「それでもボクはやってない」

公開
2007年1月20日
監督
周防正行
脚本
周防正行
音楽
周防義和  
出演
加瀬亮、役所広司、瀬戸朝香、山本耕史、もたいまさこ、田中哲司、尾美としのり、小日向文世、高橋長英、 大森南朋、鈴木蘭々、唯野未歩子、柳生みゆ、野間口徹、山本浩司、正名僕蔵、田口浩正、徳井優、清水美砂、本田博太郎、 竹中直人、益岡徹、北見敏之、田山涼成、大谷亮介、石井洋佑、菅原大吉、大和田伸也、他
備考
  
物語
 就職の面接に向かう途中、満員電車を降りた岸川駅で、フリーターの金子徹平は突然、女子中学生に手首を掴まれた。 「痴漢したでしょ。」 ・・・・事情は事務室で聞くからと、駅事務室に徹平を連れて行った駅員は、ドアに挟まった服を引っ張っていただけという言い分を聞こうともせず、彼を警察に引き渡した。
 警察署では、自白を強要する刑事に対し、徹平は「やってない」と主張し続けて、拘留されてしまった。 留置場の親切な古株(?)に教えられて当番弁護士を呼んでもらったが、この弁護士も、認めて示談にした方が罰金で済んで早く出られると言う。 「やってないものはやってない」という徹平の主張は、検察庁の取り調べでも聞き入れられない。
 徹平の身に起きたことを知らされた、母・豊子と、友人の斉藤達雄は、弁護士を探して歩き、 ツグミ法律事務所の、元裁判官である荒川正義弁護士と、若手の須藤莉子が弁護を引き受けてくれた。 又、痴漢冤罪事件で一審無罪を勝ち取り、控訴審を係争中の当事者・佐田満をみつけて、協力を得られることになった。 しかし、徹平自身の取り調べ対策も、徹平の無実を照明してくれる目撃者捜しも、初動が遅く、全てが後手に回っていた。 結局、徹平は、検察庁により起訴された。
 起訴された時の有罪確率99.9%、ただし否認している場合は3%が無罪・・・・いずれにしても被告人にとって極めて困難な裁判が始まった。 当事者である徹平にとっては意味不明な用語が飛び交う法廷。 検察が証拠として提出するものの中には、警察が意図的に徹平に不利なように作ったものが多い。 佐田の助言で、支持者で傍聴席を埋め、豊子と達雄は徹平を支援する。 支持者の中には、徹平の元恋人・土居陽子もいた。
 第3回公判で被害者・古川俊子の証人尋問が終わると、徹平はようやく保釈された。 逮捕以来、4カ月。 保釈金200万円を、母・豊子が調達してくれていた。
 公判が続く途中、担当裁判官が大森から、室山に交代した。 以前大森が出した無罪判決が、控訴審で覆ることが続いたため、左遷されたのだという噂も。 室山は、徹平側にとって、冷徹に見えた。
 公判は進む。 証拠を巡る検察官と弁護士の応酬、徹平には被害者が言うような犯行は出来ないことを証明する“再現ビデオ”の提出、 やっとみつけた、徹平がドアに挟まった服を引っ張るのを見ていた乗客・市村美津子の証人尋問・・・・。
 先に、佐田の控訴審の判決が下った。逆転敗訴。一審無罪だった佐田は、有罪が確定し、妻・清子は泣き崩れる。
 事件発生=徹平逮捕から1年、第12回公判。室山裁判官は、判決を言い渡す。 それを徹平は、立ったまま聞いていた・・・・・・・・・・。
一言
 この判決、納得出来ない!〜ラストシーンを見て、心の中で叫びました。
 「この人、犯罪者です!」と突き出された人を、とにかく警察に引き渡すことしか考えていない駅員。 突き出された人を犯人にすることしか考えていない刑事。 警察の作った証拠をろくに検証せず、被疑者を有罪に追い込むことしか考えていない検察官。 「疑わしきは罰する」裁判官。 刑事にとっても、検察官にとっても、裁判官にとっても、一つの事件は、“処理“しなければならない案件の一つに過ぎず、 事件に関わる(関わらされた)人の人格も人生も考慮するに値しない、良く言っても余裕が無くて考慮することが出来ない。 ・・・・何と恐ろしい連鎖なのでしょう。
 この映画を見ると、一度起訴されたら、無罪を勝ち取るのは困難で、冤罪は簡単に起きることを思い知らされ、 普通の人が持っている裁判感や、法に対する信頼は、粉砕されてしまうことでしょう。
 それにしても、裁判シーンが長い映画です。 いきなり事件が発生して、取り調べがあり、起訴後は公判を繰り返し、判決で終わる、体感時間はほとんどが裁判シーンの映画です。 しかも、主人公の人物像も人間関係も、最小限しか描写されず(でも必要なことは大体つかめる)、お気楽に笑えるシーンもほとんど無く、 公判が淡々と進む展開は、まるでドキュメンタリーのよう。 全国一斉封切りの商業映画としては、冒険的な気がしますが、その冒険心には拍手を送りたいと思います。 この映画にこめられた思いは、十分伝わりました。
 本物の裁判を傍聴したことはありませんが、実際のものに忠実に作ったというこの映画の裁判は、証拠という「カード」を切るゲームのように感じられました。 又、事件の再現シーンはあるけれど、事件の真相を見せるシーが無いから、真犯人は徹平が想像する通り「隣の太った男」なのか、別にいるのか、 実は徹平なのか、はたまた被害者の勘違いなのか、あるいはまさか狂言なのか、本当のところは観客にも分かりません。 この映画自体、まるで裁判ゲームで、映画館の観客席が、裁判所の傍聴席のように思える瞬間がありました。
 内容も、作りも、恐るべき映画です。
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