「お と なり」

公開
2009年5月30日
監督
熊澤尚人
脚本
まなべゆきこ
音楽
安川午朗
出演
岡田准一、麻生久美子、谷村美月、池内博之、市川実日子、平田満、郭智博、とよた真帆、清水優、岡田義徳、 森本レオ、他
備考
  
物語
 野島聡は、モデル事務所に所属するカメラマン。 トップモデルであるシンゴが、唯一リラックスできるカメラマンが聡であるため、専属カメラマン的に名も売れているが、 本当は風景写真を撮りたいと思っている。しかし社長の荒木には引き留められている。
 聡の一人暮らしのアパートは、隣室の住人の生活音が聞こえてくる。 ドアの鈴の音、加湿器の音、鼻をすする音、フランス語のレッスンの声・・・・それは騒音ではなく、安らぎを感じる音だった。
 映画進出を控えていたシンゴが、失踪した。 聡が風景写真を撮るためにカナダへ行くつもりでいることを、事務所の後輩の桜井直之から聞いたのが原因らしい。
 聡のアパートに、上田茜という女が転がり込んできた。 シンゴと同棲している恋人で、妊娠もしているという茜は、シンゴから連絡があるまで聡の部屋にいると言って、居座ってしまった。 意外に家事が得意で、聡の迷惑をよそに、勝手に掃除したり、料理をしたりする茜。 そんな彼女から、聡はシンゴの気持ちを知らされる。 〜聡のカナダ行きの希望を直接聞かされなかったのがショックだったこと、自分の存在が聡の夢を妨げているのではないかと悩んでいたこと。〜
 やがて、茜は、シンゴと暮らしていたマンションに帰っていった。聡は、カナダ行きを決心じた。
 日本を離れる前に、田舎に帰った聡は、高校の恩師の退職記念パーティーのカメラマンを引き受ける。 プロカメラマンとして役目を果たす傍ら、会場で心挽かれる女性を見て、シャッターを切る聡・・・・。
 聡の前に、シンゴが姿を現した。 親友同士は直接語り合い、シンゴはモデルとしての限界を感じていたことや家の事情を話し、引退して家業を継ぐ決心を告げた。
 聡の、カナダ行きの日が近付いて・・・・・・・・・・・。
 登川七緒は、フラワーショップの店員。 フラワーデザイナーの資格を取ることと、フランスに留学することを目指して、日々勉強している。
 七緒の一人暮らしのアパートは、隣室の住人の生活音が聞こえてくる。 鍵に付けたキーホルダーの音、コーヒー豆を挽く音、時には・・女性の声?・・・それは騒音ではなく、安らぎを感じる音だった。
 ある日、店に来た客・氷室肇の注文で作った花束を、そのままプレゼントされて、七緒は驚く。 氷室は、七緒がよく利用するコンビニエンスストアの店員だった。 夢のために勉強中の七緒は、氷室の気持ちに応えられないと、断るのだが・・・・。 氷室は七緒に、基調音の話をする。
 後日、七緒は、店に来た女性から封筒を渡されて、氷室の正体を知り、打ちひしがれる。 封筒の中身は、原稿用紙の束。 彼は売れない作家で、七緒のことも三文小説の題材にしていたのだ。 七緒は、氷室に激しい怒りをぶつける。
 勉強の甲斐あって、七緒はフラワーデザイナーの資格試験に合格した。 さらにフランス留学も決まり、日本を離れる前に帰省する。 実家滞在中に、ノジマという同級生から、高校の恩師の退職記念パーティーの連絡を受け、出席した七緒は、カメラマンがレンズを向けるのに気が付く。
 いよいよフランス行きの日が近付いて、荷物を実家に引き揚げた七緒は、アパートの鍵を返すために、久しぶりに東京に戻った。 フラワーショップの仕事で寄る度にコーヒーを賞味していた、馴染みの喫茶店に行って、マスターから、餞別として、壁に飾られていた、七緒のお気に入りの、星空の写真を贈られる。 その写真の裏に書かれていたサインを見て、又、マスターからカメラマンが住んでいるアパートが七緒のアパートと同じだと聞かされて、 あのアパートへと駈ける・・・・・・・・・・。
一言
 音が先行して、少し遅れて映像が現れるファーストシーン。 何度も繰り返される、2人の主人公の、生きている音。 真っ黒いスクリーンに、声と音だけで“その後”を想像させるエンドロール。 〜劇中の氷室の台詞にある「基調音」がキーワードで、音が主役と言ってもいいような、何とも雰囲気のいい映画です。
 岡田准一演じるカメラマン・聡の物語と、麻生久美子演じるフラワーデザイナー(の卵)・七緒の物語が、 別々に同時進行で進んで、隣同士なのに顔を合わせることもない、とても近いのにはるか遠くにいるような2人が、 実は・・・・と迎えるラストシーンには、観客のほとんどが「よかった」と思えることでしょう。
 途中、聡の部屋に突然転がり込んできた茜は、落ち着いた雰囲気の本作の中では、文字通りけたたましい「雑音」ですが、 谷村美月の好演により、良いアクセントになっていると思います。
 ラブストーリーにしては、2時間かけてプロローグを描いた“だけ”という、珍しい作品で、 印象的な“音”と相まって、映画の面白さを堪能出来る、佳作です。



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