「像の背中」

公開
2007年10月27日
監督
井坂聡
原作
秋元康  
脚本
遠藤察男
音楽
千住明
出演
役所広司、今井美樹、塩谷瞬、南沢奈央、井川遥、手塚理美、高橋克実、笹野高史、伊武雅刀、岸辺一徳、
益岡徹、白井晃、小市慢太郎、久遠さやか、、他
備考
  
物語
 建設会社の部長として、大型プロジェクトに取り組んでいた藤山幸弘は、肺ガンで余命半年と宣告された。 しかし延命治療は拒否し、残された時間を“生きる”ことを選ぶ。 ただ、息子・俊介だけには事実を明かし、妻・美和子と娘・はるかを支えてくれるよう告げて。
 今まで通りに仕事に励み、病気のことを話した愛人・青木悦子とも会い続ける幸弘。 一方で彼は、ずっと会っていなかった人に会い、今生の別れを告げる。 初恋の人、つまらないけんかで絶交してしまった高校時代の親友・・・・。 偶然再会した、幸弘の会社が潰したかつての取引先の社長は、胃ガンで余命1年だと言い、離婚して別れた妻子には連絡せず、「象になる」と語った。
 ガンが進行し、幸弘は会社で倒れて、病院に搬送された。内緒にしていた妻にも会社にも、病気のことが知られてしまう。 ここに至り、幸弘は退職した。 美和子は、夫が退職する時にはそうしようと決めていたという、幸弘が就職した年のワインで労をねぎらった。
 けんか別れしたまま十年以上会っていなかった兄・幸一を訪ねて、幸弘は、ガンで余命がわずかであることを話し、 自分が死んだ後の家族の生活費や子供達の学費が1400万円足りないので、受け取っていなかった亡父の遺産を、自らの死後に家族に渡して欲しいと頼んだ。 幸一は、承諾した。
 ホスピスに入り、幸弘はいよいよ最期の日を迎えるまでを過ごす。 美和子は献身的に付き添い、俊介とはるかも病室に泊まり込むと、家族旅行のよう・・・・。 悦子も見舞いに来た。 幸一もスイカを手みやげに、久しぶりの兄弟の穏やかな語らい。 だが、ホスピスは、今日会った人が明日にはいなくなる場所。 喫煙所で知り合った青年は、ライターを幸弘に遺して亡くなった。
 病状の進んだ幸弘が、車椅子で家族と砂浜でのピクニックを楽しむ時には、夫婦でお互いに約束していた、 思いを綴った手紙は双方とも書き上がっていた・・・・・・・・・・・。
一言
 男にとって都合のいい人生の最期の物語です。 会社人間として生きてきて、専業主婦の妻に家庭を任せる一方で、愛人もいて、余命幾ばくもないと分かってからは妻が献身的で、 息子も娘も理解してくれて、愛人は縁が切れるどころかホスピスに見舞いに来てくれて、その時妻はそれと悟っても二人の時間を作ってくれて・・・・。 気ままに生きてきた男と(兄とも昔の親友とも絶縁状態だった!)、出来過ぎた周囲の人々の物語を見ていて、実はこの主人公は現実的な人間の姿なんだと思えてきました。 勝手気ままに生き、関わった人達を傷付けてきても、最期は大切に思う人達(家族)に包まれて、安らかに迎えたい〜死に行く人間のわがままを、 “周囲の人間”としてこんな風に受け入れられるかと、観客に問いかけているのだとも。
 幸弘の会社に会社を潰され、家族には去られ、人生を滅茶苦茶にされた老人は、孤独に最期を迎えようとし、 ホスピスで幸弘が出会った青年は、婚約者と別れ、両親には“死後”に連絡が届くようにして、やはり孤独に最期を迎えた〜 この2人は、死期を悟ると群れから離れて、ひっそりと死ぬと言われる象のような最期を迎えたと言えるでしょう。 ところが、幸弘は“群れ”の中で最期を迎えることを望みました。 象のように死の前に群れを離れるなんて、人間にはそうそう出来ることではなく、普通の人間は最期も群れの中にいたいもの、 群れを離れる象の背中を見送りながら・・・・と考えると、「象の背中」という題名は、なかなか奥深いものがあります。



学芸員室/映画掛TOPへ戻る