3D模型のシンポジウム
9月23日午後、大阪市立自然史博物館で開催された「シンポジウム「触れる鑑賞を当然のこととするために」 (3D4SDGsプロジェクト第14回シンポジウム)に、 Kさんと一緒に対面参加しました。
7年ほど前から、大学入試センターの南谷和範氏を中心とするグループが、科研費を利用して、3Dプリンタで製作した触る模型を全国のミュージアム等に普及させる活動をしており、今回のシンポジウムもその一貫です。今回も、視覚障害の参加者には3D模型が3点配られました(オンライン参加は事前に、対面参加は当日)。
まず、長年ユニバーサル・ミュージアムの理念と実践の普及活動をしておられる、国立民族学博物館教授の広瀬浩二郎氏の基調講演「触覚がひらくユニバーサル・ミュージアム-日本人は「目に見えないもの」をどうみてきたのか-」。全体に、長年の研究と活動に立脚した深い内容で、共感するところも多くありました。私が広瀬氏のお話を要約するのは力不足なので、そのレジメから要点8つを以下に記載します。
①「ユニバーサル・ミュージアム」展の全国巡回構想(さわる体験の共有は「分断」を超克する)
②物と者をつなぐ「振動・運動・感動・変動・連動」の反復・拡大(展示を通じて「実感・体感・情感」の意義を再確認し、「共感」の場を創る)
③近代化は必然的に「disabled=できなくさせられる」人々を生み出す(日本の盲人史[琵琶法師や瞽女など]に「脱近代」の思想の可能性を探る)
④谷崎潤一郎『春琴抄』と蝉谷めぐ実『見えるか保己一』を読み比べる(「五感」ではなく「互換」で“みる”博物館をデザインする)
⑤「見常者/触常者」とは誰なのか(目に見えぬ気配・雰囲気を察知し、諸感覚を統合する「触角」概念の提案)[インクルーシブやアクセシブルは、マジョリティがマイノリティに対する作]
⑥「他用性(行き方)」なき「多様性(生き方)」の危うさ(「インクルーシブ」「アクセシブル」と「ユニバーサル」の違い]
⑦当事者主権(nothing about us without us)の先へ(「誰一人取り残させない社会」の実現に向けて)[誰一人取り残さないは、マジョリティが主語。誰一人取り残させないは、マイノリティが主語]
⑧「触角で拓く/触角を開く」新たな人類史の構築(「見えないものをみる」触文化展のスローガン「Before Sight, There Was Touch」)
また、広瀬氏は自作の陶の作品を参加者に回覧しました。4点セッドで、直径7、8cmほどの小さ目の飲み物用のような器です。4点とも手前が飲み口で、それぞれ右側の異なった位置に取っ手のような突起部があります(親指とともに、この取っ手にそれぞれ人差し指、中指、薬指などをそえて持つようだ)。そして器の中に、小さな四角い台があり、その上面に点字が浮き出しています。その点字は、2、4、5の点で、日本語なら「ロ」、アルファベットなら「j」。この点字の形は、 j を基準に反時計回りに90度ずつ回転させると、 d、 f、 h となります。(この 4つで、JDFH、これを「Just Do From Have」と、なんだか分かったような分からないような文にしていました)表面の手触りは、スルスル、サラサラ、ちょっとざらついたり、さわさわしたような感じだったり、変化しています。全体によく考えられた作品だと思いました。なぜ3Dのシンポジウムで、自作の作品を回覧したのでしょうか?3Dだけでは伝えられない、実物の面白さを示したかったのでしょうか?
続いて、このプロジェクトを推進している、大学入試センターの南谷和範氏の講演「どの博物館のどんな展示物もみんな触れるようにするにはいったいどうしたらいいのか?」。
初めに、このプロジェクトのこれまでの活動について。実物を3Dのデータにし、それを3Dプリンターで打ち出せば、簡単に模型が作られ、提供できるということで、2019年から活動を始めたとのこと(各シンポジウムでは、それぞれ 様々の3D模型を製作し、主に視覚障害の参加者に配布してきた)。これまでは主にオンラインで3D模型普及のシンポジウムなどを開催してきたとのことです。今回のような対面とオンラインのハイブリッド形式は始めてだとのこと。また、3D模型製作の方法や技術を教える研修会のようなこともしておられるそうです。この3D模型によって、全国の博物館や美術館はじめ、公的な施設、学校などの教育現場など様々な場面で、だれにでも、とくに視覚障害者に役立てられる、と活動を続けています。
仕事柄南谷氏は、全国の大学の障害者などへの対応に詳しく、とくに今回は、差別解消法の改正により合理的配慮が公的機関だけでなく民間にも拡大されたこともあって、合理的配慮を 3D模型の普及の根拠として強調されていました。各大学では、合理的配慮の下、多様な障害の者たちにサポートセンターや相談室などを設け、幅広く対応しており、かなりの成果を上げているようです。それと同様なことを、博物館や美術館などでは 3D模型を使って大々的に行うのがよいというような主張です。
もちろんそれはその通りだと思いますが、私はちょっと腑に落ちないような気持ちになりました。博物館に行った場合、一番よいのはもちろん実物に触れられることです。実物を通して、形や触感だけでなく、その実物につながる人たちや物たちに近づくことができ、それは鑑賞において大切なことだと思います。もちろん多くの場合実物には触れられず、あきらめるか、可能なら代わりとなるレプリカに触れます。 3D模型は、そのレプリカの 1種だと言えますが、南谷氏たちのプロジェクトが推奨しているのは、プラスチック樹脂を材料にして、熱で溶かしながらごく薄い層を積み重ねてゆく積層法式です。その大きな理由は製作費が安くて済むということかと思いますが、視覚障害の人たちのための触察用にこの法式による模型がどんどん増えていくことにはちょっと違和感を感じてしまいます。私はこれまで多くの博物館に行っていろいろなレプリカに触れましたが、材料も多種類の樹脂だけでなく中には石膏や石、金属もありましたし、切削加工や型に流し込む方法、模刻などもありました。実物の手触りや重量感、ときには匂といったものまで、実物の特徴を考慮してつくられているなあと思うこともしばしばありました。模型であっても、触ってすごいなあと感じるのはそういうレプリカだと思います。そういうことも考えて、少なくとも博物館では簡易な3D模型にとどまらずいろいろなレプリカをつくってほしいものです。
お話の最後は、配布されていた「地球」の3Dの小さな模型。直径5cmほどの半球状で、断面は赤道面になっています。中心部に直径1cm弱の球が断面からちょっと突き出していて、これが内核。内核の回りは1cm弱幅くらいの空洞になっていて、これが外核。その外側がかなりぶつぶつした面になっていて、これがマントル下部から地殻まで(地殻は薄くてこのサイズの模型ではあらわせないとのこと)。地球表面は10数枚のプレートからなっていますが、この模型では大きなユーラシアプレートが表面にマジックテープのようなものでくっついています。ユーラシアプレートはかなり大きくて、東西は地球の半周近く(ヨーロッパから、ロシアや中国、西日本まで)もあり、南北も赤道を越えた辺り(スマトラやジャワなどインドネシアの島々)から北緯60度くらいまでです。
続いて、大阪市立自然史博物館の石井陽子氏の「大阪市立自然史博物館における触れる展示の取り組み」。開館当初(1980年代?)から触れられる展示は数点あったとのこと。ただそれは、視覚障害やバリアフリーを意識したものではなく、偶然?そうなっていたくらいのことのようです(私は今から30年くらい前でしょうか、同館に初めて行った時は、黒水晶など5点ほど触れる物がありました。ただ、なにか脈絡もなく置かれているようで、キャプションなどもほとんどなかったように思います)。その後、20年くらい前から常設展示の所々にだれでも触ってよい展示を置いて、それらには「さわってみよう」マークが付されているようになりました。そしてタイトルやキャプションも点字でも付いています。(10年くらい前になりますが、私が行った時はさわってみようマーク付きの展示が十数点はあり、とくにクスノキの年輪が印象に残っています。)また、触る資料も使って、ジオラボや出前授業のようなこともしているとのことです。
そして、平巻きと異常巻きの2種のアンモナイトの3D模型が登場。
平巻きのアンモナイトは、パキディスカス・アワジエンシス(Pachydiscus awajiensis:pachys は「厚い」「太い」、diskos は「ディスク(円盤)」、awajiensis は「淡路島産の」の意)。模型は、大きさ8.5cm×6.5cm、厚さ3.5~1.5cm。実物は 12×10cmくらいだとのことなので、実物の7割くらいの大きさ。全体にごろんとした感じで、下面のほうはかなり欠けていたり、岩屑のようなのがくっついている所もあります。上面の中央が大きく窪んでいて、そこから巻きはじめていて次第に太くなって、3回目の巻きになるとさらに太くなって径が3cmくらいはあります。巻きの方向にたいして直角に、肋が3~5mmくらいの間隔できれいに並んでいます。普通よく触っているアンモナイトに比べてかなり分厚くて、学名はこの特徴をあらわしているのでしょう。
異常巻きのアンモナイトは、ディディモセラス・アワジエンゼ(Didymoceras awajiense: Didymos は「双子の」「一対の」、Keras は「角(つの)」、awajiense は「淡路島産の」の意)。模型の大きさは、直径最大5cm、長さ9cmで、実物は長さ20cmくらいということですから、2分の1くらいの大きさです。全体の形状は巻き貝を連想させるような形で、先がとがり、そこから巻きはじめているようです。ここを上にして説明すると、数回下向きに次第にゆるくなりながら巻いて、4回目くらいの巻きでは上の巻きから離れて垂れ下がるようになり、その巻きの先は、フックのように、反転してやや上に向いています。なんともふしぎな形です。また、このアンモナイトも巻きの方向にたいして直角に5mmほどの間隔で肋が走っていますが、各肋の中央とその下に小さな突起が対になってついています(中央の突起のほうがやや大きい)。属名のディディモセラスは、この対をなす突起をあらわしているようです。
この平巻きと異常巻きのアンモナイトは淡路島で多く見つかっていますが、いずれも白亜紀後期のカンパニアン期(7240万年〜7300万年前)の和泉層群から発見されているそうです。和泉層群は、愛媛県から徳島県、淡路島南部を通り、大阪と和歌山の間を通って奈良県に至る、東西300kmにも及ぶ地層で、同時期の和泉層群からはモササウルス類なども一緒に出ていて、当時の海の多彩な生物たちが思い浮かぶようです。
最後は、質疑応答。いくつか質問が出、また触っての説明の仕方などについても意見があり、私は私の触り方(発見的な触り方)について少し述べました。シンポジウム終了後、後ろのほうに立体地図など3D模型が展示されていたので、私が触ったものについて以下に記します。
上町大地:縦14、15cmくらい、横10cmくらい。上(北)の中央やや右から下の中央やや左(北北西から南南東方向)に上町断層が走る。その右側(東側)の高くなっている部分が上町大地で、右やや下向きにゆるやかな下り傾斜になって、右下付近を大和川が流れている。上町断層の左側は低地で、左上付近を淀川が流れている。上町断層の北端の上町大地側に大阪城がある。低地部で、大阪城の南西に昭和山(大正区にある高さ33mの人工の山)、その西北西に中央体育館(港区)がある。上町断層は、東側が西側に乗り上げる逆断層で、大地と低地の落差は最大20mくらい(大阪城のある上町断層の北端が最高点で 23m、低地部は0~数メートル)。
六甲山 :大きさは縦15cmくらい、横10cmくらい。北に六甲山系、その南は低くなって平野になり、海岸に近く阪神・JR・阪急の鉄道が走っている(この地図は海岸までは達していないようだ)。六甲山系はぎざぎざの激しい凹凸になっていて、南側に向かっていくつも深く谷が刻まれ、またその深い谷に向かって谷が刻まれまた崖のようになっている所もある(どんどん崩れているという六甲山を感じる)。。
北海道南西部の洞爺湖:縦15cmくらい、横10cm余だったと思う。南側の中央やや右にほぼ円形の洞爺湖(直径3cmくらいのつるつるの円で、中央にいくつかの小さな点がまとまって水面から顔を出している(中島と言う))。洞爺湖の真北に、円錐形のきれいな羊蹄山(成層火山。標高1898m)がある。洞爺湖の北西、羊蹄山の南西に、山頂部が広い台のように盛り上がり、なだらかな裾野が広がる昆布岳(標高1045m)。洞爺湖(湖面の標高 84m)はカルデラ湖で、周口には外輪山がブツブツと連なっています。南側の外輪山の活動でできた活火山有珠山(標高733m)。(すぐ近くの昭和新山はよく分からなかった。)有珠山のすぐ南は海(内浦湾=噴火湾)。
マッコウクジラの全身の骨模型:全体の長さは1m余(オスは15m以上、メスは10m以上あるとのことなので、1/10以下のサイズ)。そのうち頭部が30cm余もあり、とても長い。顎が細く前に伸びて、下顎の両側に歯がたぶん20個くらい連なっている(上顎には骨はまったくない)。背骨は60cm以上あっただろうか、たくさんの椎骨(50個前後だとのこと)がつながり、背骨の先のほうは細くなってぽこぽこした豆粒のようなのが並んでいる感じ。背骨の上のほうに、10本くらいの肋骨が直径10cmくらいの丸みにふくらみ、肋骨の下のほうはすうっとすぼまっている。肋骨の上には肩甲骨、その下には腕のようなのが下がっている。
シンポジウムに参加して、結局多くの3D模型に触ることができました。当面はまず、3Dであれ何であれ、触れる物を増やすことが必要なのでしょう。そして3D模型はとくに理科的な教材としてはとても役立ちそうだと思いました。
(2026年10月17日)