「ローレライ」

公開
2005年3月5日
監督
樋口真嗣
原作
福井晴敏
脚本
鈴木智
音楽
佐藤直紀
出演
役所広司、妻夫木聡、柳葉敏郎、香椎由宇、石黒賢、小野武彦、佐藤隆太、ピエール瀧、橋爪功、国村隼、鶴見辰吾、 伊武雅刀、上川隆也、堤真一、他
備考
  
物語
 1945年8月6日。 特攻作戦に反対して左遷させられていた絹見少佐は、海軍軍令部第一課長・浅倉大佐に呼び出された。 この日の朝、広島に米軍が原子爆弾を投下したことを告げた浅倉大佐は、絹見少佐に伊507館長の任に就き、次の原子爆弾投下を阻止することを命じる。 ただ1艦でアメリカ海軍太平洋艦隊の包囲網を突破して、南太平洋のテニアン島海域に到達し、アメリカの輸送船を沈め、敵輸送路を遮断せよと。
 8月7日。伊507は、既に降伏したナチスドイツから接収した潜水艦。 秘密兵器「ローレライシステム」が搭載されているが、それが何であるのかを知るのは、軍属技師の高須のみ。 絹見を信頼してやまない木崎大尉が先任将校(副長)を務めるものの、その他は定員にも満たない約70名の寄せ集めの乗組員。 だが、重い任務を負って、伊507は出航した。
 その日の夜、伊507は早くもアメリカ軍駆逐艦隊と接触した。 浅見大佐の意向を理由に反対する高須を制して、絹見館長は「ローレライシステム」使用を決定する。 渋々ローレライシステムを始動する高須。 回天特攻隊から転属した折笠一曹は、命じられるままに特殊潜行艇「N式潜」に搭乗し、そこに少女が1人いることに驚く。 高須は淡々と折笠一曹に指示を出しつつ、ローレライシステムを操作。 絹見館長は艦を浮上させて駆逐艦隊に砲撃する作戦を敢行し、一撃で3隻中2隻を仕留めた。 ここでN式潜の少女が気絶してローレライシステムがダウン、しかし残る駆逐艦フライシャーは本部の指令で攻撃を中止し、伊507は危機を脱した。
 ローレライシステムは、新型索敵装置であった。 N式潜の少女が、水を媒介にして人の心を読み取り、ケーブルで繋がっている伊507本艦に伝達、司令室のモニターで周辺の地形や敵艦を立体視出来るという、驚異の秘密兵器。 伊507がナチスドイツの潜水艦だった頃からこの任に就いていた少女の心身は憔悴しており、今回また、アメリカ駆逐艦の死傷者の苦痛に耐えきれずに失神したのだった・・。
 8月8日。折笠一曹は、N式潜の少女の世話を命じられていた。心を閉ざし、何も食べようとしない少女。 折笠一曹は、銀座のパーラーで働いていたことのある掌砲長・田口兵曹長に頼んでアイスクリームを作ってもらい、少女に差し出す。 少女は、ようやく、食べた。
 8月9日。少女が外を見たがっているのに気付いた折笠一曹は、他の乗組員の目を盗んで、N式潜から伊507の甲板に連れ出した。 折笠一曹は、故郷・長崎のことを少女に話す。 口を開いた少女は、パウラ・アツコ・エブナーという名の日系ドイツ人で、歌うことが好きだと語った。 突如、スコールが伊507の甲板に降り注ぎ、パウラは絶叫して倒れる。 伊507本艦の医務室に運ばれて昏睡するパウラ。日本本土では、長崎に、第2の原子爆弾が投下されていたのだった・・・・。
 8月10日。伊507が、高須一派に制圧された。東京では、浅倉大佐が海軍軍令部の部長達を軟禁し、自決を迫っていた。 アメリカ太平洋艦隊が待ち受ける中に浮上する伊507と、東京の浅倉とが無線で交信する。 実は伊507は浅倉大佐の独断で出航したのであり、真の目的は、ローレライシステムをパウラごとアメリカに引き渡し、 原子爆弾は阻止するどころか東京に投下させて、真の日本再生を図る、というものだった。 高須一派は、この浅倉大佐の密命を帯びて伊507に乗艦していたのだった。 だが、館内で数発の銃弾が飛び交った後、かろうじて艦の指揮を取り戻した絹見館長は、霧に助けられて伊507をアメリカ艦隊から脱出させる。 計画が失敗に終わった浅倉大佐は、自らを銃で撃ち抜いた。
 被弾した高須が絶命する前に、パウラが高須の血に触れて心を読み、重大な情報を掴んだ。 東京を攻撃するために第3の原子爆弾を搭載したB29がテニアン島を、11日午前6時30分に飛び立つことになっていることを。 残された時間は少ない。だが、今、伊507は海軍の正式な指揮下に無い。 絹見館長は、決した。第3の原子爆弾投下を阻止するためテニアン島を目指すこと、しかし、希望者には退艦を認めることを。 結果、20名ほどの乗組員が、ボートで艦を離れた。 残った乗組員達は、祖国を原子爆弾から救うために、伊507でテニアン島に向かった。
 8月11日。アメリカ太平洋艦隊のおびただしい艦艇が待ち受ける中、伊507はテニアン島近海の水中を進んだ。 折笠一曹と、自らの意志で戦闘参加を選んだパウラがN式潜に乗り込み、ローレライシステムが起動。 激しい爆雷攻撃にダメージを被りながら、魚雷を敵艦の舵に命中させて効率的に敵艦隊を混乱させ、伊507はテニアン島に接近する。 最後に残されたN式潜の魚雷まで撃ち尽くした時、伊507は敵艦隊の攻撃をかわすことに成功していた。 ここで絹見館長は、N式潜を接続するケーブルの切断を命じる。 折笠一曹とパウラに、大人が始めた戦争に子供の力を借りたことを詫び、生きろと告げて。
 単艦、遂にテニアン島を砲撃可能な位置まで到達した伊507は、テニアン島守備艦隊の真っ只中に浮上した。 その時、テニアン島の基地から離陸した、原子爆弾を搭載したB29が、上昇していた・・・・・・・・・・。
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一言
 アメリカ重巡洋艦インディアナポリスが日本海軍の潜水艦に撃沈されて、同艦に積まれていた第3の原子爆弾の投下は防がれた、というのが史実。 インディアナポリスは撃沈したが原子爆弾は既にテニアン島に陸揚げされていた、という設定から始まるのがこの映画。 つまり、登場人物も、「伊507」も、「ローレライシステム」も実在せず、伊507の戦いも架空のもの。 このことにより、太平洋戦争を題材にした戦争映画でありながら、歴史もの的な束縛から解放されて、SFやファンタジーのような映画に仕上がっています。
 連装砲塔を装備する伊507は、実在の潜水艦がモデルだそうですが、劇場販売グッズの中にミニチュア模型でもあれば欲しいと思うような格好良さでした。
 クライマックスの、敵艦を沈めれば、死傷者の苦痛に襲われてパウラの命すら危ないという制約の中での海戦で、 信管を抜いた魚雷を使うなどという奇想天外な戦法も、見物でした。
 戦争映画としての骨太い部分もしっかりしていて、大人の過ちは大人が決着をつけ、子供達には夢を語り合える未来を残したいという、明確なメッセージが謳われています。 “大人”である軍上層部に責任をとることを迫った浅倉も、“大人”である自分達が責任をとろうとした絹見も、根底の部分では同じような考え方の持ち主だったのかもしれません。
 とかく日本の戦争映画は湿っぽいものになりがちですが、今作は、(日本が負けた)太平洋戦争末期を舞台に、特攻や(ナチスドイツの)人体実験をちりばめ、原子爆弾を巡る攻防を題材としながら、 戦争の悲惨さと主役メカや登場人物の格好良さを両立させ、まるで冒険SF作品のような躍動感と、未来への希望を感じさせる、秀逸な映画だと思います。
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