「幸福な食卓」

公開
2007年1月27日
監督
小松隆志
原作
瀬尾まいこ
脚本
長谷川康夫
音楽
小林武史
出演
北乃きい、勝地涼、平岡祐太、羽場裕一、石田ゆり子、さくら、中村育二、久保京子、、他
備考
  
物語
 「父さんは、今日で父さんを辞めようと思う。」〜中原佐和子、中学3年始業式の日の朝、“父さん”(弘)が宣言した。
 中原家では、朝の食卓を家族4人で囲み、大事な話はその食卓でしてきたが、3年前、“父さん”の自殺未遂の後、何かが狂い始めていた。 “伝説の優等生”だった兄・“直ちゃん”は大学進学を辞めて農業を始め、専業主婦だった“母さん”(由里子)はパートをしながらアパートで一人暮らしをし、 そして、“父さん”は教師と“父さん”を辞めてしまった。 といっても、朝の食卓は続くし、“母さん”は家に来て料理を作ったり、家族はそれぞれ“母さん”の所に行ったりもする。 まとまっているような、バラバラなような、不思議な状態の家族の日常。 佐和子は一人、普通にふるまっていたが、胸の内は・・・・。
 佐和子のクラスに、転校生“大浦君”(大浦勉学)がやって来た。 「勉学」という名前を、ただ一人笑わなかった佐和子に、“大浦君”は何かと話しかけ、二人は友達になった。
 すぐにふられてしまう“直ちゃん“の新しい彼女は、今までと傾向の違う小林よしこ。 いつも通りに“直ちゃん“はふられるが、よしこが手作りシュークリームを持って中原家にやって来て仲直り、何故か“直ちゃん”とよしこは長続きする。 後に、“直ちゃん”が優等生を辞めてしまった心の深淵を吐露して、佐和子は、“直ちゃん“を救えるのは家族ではなく、他人のよしこだと思うのだった。
 “大浦君”は、佐和子の嫌いな鯖が給食に出た時、代わりに食べてくれる。 佐和子は、“大浦君”と同じ塾に通い始める。 “大浦君”は、親に送迎してもらっていた塾通いを、佐和子の影響で(家が坂の上だから電動アシスト付きだけど)自転車に変える。 佐和子と“大浦君”は、互いに「切磋琢磨」して受験勉強し、また親しくなっていく。
 ある日、“大浦君”は、実は鯖が大嫌いであることを打ち明けた。 驚く佐和子に、“大浦君”は言う。「凄いだろ、知らないところで中原って色々守られてるってこと。」
 “父さん”は、大学で勉強し直そうと、予備校でアルバイトをする傍ら受験勉強し、「受験生兼フリーター」生活を送る。 その“父さん”の志望が医学・薬学系だと知った佐和子は、“父さん”は“父さん”を辞め切れていないことを悟った。 梅雨になると体調がおかしくなる佐和子のために勉強しようとしているのだ・・。
 受験が終わり、佐和子と“大浦君”は志望通り西高に合格。 “父さん”の大学受験は不合格に終わったが、“父さん”は朝の食卓で、もう1年受験勉強を続けようと思うと語った。
 高校生活が始まった、佐和子と“大浦君”。 別々のクラスになってしまったが、学級委員として、協力してくれない級友に悩む佐和子に“大浦君”は的確なアドバイスをしてくれたし、行き帰りは一緒。 二人は、もう恋人だった。
 “大浦君”が、早朝に新聞配達のアルバイトをしていた。佐和子にクリスマスプレゼントをするためだ。 家が裕福で小遣いにも困らない“大浦君”の行動をいぶかる佐和子に、“大浦君”は言った。 もらった小遣いで買ったプレゼントより、苦労して買ったプレゼントの方が“中原”は嬉しいだろう、と。
 佐和子は、“母さん”と買い物に行って毛糸を買い込み、“大浦君”にプレゼントするマフラーを編んだ。 そしてクリスマス・・・・約束の日、“大浦君”は交通事故で死んでしまった。
 “大浦君”を失った佐和子は、無気力に過ごした。朝の食卓にも着かず、ただ、無為に。
 “父さん”は、いつの間にか予備校の本採用になっていた。「こっちの方が面白くなった」と、受験生兼フリーター卒業を宣言。 “母さん”は、アパートを引き払って家に帰る考えを明かした。 “直ちゃん”は、よしこに何やら話を。
 突然、よしこが手作りシュークリームを持って、佐和子の部屋に押しかけた。 恋人はまた出来る、家族は作るのは大変だけど、その分滅多には無くならない、甘えればいいんだ〜不器用な言葉で、よしこは語る。
 又、“大浦君”の母が、“大浦君”が佐和子のために買っていたクリスマスプレゼントを持って、佐和子を訪問した。 そのプレゼント、マフラーに、“大浦君”は手紙を添えていた・・・・・・・・・・。
一言
 中原家は、多分数年前まで、生真面目な教師の父と、しっかり者な専業主婦の母と、優等生の長男と、兄ほど優秀ではないがちゃんとしている長女の4人が、穏やかに暮らしていたのでしょう。 しかし長女(佐和子)中3の時点では、「父さんを辞めた」父と、一人暮らしをする母と、大学に行かずに農業を始めた長男と、一人気丈に普通に振る舞う長女の4人家族。 この、変わった家族の、だけど何故かありふれた日常の物語です。
 どう見ても、崩壊してしまっている家族。壊れているのに繋がっている家族。 支えているのは、健気な末っ子だが、悲しい出来事を機にそのヒロインの心が挫けてしまい、いよいよ家族は壊滅か・・という時、 支えられていたと思われていた家族が、彼女を支えてくれる。〜極要約すれば、こういう風に「家族は滅多には無くならない」という話。
 食卓を囲んで、家族全員揃って朝食をとることの復活をほのめかして、この映画は終わりますが、 食卓を囲んで一緒に食事をするという何でもないことが、実はとても幸福なことであり、だから、「幸福な食卓」なのでしょう。
 家族の物語であるこの作品の中で、大きな存在感を放っている他人が、“大浦君”と“小林よしこ”。 “大浦君”は、彼自身が言っていた通り、佐和子を守ってくれていた人。 “大浦君”から受け取れなかったマフラーはちゃんと佐和子の手に渡り、“大浦君”に渡せなかったマフラーも無駄にはなりませんでした。 “小林よしこ”は、佐和子にとってストレスの元(?)だったけど、彼女流の言葉で、無気力に陥った佐和子を叱咤した人。 “小林よしこ”の行動は、佐和子の知らないところで“直ちゃん”が働きかけていたから。 この2人を通して、人と人の繋がりは知らないところまで連なっていること、又、本作のキャッチコピー「大丈夫。気づかないうちに、守られてるから。」の意味を理解出来ます。
 佐和子が、時々振り返りながら土手沿いの道を歩くラストシーンは、演じる北乃きいの表情が微妙に色々うつろっていて、これは小さな家庭用テレビではよく分からないかもしれません。 映画を見るのに最も適しているのは映画館の大きなスクリーンだと、改めて感じるシーンでした。



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