10月20日午後、兵庫県立美術館に行きました。同館では毎年小企画「美術の中のかたち―手で見る造形」を開催していて、今年は「青木野枝 動体」。この日から開催され、また当日は作家さんによるギャラリートークも開かれるということで、ちょっと期待して行きました。
午後1時半ころ美術館に到着、ギャラリートークは2時からで、まずは展示室に行って「青木野枝 同体」という作品に触れて鑑賞しました。鉄を使った大きな作品ですが、全体に透け透けで、鉄を思わせるような重々しい感じはぜんぜんありませんでした。
大きさは、直径 4m、高さ 3m。円周上に支柱となる厚さ2cmくらい、幅5cmくらいのざらざらした鉄板が一定間隔で7、8本立っています。その内側に、直径 30cmくらいから 60cmくらいまでの透け透けの網かごのような球体が紐で吊り下げられています。この球体は、厚さ2cmくらい、直径10cmから20cmくらいの中が切り抜かれた輪が多数くっつけられていて、ほとんど透かすかの状態になっています。表面の手触りは、ざらざら、さらさらの感じで、鉄が錆びたもので、色はたぶん茶色っぽいでしょうか。ま(支柱や円形の輪の縁にはたくさんぎざぎざしたような突起が出ていて、これは鉄を溶断したさい溶け残って固まったいわゆるバリだとのこと。)また、この球体の所々に、つるつるの青い円形のガラス板がはめ込まれています。
青木野枝さんは、1958年東京生まれ、武蔵野美術大学で彫刻を専攻、1990年ころから鉄を素材とした作品を発表しているようです。ギャラリートークでは、まず、最近10年くらいの多彩な活動が紹介されました。長崎県美術館、東京都庭園美術館、市原湖畔美術館などの美術館はじめ、各地の公共空間にどんな作品をどのようにして搬入し設置するのかなど。しばしば、同時に複数の場で展覧会をすることもあり、今も兵庫県立美術館とともに、千葉市美術館でも「千葉開府900年記念特別展 月と星と―美術がつなぐとき」(9月〜11月)を開催中だそうです。とにかくすごい活動量です。
作品そのものの制作は、工業用で広く使われているコールテン鉱という耐候性鋼の鉄板を、ガスの熱で溶断し、溶接する作業のようです。コールテン鋼は、銅・クロム・ニッケルなどを僅かに添加した一種の合金で、大気中で湿潤と乾燥を繰り返すことで、表面に極めて微小な粒子の緻密な錆(3価の鉄イオンによるオキシ水酸化鉄 α-FeOOh)の層ができ、これが保護膜となって、中に水や酸素が入ってさらに錆びることをしっかりガードします。作品の設置当初はしばらくの間、全体にきれいに錆を生じさせるために定期的に水やりすることが必要で、またそれに伴って出てくる大量の錆水を除去・排水することも必要だとのこと。
ギャラリートーク後半は、展示室に行って上の作品に触りながら説明してもらい、またいろいろお話をうかがいました。私は作品の中に入って透け透けの球体に触れ、少し力を加えてみると球体はわずかにゆらゆら揺れましたし、また一定方向に何回か回して手を放すと、逆方向に回り始めます。動きを感じさせる作品です。とは言ってもやはり鉄ですから、20kgあるという一番小さい透け透けの球体を持ち上げようとしましたが、ほとんど動きません。作品制作では、鉄板をひたすら溶断することが中心で飽きてしまわないかと思いますが、溶断して冷えてゆく時、回りから冷えていって中心部は赤く?輝くようで、その色合いが美しくて好きだ、この色が好きだから続けているのかなあと言っていました。作品がどんなものになるのか、結果については、あまり考えていない、たまに自分の作品が設置されている場所に行って、これ自分の作品なの?と思うこともあるとか。制作するだけで、作品について失敗とか成功といったことは関係ないとも言っていました。私は彫刻をしていますが、これらの言葉にはまったく共感です。
その後、4階の屋上(風のデッキ)に移動して、2025年1月に設置されたという青木さんの大きな鉄の作品「Offering/Hyogo」に触りながら解説してもらいました。直径 20cm前後の鉄の輪がおそらく数百個はつなげられた直径 3mの透け透けの球体が 3つ横に連なっています(全体の大きさは、直径 3m、長さ 9m)。隣り同士の大きな球体の間は直径50cmほどのトンネルのようになっていて、その中を人が通り抜けて、作品の中からも自在に作業などできるようになっているとか。この大きな作品をどのようにして設置したかですが、美術館の3階から4階へは階段しかないため、1個100kgくらいのパーツ20個に分けて4階に上げそこでパーツを溶接したとのこと。また、水やりと錆水の除去はずっと続けられているようです。この横長の透け透けの立体を、六甲山からの風が吹き抜けているというわけです。展示室の作品は展覧会終了後撤収・解体されますが、風のデッキのこの作品は恒久展示だそうです。
鉄と言えば重厚で重々しい感じ、確かにこれらの作品も手触りは錆ついたなにかの金属のようですが、透かすかの球体が宙に何個も浮かんでちょっと動いたりしているのを想像すると、鉄の重々しさは消えて、いかようにも変化し得る空間と呼応しているように思います。
(2026年10月28日)