成瀬作品の男優についての感想

加東大介

女優編に続いて、男優編も徐々に書いていきます。
成瀬作品では、女優の方が中心かと思いますが、男優にも素晴らしい役者が揃っています。第一弾は加東大介です。黒澤作品、小津作品や東宝の社長シリーズなど、本当に数多くの作品に出ていますが、成瀬作品にもかなり出ています。

まずは「おかあさん」。夫を亡くして女手一人で子供達を育てていこうとする田中絹代のクリーニング屋で中心になって働く、木村の役(シベリアに抑留されていたので子供達には「捕虜のおじさん」というニックネームがつけられる)です。頼り甲斐があって明るい木村の役は正に加東大介のはまり役でしょう。仕事が終わった夕方に、田中絹代の用意したコップ酒を上手そうに飲むシーンはとてもゆったりとしてていいです。

「晩菊」では、杉村春子の家を訪ねる不動産プロ−カーの役で最初と最後に登場します。帽子とメガネ姿がとても似合います。「浮雲」は、富岡(森雅之)とゆき子(高峰秀子)が逗留する伊香保温泉のバーの主人の役。年の離れた若い妻(岡田茉莉子)を持って照れた表情をします。「あらくれ」は、お島(高峰秀子)の夫の役ですが、気性の荒いお島には、喧嘩で家の中でホースで水をかけられたり、ラストは囲っている愛人のところにつけられてしまい、裏から逃げ出すと散々な目にあってしまいます。(自業自得でしょうが)

「放浪記」では、芙美子(高峰秀子)の若い頃の下宿の隣人 安岡の役で、芙美子にふられてしまうのですが、その後も要所要所で芙美子の力になるとてもさっぱりとした気持ちのいい人物を演じています。ラストも人気作家になった芙美子の邸宅で会うシーンに登場するなど、「放浪記」ではとても重要な役です。

私が好きな作品「秋立ちぬ」では、真珠商人で茂子(乙羽信子)と駆け落ちしてしまう富岡役を演じています。最初に、茂子がつとめる旅館で茂子のおしゃくでビールを飲むシーンですが、ビールを飲む時も、目線を下に落とさず、茂子を上目遣いで見ながら(動物が獲物を狙うごとく)ビールを飲むのは、加東大介の独特の演技かなと思います。他の監督作品でも似たようなシーンを見た記憶があって。私はこれを「加東大介飲み」と名付けています(笑)是非ご覧あれ。

他にも「女が階段を上る時」「鰯雲」「驟雨」「妻の心」「流れる」「杏っ子」「娘・妻・母」「女の座」「女の歴史」「女の中にいる他人」「乱れ雲」と本当に数多くの成瀬作品に出ています。

この人が画面に出てくると「ほっとする」ように感じます。「癒し系」かもしれません(笑)。

他の監督作品で印象的なのは、増村保造監督「黒の超特急」の
悪徳不動産プロ−カー、内田吐夢監督「血槍富士」の若侍のお供の源太役、千葉泰樹監督「羽織の大将」の落語家の師匠、小津作品「秋刀魚の味」(バーでの敬礼のシーンで有名)といったところでしょうか。

三船敏郎

今回は三船敏郎についてです。
黒澤作品、稲垣作品等のイメージが強い三船敏郎ですが、成瀬作品にも2本出演しています。

「石中先生行状記」第3話(1950)と「妻の心」(1956)の2本です。
この2本では黒澤作品等のキャラクターとはずいぶんと異なっています。ぎらぎらしていない演技、静かな演技とでもいいますか。「石中先生行状記」では田舎の青年(馬車で干草を運搬)を演じていますが、少しどもりがちで、純朴なキャラクターが魅力です。
ラスト近く、若山セツ子を家に送っていく田舎道で、一緒に「青い山脈」(:若山セツ子は「青い山脈」出演者の1人)を唄いながら馬車をひくシーンは、大好きな場面です。
ラストで石中先生に向かって言う台詞「先生、女を一目で好きになるというのは、いい事ですか」は、「幸福感」一杯の雰囲気でジーンとさせられます。

「妻の心」はヒロイン高峰秀子の親友の杉葉子の兄の銀行員の役です。
高峰秀子と小林桂樹の夫婦が、喫茶店を開業しようとして、銀行からお金を借りようとすることから三船が登場します。確か最初の登場は加東大介のレストランで高峰秀子が料理を習っている時にレストランに入ってきて、渋い声で「話って何ですか」と高峰秀子に聞くシーンだったと記憶しています。ぱりっとしたスーツ姿で、落ち着いた感じが渋いです。それと笑い顔がとても
素敵です。黒澤作品の多くのエネルギッシュな三船像とはかけ離れていて、この渋い三船敏郎は、正に成瀬演出のマジックという感じです。こういった起用方法だけみても、いかに成瀬が素晴らしい演出家かが理解できます。
2年前の三百人劇場のインタビューで小林桂樹氏が「成瀬作品の三船さんはとてもいい」とおっしゃっていたのが印象的です。

藤原釜足



2003.6.3NEW

ここ1年くらい、スカパー「成瀬巳喜男劇場」で1930-1940年代の成瀬作品を集中的に見ていて意外にこの俳優さんの出演が多いのに気づきました。
藤原釜足。 黒澤作品の名脇役(「七人の侍」「隠し砦の三悪人」など)で有名ですが、実は成瀬作品の常連でもあるんですね。いくつか挙げてみると「乙女ごころ三人姉妹」「女優と詩人」「サーカス五人組」「妻よ薔薇のやうに」「噂の娘」(すべて1935 PCL)とすべて連続して出演しています。さらに、「桃中軒雲右衛門」「君と行く路」「鶴八鶴次郎」と続きます。

藤原釜足といえば、あのひょうひょうとした、独特の表情と言い回しが魅力です。成瀬作品では、ユーモラスな雰囲気をかもし出す点で貢献しているように思います。
代表作としては、成瀬作品での唯一の主役といってもよい「旅役者」でしょう。地方の旅回りの役者の中で、後輩で相棒の柳谷寛と馬の脚を演じる俵六を生き生きと演じています。旅先の飲み屋の女給に、馬の脚を演じる技の難しさについて語ったり、相棒の柳谷寛にたいして、休みの日にも、実際の馬の動きを見て研究を促すなど、成瀬の芸道物の1本に入れてもいいほど、この作品での藤原釜足の「芸に対する意気込み」はかっこいいものがあります。

準主役といえるのは「秀子の車掌さん」でのバスの運転手・園田役でしょう。(この作品では藤原鶏太とクレジットされています)。田舎の実直で素朴なバスの運転手を演じています。
その他、「鶴八鶴次郎」では、鶴次郎(長谷川一夫)の番頭(いまでいうマネージャーか)役の佐平、「妻よ薔薇のやうに」「噂の娘」では、ヒロイン千葉早智子をサポートする叔父役。「女優と詩人」では売れない小説家役、「サーカス五人組」では旅回りの楽団の一人とさまざまな役で登場します。作品の中にユーモラスな雰囲気を挿入するのは成瀬作品の大きな特徴ですが、藤原釜足は、戦後の成瀬作品にも見られるそのような役回りを演じているといってよいでしょう(「おかあさん」での岡田英次、「驟雨」での小林桂樹など)。

戦後の1950年代-1960年代は、常連というほどではありませんが、「石中先生行状記」「お国と五平」「夫婦」「秋立ちぬ」などに出ています。個人的には「夫婦」でのヒロイン杉葉子の父親役、「秋立ちぬ」の銀座の八百屋の主人・常吉役が気に入ってます。
こういう名脇役に日本映画は支えられていたんだと、最近の邦画を見るたびにつくづく感じます
。


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