NEW 2026.7.14
☆川島雄三監督作品レビュー❸
大映作品

『女は二度生まれる』『雁の寺』『しとやかな獣』3作品
予告編=
YouTube KADOKAWA映画内動画

注:作品レビューにはおおまかなストーリー展開~ラストシーンも記述している。

未見の方はその点を事前に了承してお読みいただきたい。

題名・予告編→各作品へ


題名

製作会社、
公開年

主な出演者

DVD

『女は二度生まれる』

大映東京 1961(昭和36)年 若尾文子、藤巻潤、山茶花究、フランキー堺、山村聰、山岡久乃、高見国一 DVD&
ブルーレイ化
配信あり

予告篇

『雁の寺』

大映京都 1962(昭和37)年 若尾文子、木村功、高見国一、三島雅夫、山茶花究、中村鴈治郎、西村晃 DVD&
ブルーレイ化
配信あり

予告篇
『しとやかな獣』 大映東京 1962(昭和37)年 若尾文子、伊藤雄之助、山岡久乃、浜田ゆう、川畑愛光、山茶花究、小沢昭一、高松英郎 DVD&
ブルーレイ化
配信あり

予告篇


 タイトル 作品レビュー 
『女は二度生まれる』

◆『女は二度生まれる』(61年)大映東京 カラー シネスコ 99分

 

原作は「姿三四郎」「とんかつ大将」の富田常雄。脚本は井手俊郎、川島雄三。撮影は村井博、美術は井上章、音楽は池野成。

出演は若尾文子、藤巻潤、山茶花究、山村聰、フランキー堺、山岡久乃など。

 

川島雄三が大映で撮った初めての作品。封切時期は『特急にっぽん』(61)の後である。

靖国神社に近い九段の芸者・小えん (若尾文子)の恋の遍歴を描いている。

若尾文子は本作でキネマ旬報とブルーリボンの主演女優賞を受賞している。

 

川島雄三は本作について

「これも評判はよくありませんでしたが、僕としては好きな作品です。僕は実存主義にかぶれているわけではないが、
人間の内部体験として何かが起った。それが何かはわからぬが、確実に何かが起った、
というのがこの映画のテーマなんです。~ 」
(「川島雄三 乱調の美学」P123)

と述べている。

 

前半はこの種の映画によくある月並の展開で面白くない。しかし後半はなかなかいい。

そして余韻を残して終わるラストはとてもいい。

 

【アバンタイトル】

雨が降っている。和室の外からの映像。

和室の布団には建築士の筒井清正 (山村聰)が横になっている。

明かりを消して隣の布団に入る小えん(若尾文子)。

突然、太鼓の音が鳴る。若尾文子は「靖国神社の太鼓よ」と伝える。

山村聰がスタンドライトを消す。

 

映画タイトルに続いてクレジットタイトル、タイトルバックは闇に雪のようなものがちらついている映像。

現代音楽のような不安げな雰囲気の音楽がかぶさる。

「監督 川島雄三」には (東宝)とクレジットが出る。

 

ファーストシーン。

セミの声が響く夏の靖国神社の俯瞰映像に続き、靖国神社への参拝の様子が様々なアングルのショットで続く。
記念撮影の時に靖国神社の太鼓の音。

本作では太鼓の音が随所で効果的に使用されている。

女湯(ロケ地=東京・新宿区神楽坂「熱海湯」)から出てくる若尾文子と二人の芸者。

路地の階段を歩く時の会話が「ねぇ行こうよ、雷蔵がとてもいいんだって」
と芸者の一人が若尾文子に明日映画観にいこうと誘う。

この時期市川雷蔵と多く共演している若尾文子に向かって話す「楽屋落ち」が可笑しい。

大映作品の川島映画に、「カツライス」の市川雷蔵や勝新太郎が出ていたらと想像するのも楽しい。
どんな感じになったのだろう。そんな企画は無かったのだろうか?

 

若尾文子の客・野崎文夫 (フランキー堺)、矢島賢造(山茶花究)、猪谷先生(上田吉二郎)
との情事が続いて描かれる。
芸者の話であるが映画が始まってたった20分くらいに複数の男との情事が描かれるのも珍しい。

 

本作の若尾文子の演技は素晴らしい。

若尾文子を「自ら主張し行動する強い女」として数多く描いた増村映画と似ているが、
川島映画での若尾文子はまた微妙に違うのだ。増村映画よりもさらに「女性のしたたかなパワー」を感じる。

 

本作で若尾文子に言い寄る男たちの演技も見事だ。

パパとなって面倒を見る山村聰。小津映画や成瀬映画、そして日活時代の川島映画の山村聰では
あまり見られない好色さが際立つ。若尾文子とのキスシーンもいやらしい感じである。

そして山茶花究。演技ではなく素でやっているとしか思えないほど。

相手が美女・若尾文子なら仕方ないのかもしれない。

 

学生の牧純一郎 (藤巻潤)と若尾文子が偶然に会い、一緒に靖国神社を参拝するシーン。

村井博の撮影による構図に凝ったショット展開が見られる。

 

ラスト近くに川島雄三得意の「女同士バトル」が二つ登場する。

 

【ラストシーン】

突然信州・上高地へ向かう若尾文子と弟分の友達・泉山孝平(高見国一)。

上高地へは高見国一を一人で行かせ、自分は長野の知り合いのところに向かうと駅の待合室に佇む若尾文子。

説明的な終わり方の多い最近の映画やテレビドラマを見慣れている方には、
「えぇ、これで終わり」と思われるかもしれない。

この唐突な終わり方が川島雄三らしい切れ味で素晴らしい。

 

KADOKAWA 角川シネマコレクション DVD・4Kブルーレイ・デジタル配信情報

☆ロケ地紹介(YouTube旧作日本映画ロケ地チャンネル)

『雁の寺』

◆『雁の寺』(62年)大映京都 白黒・パートカラー シネスコ 98分

原作は水上勉の直木賞受賞の小説。脚本は舟橋和郎、川島雄三。撮影は村井博、美術は西岡善信、音楽は池野成。

出演は若尾文子、三島雅夫、木村功、高見国一、山茶花究、中村雁治郎、西村晃、小沢昭一など。

 

京都の禅寺を舞台に、和尚・北見慈海(三島雅夫)、その愛人・桐原里子(若尾文子)、
修行中の少年僧・堀之内慈念(高見国一)の三人をめぐる愛憎劇。封切時期は『花影』(61)の後である。

原作者・水上勉の実体験(少年僧)を元にしているので、禅寺の日常の描写がリアルだ。

モデルになっているのは京都・相国寺の塔頭「瑞春院」(ずいしゅんいん)で門には「雁の寺」とある。
同志社大学の隣にある寺だ。

 

川島雄三は本作について

「~カメラの村井博君に感謝したい。というのは、私は絵画的な面から入る演出家じゃなかったのを、
村井君が、そういう面での反省をさせてくれた気がするからです。
それまでは僕は、むしろ絵画性の無視を考えていました。~」
(「川島雄三 乱調の美学」P127)

と述べている。

 

この言葉は本作の特徴を一言で伝えている。

確かに本作は「絵画的な構図」に満ちていて、画面の緊張感が凄い。

その点では見事な作品である。

しかし川島映画の独特のリズムとテンポ、粋で洒脱な演出方法を好む私にとって本作の評価は低い。
最初に観た時に感じたことは「これは本当に川島映画なのだろうか?増村保造監督の映画では」である。

大映作品、人間のドロドロした感情をストレートにぶつけあう愛憎劇、カメラも初期の増村映画の撮影監督である村井博、
そして増村映画のコンビ・若尾文子などの要素があり、「増村映画ではないか」との印象は変わらないのだ。
要は川島映画っぽくないのである。

 

【アバンタイトル】

日本画家・岸本南嶽(中村雁治郎)が禅寺「孤峯庵」で雁の親子の襖絵を描いているシーン。
中村雁治郎の愛人の桐原里子(若尾文子)、和尚の北見慈海(三島雅夫)の三人が談笑している。
襖絵のアップに続いて映画タイトル。

クレジットタイトル。

タイトルバックは、その襖絵の雁の親子の絵を1秒ごとという目まぐるしいスピーディなショット展開で様々な構図で見せていく。

アバンタイトルと本編はモノクロだが、このタイトルバックはカラー(本編のラストもカラー)という珍しい手法だ。

 

ファーストシーンは、京都の住宅の玄関前の俯瞰映像。

病床の中村雁治郎が三島雅夫に、自分が死んだら愛人の若尾文子の面倒を見てほしいと頼む。
死ぬ間際に何という頼みかと呆れるが、以前から若尾文子に目をつけていた三島雅夫演じる和尚はそれを受け入れる。
美しい愛人役の若尾文子の和服姿の妖艶さは凄い。

 

本作は川島雄三の言葉通り「絵画的なショット」に満ちている。

禅寺の部屋や廊下などが中心となる屋内シーン、禅寺の墓地などの屋外シーンとも、
シネマスコープ・光と影のコントラストの強いモノクロ映像は美しい。

しかしユニークさが特徴のこの時期の川島映画としては不満が残る。

そのような映像美は他の映画監督作品にも数多くあるではないか。

つまり極めて真面目な調子がつまらないのである。

本作がこの時代(東京映画、東宝、宝塚映画)の他の映画のようにもっと、
川島雄三らしいユニークな演出があったらどうだったろうか。
何と言っても本作には「笑えるようなシーン」が見当たらない。
映画の完成度としては高いかもしれないが、川島映画としての魅力は少ないと感じる。

 

池野成の音楽も、暗くて重厚な響きがあり本作の雰囲気と合っていて逆につまらない。
音楽の感じも正に増村映画を思わせる。
私は増村映画にも好きな作品(特に『妻は告白する』(61 大映)、『陸軍中野学校』(66 大映))が多く、
増村作品が嫌いと言っているのではない。

川島映画としてこのようなストレートな作風はどうなのかということだ。

 

また川島映画の特徴の一つとされるトイレシーン。

本作の禅寺のトイレシーンの描写はあまりに下品で汚らしい。

『幕末太陽傳』(57)、『貸間あり』(59)、『箱根山』(62)などのトイレシーンは観ていて微笑ましいが、
本作の描写にはついていけない。

川島映画はどんな題材でも都会的な粋さ、江戸落語のような粋なセンス、
英語で言う【Sophisticated Comedy】の映画であってほしいというのが私の主張だ。

ひねりのないストレートでリアルな描写は川島映画には似合わない。

【ラストシーン】

といった個人的な不満はあるものの、ラストの展開だけは川島雄三らしいユニークさで素晴らしい。
和尚が亡くなったらしいと悲嘆して部屋の雁の襖絵を開けていく若尾文子の連続ショット。
親子の雁の絵。親の部分が破られていて、静かに泣き叫ぶ若尾文子。

 

画面は突然カラーとなり現在の観光地のお寺の風景。観光バスも停まっている。

修復した親子の雁の絵が有名になったお寺で外人観光客の前で説明をしている和尚姿の小沢昭一。
小沢昭一の説明の後に通訳が英語を話す。

 

『幕末太陽傳』(57)のラストで現代の街並みをフランキー堺が走っていくのをやりたかったとの話は有名だ。
今村昌平たちスタッフの反対で実現できなかった川島雄三が本作でそれに近いことをやったということなのか?

 

ラストは修復された親子の雁の襖絵がアップとなり終わる。

この切れ味のいい編集や終わり方は正に川島映画である。

本作はこのラストの展開だけは大絶賛したい。

 

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☆ロケ地紹介(YouTube旧作日本映画ロケ地チャンネル)

『しとやかな獣』

◆『しとやかな獣』(62年)大映東京 カラー シネスコ 96分

新藤兼人原作のオリジナル脚本。

撮影は宗川信夫、美術は柴田篤二、音楽は池野成。

出演は伊藤雄之助、若尾文子、山岡久乃、浜田ゆう子、山茶花究、高松英郎、小沢昭一、船越英二、川畑愛光など。

 

東京郊外の団地の部屋を中心にした舞台劇のような映画である。

封切時期は『箱根山』(62)の後となる。

カメラは団地の部屋と階段以外、屋外ロケーションはほとんど無い。

観ていて息苦しくなるような感覚に陥る、実験的な映画である。

 

守銭奴のような前田時造(伊藤雄之助)、妻・よしの(山岡久乃)、会社の金を使い込む息子・実(川畑愛光)と
大衆小説家の愛人となる娘・友子(浜田ゆう子)が住む団地の部屋をメイン舞台に展開する。

それに絡むのが芸能プロダクションの社長・香取一郎(高松英郎)、会計係・三谷幸枝(若尾文子)など。

 

アバンタイトルは無い。

映画タイトルに続きクレジットタイトル。

タイトルバックには「能」の謡が流れる。
二間続きの団地の部屋でテーブルや椅子を片付けている伊藤雄之助と山岡久乃の姿が団地のベランダ方向からの構図で描かれる。

 

ファーストシーンは、逆方向に団地の室内からベランダに向けた構図、二人の会話のショットで始まる。

客が来るので、貧乏しているように見せかけるため高価なものをしまいこんでいることが会話でわかる。

そこを訪ねたのが芸能プロダクションの社長役の高松英郎と美人の会計係の若尾文子と
ジャズ歌手のピノサク(小沢昭一)で、芸能プロに勤める実(川畑愛光)がタレントのギャラを
持ち逃げしたとのことで両親である二人を責める。

 

小沢昭一扮するジャズ歌手のピノサク。

白いスーツで髪ともみ上げが金髪、英単語がまざった日本語を話す、怪しげな人間を演じている。
人間の執拗な金銭欲を執拗に描いたブラックコメディの要素の本作の中で、苦笑してしまうのがこのピノ作の演技だ。
小沢昭一本人も生き生きと演じているのが画面を通してわかる。川島雄三に「好きな俳優」と言われた小沢昭一だ。

川島映画では風変わりな人物を演じることの多い小沢昭一でやはりこのピノ作が最高だろう。
名前からして凄すぎる。冒頭のシーンにしか登場しないので、より強烈な印象がある。

 

ほとんどが狭い団地の部屋での室内劇なので、

・天井からの俯瞰

・小津映画を超える超ローアングル

・テーブル下からの盗撮のような変なアングル

など、構図は凝りに凝っている。

屋外シーンもほとんど無く映像の工夫は構図くらいしかできないということだろう。

室内劇なので台詞も非常に多い。

 

法律に明るくクールな計算をしている会計係の若尾文子が綺麗だ。

本作に限ったことでなく、溝口健二、小津安二郎、増村保造、吉村公三郎などの監督の映画の若尾文子は常に美しいが、
本作の若尾文子は出演した全作品の中でも1、2を争う美しさではないだろうか。独特の艶めかしい声もグッとくる。

 

息子・実役の川畑愛光は大きな声でがなりたてるばかり。素人っぽい演技そのもので観ていてつらい。

高松英郎が下りる、そして若尾文子が上ってくる長い階段。
実際の団地の階段ではなく登場人物の心理状態をイメージした美術だ。
それぞれ高松英郎と若尾文子のナレーションがかぶる。

 

ストーリーはまったく異なるが、団地の部屋を舞台にした室内劇、多用される奇妙な構図、全体的にクールな感じなど、
森田芳光監督の『家族ゲーム』(83 ATG)と雰囲気が似通っている。

 

当時、東京映画等で比較的娯楽作品を撮っていた川島雄三が、
人間の心の奥底を冷徹に描きたいとの思いもあり大映において実験的な作品を撮ったということだろう。
脚本は新藤兼人のオリジナル。新藤兼人の数多い脚本の中でもトップレベルのクオリティだろう。
ただし、前述の2作品と同様、川島雄三以外の監督でも撮れる題材だと感じる。
本作も一般の評価は高いが、川島雄三作品の魅力の本質からは離れているというのが私の意見だ。
大映の3作品は、すべて異色作だ。

 

本作は当時の正月映画で興行成績も良くなかったらしい。

正月映画にふさわしくない映画なのは確実だ。

世評は高いが個人的にはあまり評価していない大映時代の3本の川島映画の中では、本作は一番好きな作品だ。

 
【ラストシーン】

ラスト、パトカーのサイレンが止まり、何事かと雨の降る外を見てはっとして振り返る
山岡久乃のアップの表情が素晴らしい。

団地の屋上から自殺をしたらしい(間接的に映像表現されているので実際に自殺したかはわからない)
税務署員・神谷栄作(船越英二)の姿を見かけたと思われる山岡久乃。

ベランダから部屋のソファで寝ている伊藤雄之助を見る顔のアップは、
何を考えているのか簡単に読み取れない表情をしていて不気味だ。

 

その後、雨の降る屋外から団地を映す初めてのショットが続き、観客がすっきりとしない気持ちを残して終わる。
新藤兼人のシナリオもいいのだろうが、説明的ではなく余韻を残すこのラストシーンの感覚はさすが川島雄三だと唸ってしまう。

 

大映作品の3本は、ラストだけは全部素晴らしい。


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❹(日活時代①)に続く


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