「壬生義士伝」

公開
2003年1月18日
監督
滝田洋二郎
原作
浅田次郎
脚本
中島丈博
音楽
久石譲
出演
中井貴一、佐藤浩一、三宅祐司、夏川結衣、村田雄浩、中谷美紀、塩見三省、堺雅人、野村祐人、斉藤歩、 堀部圭亮、塚本耕司、比留間由哲、神田山陽、加瀬亮、山田辰夫、伊東淳史、藤間宇宙、伊藤英明、他
備考
  
物語
 明治32年のある夜、熱を出した孫を連れた老人が、診療所にやって来た。 小児担当の妻が奥で診察をする間、主人は老人を別室に通した。 明日引っ越すという診療所。 写真立ての、武士の写真に、老人の目が止まった。 老人は、その武士は父かと訊くが、主人は、その人の薫陶を受けて育ったのだと答えた。
 幕末の京都。新撰組に、純朴な笑顔からは想像もつかない、凄腕の持ち主・吉村貫一郎が入隊した。 が、およそ武士とは思えぬほど金銭に執着し、隊士の失笑を買う吉村。 彼は元々、南部藩の、4俵2人扶持の下級武士で、生活に困窮して、現金収入を得るために、親友で上役の大野次郎右衛門の制止をきかず、身重の妻と2人の子供を残して脱藩した男だった。 そして、稼いだ金は、せっせと国元の妻子に送金していたのだった。
 吉村の剣の腕は抜群で、幾多の任務を遂行する中で、隊士達の信頼を得て行った。 最初は本気で斬り殺そうと考え、実際に斬りかかったことさえある、斉藤一さえも。
 情勢は切迫し、遂に幕府軍と倒幕軍が全面衝突。 新撰組も幕府軍として出陣するが、鳥羽・伏見の戦いは倒幕軍の勝利に終わる。 新撰組の生き残りは、倒幕軍を待ち伏せて襲撃するが、錦の御旗を掲げる大部隊が立ちはだかった。 砂塵の向こうで銃口を構える、圧倒的な敵戦力。 斉藤の制止もきかず、吉村は、両手に大小の刀を握りしめて突撃して行った・・・・。
 「吉村・・・・」老人は思わず、写真に写っている武士の名を口にした。 彼はやはりあの戦いで死んだのかと尋ねる老人・斉藤に、主人・大野千秋は、自らの知ることを語った。 あの夜、南部藩の大坂屋敷で起きたこと。 それから、盛岡で起きたこと。 斉藤の知らなかった、吉村貫一郎の最期を、吉村貫一郎が残した家族や友人のその後を・・・・・・・・
一言
 時代は幕末。主人公は東北地方の藩の武士。 それも貧しい下級武士で、しかし剣を抜けば凄腕の持ち主。 ・・と来れば、どうしても、2ヶ月半ばかり前に公開された「たそがれ清兵衛」と比較してしまいます。
 井口清兵衛と吉村貫一郎の違いは、貧しさとの向き合い方。 清兵衛は、老いた母と幼い娘2人を抱えて、たそがれ時になれば城から帰宅し、野良仕事と内職に出精する日々。 しかし、貧しい生活の中に幸せを見いだし、“凄腕”は封印して、ただ淡々と生きようとした男でした。
 一方の吉村貫一郎は、妻と一男一女を抱え(+妻は3人目を妊娠)、食べるに事欠く家族を養うために、“凄腕”で現金を稼ぐことにし、血にまみれた道で、命を賭した男。
 どちらが正しい、どちらが間違っていると、誰にも決められないでしょう。 選んだ生き方こそ違えど、2人とも、貧しさの中で、どうやって家族を守るかということに懸命だったのです。 幕末という混迷の時代に、正解などあり得ません。
 吉村貫一郎は、家族を食べさせるために現金を稼ぎ、仕送りをし、そしていつかは盛岡に帰って、また家族と暮らすことを夢見ていて、死ぬわけにはいかなかった。 だから「死にたくないから人を斬ります」と言って憚らなかったのですが、帰郷は叶わず、命を落としてしまいました。 「いつ死んでも構わない」と考えていた、最初は吉村を斬り殺したいくらい憎んでいた、斉藤一の方が長命を保ち、孫にまで恵まれたことの、なんと皮肉なことか。
 ところで、理解出来ないことが3つあります。
  1つ、何故、吉村貫一郎は、圧倒的な敵に突撃したのか。 2つ、何故、吉村貫一郎は、あの銃弾の雨の中で戦死しなかったのか。 3つ、何故、吉村貫一郎は、新撰組から離脱して、南部藩への帰参を図ったのか。
 生きることに執着していた吉村が、自ら進んで無数の銃口を構える敵に向かった=死すら覚悟の行動をとったのは、随分突飛。 その突飛な行動は、銃弾の雨に身を晒すことになり、劇中で斉藤が確信していたように、あそこで戦死して当然と思われるのに、一体どうやって致命的な被弾を避けたのか、切り抜けたことが不可解。 その上、血まみれの吉村が向かったのは、脱藩した南部藩の屋敷。 かつて新撰組からの離脱を誘われた時、一度南部藩を裏切っているから、二度は裏切れない、と拒否した吉村が、結局新撰組を裏切ったことになるわけで。 重傷を負って望郷の念に駆られたとしても、ではその前に、何故“決死”の突撃をしたのか?

 この部分だけ、別の映画を見たような感じすらします。
※上の空白部分は、結末のネタ晴れになるので、文字色を背景と同色にして、読めなくしてあります。
既に見ているから大丈夫、あるいは気にしないという方ば、マウスでドラッグすると、背景が白色に反転して、読めるようになります。



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