「奈緒子」

公開
2008年2月16日
監督
古厩智之
原作
作:坂田信弘、画:中原裕  
脚本
林民夫、古厩智之、長尾洋平 
音楽
上田禎
出演
上野樹里、三浦徳馬、笑福亭鶴瓶、佐津川愛美、柄本時生、富川一人、タモト清蔵、綾野剛、結城洋平、五十嵐山人、佐藤タケシ、 兼子舜、藤本七海、境大輝、光石研、山下容莉枝、嶋尾康史、奥貫薫、嶋田久作、他
備考
  
物語
 篠宮奈緒子は、12歳の時、喘息の療養のために、両親と共に滞在した長崎県の波切島で、走るのが好きな少年・壱岐雄介をまぶしい思いで見ていた。 その雄介の父・健介は、不注意で海に落ちた奈緒子を助けた後、突然の大波にさらわれて死んでしまった。 父を返せと、奈緒子に怒りをぶつける雄介・・・・。
 6年後。奈緒子は、東京の高校生になり、陸上部に入っていた。 東京で開かれた記録会で、受付係の奈緒子は、波切島高校陸上部の監督・西浦が部員を探すのを手伝うことになったのだが、部員の名は壱岐雄介。 ・・・・6年ぶりに再会して、“あの時”の少女であることを告白した奈緒子に、雄介は「もう忘れた」と答えた。
 「日本海の疾風(かぜ)」と呼ばれて短距離では有名な雄介は、駅伝への転向を宣言し、九州のオープン駅伝に出場した。 奈緒子は、雄介が走るのを見たくて、九州へ飛ぶ。 成り行きで、部員が足りない波切島高校陸上部のために、奈緒子が給水所に立ったのだが、雄介は、奈緒子が差し出した水を受け取らなかった。 そして雄介は、脱水症状で倒れてしまう。 ・・・・雄介は忘れていないし、奈緒子を許してもいなかった。
 事情を聞いた西浦は、奈緒子を夏期合宿中のマネージャーとして波切島に招いた。 西浦は、雄介の父・健介の友人で、健介が遭難した時の捜索にも参加し、事情聴取に懸命に答える幼い奈緒子の姿も見ていた。 雄介と奈緒子の再会のきっかけを作った責任を感じ、時間が止まったままの2人をなんとかしたいと思ったのである。
 波切島高校陸上部の夏期合宿は、いつにない西浦のしごきの連続だった。 一番速い雄介のレベルに合わせた練習に苦しみ、音を上げる部員達に、西浦は容赦しない。 部員達の心はバラバラに・・・・。
 西浦が、自宅で倒れた。みつけた奈緒子と雄介が病院に運ぶ。 西浦はガンに冒されていて、自身の余命が幾ばくもないことを知っていた。 翌日、奈緒子は、西浦はしばらく出張している、と部員達に発表した。 西浦のいない陸上部は、いよいよまとまりを欠く・・・・。
 突然、西浦が復帰した。しかし部員達は一つになれない。 奈緒子は西浦に、バラバラの部員達に何も出来ないとこぼすが、西浦もまた、見ているしか出来ないと言うのだった。
 長崎県高等学校駅伝大会の日が来た。 元々補欠だった吉崎を1区に抜擢した西浦の采配に、部員達には不満もあったが、それぞれの持ち場で必死に走り、アンカーの雄介へと、たすきをつないで行く。 たすけを受け取った最終7区の雄介は、先行するライバルの黒田を追って走り始めた。 その頃、奈緒子は、西浦の運転する車で移動していたが、西浦が苦しんで動けなくなってしまった。 西浦に命じられるまま、奈緒子は、雄介を探して走る・・・・・・・・・・。
一言
 長いワンカット、ランナー目線のアングル等、カメラワークが印象的。 かつて、「ロボコン」で、3分間のロボット競技を出演者にさせて、そのまま撮影した古厩監督の作品だということに、納得です。 役者の演技と相まって、ドキュメンタリーを見ているような錯覚をすることもありました。
 長崎県の島の人である西浦(演・笑福亭鶴瓶)が大阪弁だったり、駅伝競技中に選手が喋ったり、気になる点はあるものの、本作は作品世界に引き込む力があり、クライマックスは、本当に駅伝を観戦しているようでした。
 ところで、映画が終わってみると、物語の発端だった、奈緒子と雄介の間のわだかまりはどこに行ったんだろうかと・・・・? 西浦がしたことといえば、奈緒子を 波切島に呼び寄せて、雄介と毎日顔を合わせる機会を作っただけ。 バラバラの部員達を見ているしか出来ないというのと同様に、奈緒子と雄介のことも見ているしか出来なかった、けれども西浦は、 どんな人間関係であっても、逃げ出さずに同じ空間で同じ時を過ごすことでしか築けないと考えていたのかもしれません。 雄介にとって、走ることは、亡き父に近付き、亡き父を感じることであり、走り続けた先で、幼い日の奈緒子を救って死んだ父の心に触れることが出来たということでしょうか。
 コミック原作の映画化作品ですが、どこか、文芸作品的な匂いを感じました。



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