「涙そうそう」

公開
2006年9月30日
監督
土井裕泰
脚本
吉田紀子
音楽
千住明
出演
妻夫木聡、長澤まさみ、麻生久美子、塚本高史、中村達也、平良とみ、森下愛子、大森南朋、船越英一郎、橋爪功、小泉今日子、他
備考
  
物語
 新垣洋太郎は、沖縄本島のボロアパートで、高校中退後、昼は市場の配達、夜は料理店で働いて暮らしていた。 その洋太郎のもとに、島のおばあの家から、本島の高校に合格した妹・カオルがやって来た。 実は、洋太郎は亡くなった母の、カオルは行方のしれない父の、それぞれ連れ子、つまり血の繋がらない兄妹なのだが。 そのことを知っているのかいないのかカオルは、洋太郎=兄ィ兄ィが高校進学のために島を出て以来の再会にはしゃぐ。
 兄妹2人の生活は、笑いに満ちていた。 洋太郎は妹・カオルのためと、いつか自分の店を出す夢のために働き、カオルは大学進学目指して勉強に励んだ。 その2人を、洋太郎の恋人・琉球大学医学部生の恵子、洋太郎の友人・勇一、洋太郎が働く「みどり」の大将夫婦達が温かく取り囲む。 幸せな時間が流れる。
 洋太郎の夢が叶う時が来た。 「みどり」の客だった亀岡の仲介で買った建物を自力で改装して、洋太郎は遂に自分の店「なんくる」開店を迎えようとする。 だが、開店前夜のパーティーの最中、“本当の持ち主”が現れた・・・・。 仲介者だった筈の亀岡は行方しれず。洋太郎は詐欺に遭ったのだった。 夢の店は一晩持たずに潰え、後には多額の借金が残った。
 洋太郎を、突然、恵子の父が訪ねる。 恵子が恋人を助けたい一心で洋太郎の窮状を父に話していたのだが、恵子の父は、借金を整理する現金を提供する代わりに娘と別れるよう要求した。 いずれ医師になり父の医院を継ぐ恵子と、洋太郎では、釣り合いが取れないと。 洋太郎は現金を突き返して恵子の父を追い返し、恵子までも遠ざけてしまう。
 それから洋太郎は、給料の良い肉体労働に仕事を変えて、働き詰めに働いた。 カオルは、こっそりアルバイトを始める。
 カオルが高校3年生の夏。 祭の夜に、カオルがアルバイトをしていることを知った洋太郎は、受験生が何をしているのかと怒った。 カオルは、妹が兄ィ兄ィを助けるのはいけないのか、兄ィ兄ィはもっと自分のために生きればばいい、と反論。 初めて、兄妹が激しくぶつかり合った。 ・・・・朝になって帰宅したカオルは、寝ずに待っていた洋太郎に、ごめんなさいと告げた。
 春になり、カオルは琉球大学に合格した。 自分のことのように大喜びする洋太郎に、カオルは、大学の近くで一人暮らしすると言い出した。 動揺する洋太郎は、「みどり」の大将に聞いた噂話から、市内に舞い戻っていたカオルの父を訪ねあてる。 カオルが半年前に彼をみつけて話をしたことがあり、今まで育ててくれた“実の兄ではない”洋太郎をもう解放してやれと言った、と彼は語った。 帰宅した洋太郎は、カオルの一人暮らしを認めるのだった。
 カオルの引越の日が来た。 洋太郎は、幼い頃の写真アルバムを手渡す。 カオルは、素直な気持ちで、自分の思いと感謝を言葉にして、二人で過ごしたアパートを出て行った。
 それから、借金が片付いた洋太郎は自分の夢のために働き、カオルは大学で勉強に励んでいた。 兄妹が別れて1年半が経った頃、洋太郎宛にカオルから手紙が届く。 今度の正月には、成人式のために島に帰って、島のみんなにありがとうを言いたい、その時、兄ィ兄ィにも会って話をしたい、と書かれた手紙が。
 年の暮れ。12月には珍しい台風が、沖縄本島を襲った。 カオルのアパートは、折れた木に窓ガラスを砕かれて、室内は強い風雨にさらされる。 停電して真っ暗な部屋の中で、どうしようもなくカオルが泣き出した時、洋太郎が駆け付けてくれた。 カオルが泣いている気がして来たという洋太郎は、建具等を使ってテキパキと窓を塞ぎ・・・・倒れてしまった。 久しぶりに会った兄ィ兄ィの高熱に驚いたカオルは、救急車を呼ぶ。
 研修医となった恵子がいる病院に搬送された洋太郎は、医師に心筋炎と診断され、入院することになった。 落ち着いて、待合室で語り合うカオルと恵子だったが、洋太郎の容態急変を知らされて、病室に急行する。 医師達の処置を見つめるカオルの、「兄ィ兄ィ!」と叫ぶ声が病院に響き渡る・・・・・・・・・・。
一言
 BEGIN作曲、森山良子作詞のヒット曲「涙そうそう」から膨らませた、血の繋がらない兄妹の物語であり、その“兄ィ兄ィ”の25年の生涯の物語。
 詞の“背景”を知っていれば、“兄ィ兄ィ”の運命は分かってしまうのですが、そんな重要なことが分かっていても面白さは損なわれません。 又、TBSの「『涙そうそう』プロジェクト」の第3弾に位置づけられた映画でもあり、見る者を泣かそう泣かそうという意図が見え見えなのですが、見終わってみると、あからさまな意図もそう気にはなりません。 それは、この映画の“温かさ”の為せる技だと思います。
 ボロボロのアパートで質素に生活しながら、(亡母との約束でもある)妹を守るために正に生涯を捧げた、兄ィ兄ィの温かさ。 血が繋がっていない妹のために身を粉にする兄ィ兄ィを気遣う、妹の温かさ。 兄妹を取り巻く人々の温かさ。 (詐欺にあった洋太郎を励ましたり、妹の大学合格に狂喜する洋太郎と一緒に喜んだりして、売り物の野菜を惜しげもなくプレゼントする市場の人達が特に印象的。) 長生きする間に背負った悲喜こもごもも糧にして、兄妹を包む島のおばあの温かさ。(カオルは、おばあにとっても、血の繋がらない孫!)
 沖縄の空気感を映し取った映像に、多くの人の温かい心を染み込ませたこの映画は、悲しい物語でありながら、観賞後には穏やかな気分にさえしてくれるものでした。
 遺影の“兄ィ兄ィ”が妹を見守っているようなラストシーンも、カオルは泣きじゃくっているのに、温かさを感じるものでした。
 泣かせる映画=良い映画ではないのですが、「涙そうそう」という題名にちなんで。泣かせどころは3つ。
1 容態が急変した洋太郎が処置を受けた時、病院の廊下に響き渡る、「兄ィ兄ィー!」というカオルの悲鳴。
2 ラスト、手紙を読んで、振り袖を握りしめながら「兄ィ兄ィ」と繰り返すカオル。
3 エンドロール、最後に映し出される、振り袖姿のカオルの写真。

 これら全てが、カオル役の長澤まさみの演技。 殊に、振り袖姿のカオルは、兄ィ兄ィがいなくなった悲しみ、いなくても兄ィ兄ィが守ってくれている幸せ、兄ィ兄ィを懐かしく思う気持ち、 これから生きて行く覚悟・・・・たった1枚の写真から、カオルのいろんな感情が溢れてくるのを感じました。 良い女優になったものです。
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