらいはあったと考えられており、当時の海では最強の捕食者と考えられている。
 [ダンクルオステウスは、デボン紀後期のフラニアン期からファメニアン期にかけて生息。フラニアン期の終わりの大量絶滅(F-F境界)を生き延びたものの、ファメニアン期の最末期(デボン紀の終わり、約3億5900万年前)に起きた「ハンゲンベルク危機」と呼ばれる地球規模の環境変動によって、他の多くの板皮類(頭部から肩にかけて頑丈な骨の甲冑で覆われる)とともに完全に絶滅。板皮類の特徴は、現在の魚のような「歯」を持たないことで、その代わりに鋭く尖ったカミソリのようなアゴの骨がむき出しになっており、これがハサミのように噛み合わさることで獲物の肉や骨、他の甲冑魚の硬い装甲すら噛み砕いていたという。]
 
●第3章 「P-T境界 史上最大の絶滅」
中村:P-T境界は、古生代末のペルム紀 Permian の頭文字Pと、中生代初めの三畳紀 Triassic の頭文字Tから。約2億5100万年前。何が起きたのでしょうか。
川端:このP-T境界大絶滅は、地球史上最大の絶滅事件。今のシベリアの地域で、巨大なしかも激しい火山活動が長く続いたことが分かっている。火山からの噴出物によって太陽光が遮られることによる寒冷化、引き続いて火山ガスとくに二酸化炭素による温暖化が原因だと考えられている。もう1つ、火山ガスが原因で酸性雨が降り、陸上が打撃を受けたこと、さらに火山ガスによってオゾン層が破壊されることで紫外線が非常に激しく降りそそいだことも原因に考えられている。
中村:そのP-T境界で絶滅した生物「ディメトロドン」の全身骨格がある。アメリカ、テキサス州、国立科学博物館所蔵のレプリカ。全長2m50cmくらい。見た目は爬虫類で、まずは大トカゲを想像してみてください。短い4本足で、しっぽまで1本の背骨が通っていて、その背骨に上に向って何本もの骨が立っている。その骨は長いもので50、60cmある。内輪化扇子を背中に背負ったような感じ、大トカゲの背中に帆が立っているようにも見える。頭部には鋭い歯がついている。
川端:大型の肉食動物。[以前は見た目から爬虫類の1種(哺乳類型爬虫類)と考えられていたが、今は]単弓類に分類されている。おそらく体の表面は鱗で覆われていたものと思われる。単弓類は哺乳類の祖先に当たる分類になる。P-T境界でこれが絶滅する。その絶滅の後、三畳紀には哺乳類につながるキノドン類という仲間が繁栄し、やがてそこから三畳紀の終わりには我々につながる哺乳類が誕生してくることになる。
 [ディメトロドンという名前は、ギリシャ語で2種類の大きな歯を意味する(dimetrodon: Di は「2つの、metron は「尺度」「測定」の意だが、学名では「長大な」「並外れた」の意味合い、 odon は「歯」)。獲物を突き刺して捕らえるための「長い前歯」と、肉を切り裂くための「鋭い奥歯」という、役割の異なる歯を持っており、これが後の哺乳類の歯の進化へと繋がっていく。ディメトロドンの歩行姿勢は、恐竜のように足を真下に伸ばして歩くのではなく、トカゲのように手足を横に広げて這うように歩行していた。]
中村:その向い側、ガラスケースの中に貝の化石が並んでいる。ペルム紀のサンゴ礁に生息した「巨大生物群」。岐阜県大垣市金生山で見つかった化石10点。いずれも実物。所蔵は、福井県立恐竜博物館豊橋市立自然史博物館、国立科学博物館。殻の長さが50、60cmもある二枚貝、太さが10cmくらいある巻貝など大きなものが並んでいる。
川端:この金生山は、今は石灰岩の鉱山で産地になっているが、これはペルム紀の海山、今のハワイ諸島のように海洋プレートの上に火山活動でできた高まり、そこにサンゴ礁が発達した、そういう場所と考えられている。化石の色を見てみると、黒っぽい。石灰岩はふつう白いが、この黒というのは、有機質の成分が非常に多く含まれているからだと考えられている。これは、このサンゴ礁の海が非常に栄養分が多い、有機質が多い場所だったので、栄養豊富でふつうだと5cmとかの大きさの化石がここでは10cm、20cm、非常に巨大化した。こういう巨大化の原因は、栄養豊富だったからだろうと考えられている。
中村:その他の生き物も大きくなった?
川端:はい、通常だと数mmのフズリナという種類も、ここでは2cm、3cmの大きさになる。
[金生山の巨大生物群:金生山はペルム紀中期〜後期の海山頂上に形成されたサンゴ礁由来の石灰岩でできている。当時の浅海で生物生産量が高まったことで起きた、軟体動物を中心とする各種グループの異様な大型化現象を実物化石で紹介している。これらはP-T境界の大絶滅でほぼ一斉に姿を消す。展示されているのは、次の10点。
  シカマイア(世界最大級の巨大二枚貝)、ニッポノマリア(殻の幅が25cmを超えることもある、美しいアシンメトリーの螺旋殻を持つ大型のオキナエビス類の仲間)、ベレロフォン(左右対称の巻貝状の殻を持ち、腹足類か単板類かで議論が分かれる20cmもあるなぞの生物)、タイノセラス(殻の表面に帯状の突起を持つ、ペルム紀を代表する大型のオウムガイの仲間)、シーロガステロセラス(殻径が25cmを超える巨大なオウムガイ類)、巨大ツノガイ類(現生種とは比較にならないほど巨大で、殻の長さが20cm超の掘足綱の化石)、巨大フズリナ(単細胞生物でありながら目視で容易に確認できるほど巨大化した原始的な有孔虫)、プレウロトマリア(古生代の海に繁栄した、現生のオキナエビスにも繋がる原始的な腹足類)、ムーロニア(特徴的な殻の帯(細い溝)を持つ、当時の浅海生態系を構成した大型の巻貝類)、ウミユリ類(金生山のサンゴ礁を彩り、石灰岩の大部分を形成する要素となった植物のような姿の棘皮動物)]
 [金生山と同じように、赤道付近のホットスポットで誕生した海山(海底火山)の上にサンゴ礁が発達し、プレート運動によって数億年かけて運ばれて日本列島の一部(付加体)となった山や石灰岩地帯は、日本国内に数多く存在する。代表的なホットスポット起源の海山・石灰岩地帯を、地域や地質帯ごとに示す。
  ①美濃帯(中部地方)の仲間 金生山と同じ「美濃海山列」と呼ばれるかつての海山群の並び。伊吹山(滋賀県・岐阜県):金生山のすぐ近くで、金生山と同様ペルム紀の海山の頂部に発達した巨大なサンゴ礁が起源。根尾谷・郡上八幡の石灰岩(岐阜県):美濃海山列を構成する一連の石灰岩地帯で、フズリナなどの化石や美しい菊花石(海底火山活動に関連)を産出。
  ②秋吉帯(中国地方・九州)の巨大カルスト台地 約3億5千万年前の古生代石炭紀〜ペルム紀に、赤道近くのパンサラッサ海(古太平洋)のホットスポット火山として誕生したグループ。秋吉台(山口県):日本最大級のカルスト台地。火山島(玄武岩)の周囲に500〜1000mもの厚いサンゴ礁の層が積み重なり、そのまま陸に押し付けられて形成された。帝釈台(広島県)・阿哲台(岡山県):秋吉台と同時期に同じプロセスで誕生した、中国地方を代表する大規模な海山型石灰岩地帯。平尾台(福岡県):九州に位置する日本三大カルストの一つで、これも同系統のホットスポット海山が起源。
  ③秩父帯(関東地方など)の山 武甲山(埼玉県):秩父を象徴する石灰岩の山。約2億年以上前の三畳紀、はるか数千キロメートル彼方の旧ハワイ・ホットスポット付近で火山活動を終えた海山が、太平洋プレートに乗って旅をして日本列島に衝突・隆起したと考えられている。]
 
●第4章 「T-J境界 恐竜の時代への大変革」
中村:T-J境界は、三畳紀 Triassic とジュラ紀の境界。約2億100万年前。このT-J境界で絶滅した生き物たち。ここでは地球で何があったのですか?
川端:ここでもやはり非常に激しい火山活動が考えられている。超大陸パンゲアが分裂して、現在の大西洋ができはじめたのがこの時期。大陸が分裂して、その間で非常激しい火山活動が起こる。そして大量の二酸化炭素が発生する。それと、二酸化炭素が多くなることによって酸素濃度が低下してしまう。これは陸上の生物にとっては打撃になって、大量絶滅の一因になったと考えられている。
中村:目の前に展示されているのが、ワニの「レドンダサウルス」の全身骨格。アメリカ、ニューメキシコ州。[三畳紀後期]福井県立恐竜博物館所蔵のレプリカ。大きいですよ、しっぽの先までおよそ 6m。長い口の中に鋭い歯が何本も並んでいる。今のワニの2倍から3倍くらいある。
川端:ただ、鼻の穴が目のすぐ前にあるなどしていて、今のワニとは形態は似ているものの系統としては異なるもの。
中村:今のワニは、口の先のほうに鼻がありますね。
川端:そうですね。 T-J境界ではこのレドンダサウルスなど[フィトサウルス]を含む爬虫類の仲間が絶滅して、今度は恐竜が主役になってくる。
中村:それが隣りの「クリオロフォサウルス」。大きな全身骨格。ジュラ紀前期。南極大陸。国立科学博物館所蔵のレプリカ。長いしっぽまで入れて、全長7mくらいあるかなあ。見上げると壮観。有名なティラノサウルスのように前足は短くて、頭のてっぺんに鶏のとさかのような突起が立っている。爪も長くて鋭くて。これはもちろん肉食恐竜ですね。
川端:はい。歯の形を見てもらうと、いかにも鋭そう。肉を切り裂く、まさに肉食恐竜。ジュラ紀に入ると、植物食の恐竜、肉食の恐竜、多様な恐竜が進化し繁栄する時代になる。また、陸上ではなく海の中では、[アンモナイトの種類が三畳紀まで繁栄していた]セラタイト目から、アンモナイト目へと主役が交代していく。
 
●第5章 「K-Pg境界 中生代の終焉」
 [中生代末の白亜紀(英語 cretaceous, ドイツ語 Kreide)と新生代初めの古第三紀(Paleogene)の境界(白亜紀が K になっているのは、カンブリア紀 Cambrian の C との重複を避けるため)]
中村:K-Pg境界。5回目、最後の大絶滅。約6600万年余前。恐竜が絶滅したことで有名ですね。何が起こったのでしょうか。
川端:これまでの絶滅では激しい火山活動ということを言ってきたが、この5回目の絶滅では、直径およそ10km程度の小惑星が今のメキシコのユカタン半島付近に衝突、およびそれによる様々な影響が考えられている。ユカタン半島付近はその当時も陸地と海の境界付近で、海の部分に小惑星が衝突することによって大きな津波が発生。また、小惑星が地球に衝突したその衝撃によって、非常に高温の爆風が発生。それらがいろいろな影響をあらわしたと考えられている。もう1つ最近言われていることに、このユカタン半島付近は石灰岩とともに石膏がとても多い。石膏は硫酸円で、たまたまぶつかったのが石膏が多いこの場所だったために、硫酸の成分が大量に大気中にエアロゾルとして放出、[それが太陽光を長期間遮り非常な寒冷期が続くとともに]エアロゾルになった硫酸成分が強い酸性雨となって降り注ぐことによって、例えば[陸上の植物に大きなダメージを与えるとか]海を酸性化して[海洋の生物を死滅させる]とか、そのようなこともこの5回目の絶滅に大きく関わっていると言われている。[ユカタン半島の浅瀬の海底には石膏や硬石膏など硫黄を含む蒸発岩の分厚い地層があり、ここに巨大な小惑星が衝突したことで、猛烈な熱と衝撃波により大量の石膏が一瞬にして蒸発し、膨大な量の硫黄ガス(二酸化硫黄など)となって大気中に放出された。]
中村:そして展示されているのが、「チチュルブで採掘されたIODPコア」(レプリカ)。メキシコ湾の海底下600mから掘削された堆積物。縦に細長く、150cm近くある。黒っぽい土のようなちょっと地味な展示ですが、これは何ですか。
川端:これは、非常に重要なもの。チチュルブというのは、小惑星が衝突して巨大なクレーター(およそ直径150kmほど)ができたが、それのちょうど縁に当たる部分で、海底下でボーリング調査して引き上げられたコア。これを見ると、一番下のほう、ちょっと茶色くよく分からないのだが、調べるとこれは隕石衝突による衝撃によってそこの岩石が一度溶けてまた固まって結晶化した部分。
中村:ぐぢゃぐぢゃとなっていたり、みみずが這ったようなぼこぼこっとなっていたり、そういうのがあるのでそれかなと思ったり…。
川端:で、その上の部分、少し縞模様のようなのが見える。これは、津波が何回も押し寄せ、また陸地にぶつかって戻ってきて、というようなかたちの、津波による堆積物。
中村:これ、何十センチもありますよ。
川端:はい、とにかく巨大な、100mほどの高さの津波ではなかったかと言われている。それが、何回も押しては引いての繰り返しで堆積したもの。
中村:K-Pg境界と表示された所もある。その下はちょっと茶色だが、その上はグレー。
川端:これは、隕石衝突の影響がやがて収まってきて(津波も収まり)、激しい環境変動から、通常の環境に戻ってくる。そうすると、外洋でたまる白い炭酸塩岩がたまるようになってきた。
中村:おだやかになってきたということですね。k-Pg境界、その境界が目で見て分かるのですね。
川端:まさに、このコアで、ここだ、というように分かる、ということ。それ以外の場所でも、K-Pg境界を示す例は、世界中で見つかっている。
 [「チチュルブで採掘されたIODPコア レプリカ」(正式な標本名:Hole M0077, Core 40R, Section 1)は、2016年の国際深海科学掘削計画(IODP)第364航海で掘削されたコアの一部で、総延長約830m(海底下506m〜1335m)に及ぶ掘削データ全体において、上部から約111mほど掘り進んだ地点(海底下約616.5m)に位置する部分。下から上に向って、次の3層からなっている。
  ① 衝突融解岩(impact melt rock)の層(長さ35cm):小惑星が地球に衝突した際の超高熱・超高圧力によって、地殻の岩石が溶けて再び結晶化・固化した岩石や、砕かれた角礫岩(スエバイト)からなる。衝突の破壊力を生々しく物語る、暗色で不均一な層。
  ② 巨大津波堆積物の層(長さ75cm):衝突によって引き起こされた大規模な巨大津波や、クレーター内に猛烈な勢いで引き返してきた海水(戻り津波)が運んできた泥や砂、瓦礫が分厚く積み重なっている。この津波の層をよく見ると、下部には大きな岩の破片が含まれているが、上に向かうにつれて堆積している粒がだんだん細かくなっていく。さらに、周辺の陸地で発生した大火災によって生じた煤や木炭の成分もこの層に巻き込まれて堆積している。
  ③ 通常の海洋堆積物の層(長さ36cm):これまでの激しい濁流の跡から一転して、非常に細かく、穏やかに降り積もった外洋性の泥(微化石などを含む堆積物)の層へと変化する。これは、衝突による大混乱や津波が完全に収まり、再び地球に通常の穏かな海が戻ってきたことを示す。]
 
●エピローグ「人間活動の跡が刻まれた時代」
中村:「海底堆積物のコアの薄片試料(別府湾 第四紀完新世~人新世) 実物」。縦長の細長い資料で、ミルフィーユのような横縞がたくさん入っている。別府湾の底からボーリングで掘り出したもので、1915年から2021年まで表示がある。層になっていて、それを縦に薄くスライスして、光を当てて見やすくしている。1953年の所に標があって、そこから上が「人新世」と表記されている。
川端:これは、海底下から採収された堆積物で、書かれている数字はすべて西暦の年号で、1年ごとにこれだけ溜まったということが分かる。
中村:数mmから1cmくらいですかね。
川端:そうですね。この堆積物から、1950年以降大気中での核実験が行われることによって放射性同位体、自然には存在していないプルトニウムやセシウムの同位体などが、ここから入ってくるとか、あるいは化石燃料に由来する物質であったりとか、鉛や水銀などの人間活動によって排出された重金属であったり、PCBやDDTのような人間がつくり出した化合物、最近話題になっているマイクロプラスチックなどの人為的な環境汚染がどういう風に変化してきたかというようなことが、このボーリングコアを分析することによって分かる。人類が地球の生態系とか気候に大きな影響を及ぼすようになった時代を「人新世[Anthropocene: anthropo (人間)と cene(地質時代の世)を合わせた語]」と言う提案があった。ただし、地質年代を決める国際的な会議では、正式な年代としてはまだ認められてはいない。「人新世」というのは、人間がつくり出したあかるい未来である時代ではなくて、はっきり言ってネガティブな痕跡を残す時代になるから、私たちはこの人新世をつくってはいけないのではないかというふうに考える。
 [展示されている「海底堆積物のコアの薄片試料(別府湾 第四紀完新世~人新世) 実物」は、別府湾の最深部、水深約70mから採収された資料。この場所は水が循環しにくく酸素が極めて乏しくて、地層を乱す底生生物が生息できず、そのため堆積物が静かにそのまま降り積もって、年縞がきれいに保存されている。各年縞の長さは 3mm~12mm(上部ほど長くなっている)、薄片試料全体の長さは約84cm。
  1915年~1940年代前半は、自然に近い泥の層(中にはカタクチイワシなどの魚の鱗、プランクトンの環境DNA、陸からの土砂など)が続くが、フライアッシュ(球状微粒炭:石炭などの化石燃料を高温で燃やしたさいに出る)がわずかに検出され始める。1945年以降、フライアッシュや重金属(鉛や水銀など)、PCBやDDTなど残留性有機化合物が増加し始める。
  1953年~1954年には、プルトニウム239や240、アメリシウム241、セシウム137、ウラン236などの人工放射性核種の量が急激に増える。1954年にアメリカが南太平洋で行ったビキニ環礁の水爆実験など地球規模の核実験の証拠。大気圏内核実験が最も盛んだった1963~64年の層に大きなピークがある。その後も、半減期の極めて長い(1570万年)ヨウソ129から、原子力施設の稼働や事故、核燃料再処理など、原子力利用の歴史を読み取ることができるという。1960年代後半~1970年代には、海洋マイクロプラスチック、化学肥料由来の窒素同位体、高濃度の重金属が急激に増加。窒素の急増によりプランクトンが異常発生した跡も層に残る。1990年代以降、多種多様な化学物質に加え、コンクリートの微粒子などが混入。地層の成分自体が完全に自然界のものから「人工物の混ざったもの」へと変質。]
 
中村:5回大絶滅があったと。人間だいじょうぶかなと心配になってきますね。
川端:今現在は、第6回目の大量絶滅が始まっている時代ではないか、それも大部分は人類の活動(農耕のために林森、アマゾンの熱帯雨林を切り開く、あるいは温暖化の問題など)によるものではないかと考えられている。
中村:この特別展、どのように見てほしいですか。
川端:大絶滅と聞くと、どうしてもネガティブな印象がある。ただ、ピンチはチャンスという言葉もあるように、大量絶滅を乗越えた生物種にとってはそれ以前の主役が占めていた生態系の位置がすっぽり空っぽになってしまう、いわゆるニッチと言うが、そこに次の進化飛躍のチャンスができる。そういうふうにとらえると、大量絶滅というのは次なる進化のための新たなステップととらえることもできる。現在は第6の大量絶滅の時代と言われることもあるけれども、また温暖化ということを毎日肌で感じているけれども、この環境変動の時代に私たちどう対応していくのか、まさに人新世という時代をつくらないように私たちがどう対応すべきか、そういうことを考えるきっかけにもなれば、開催した私たちにとってもうれしい。
中村:私思いました。人間が人間を絶滅に追い込むようなことがないようにしていきたいものです。
 
(2026年8月25日)