夢惑う世界 旅と昆虫 旅の軌跡<残像> 旅・虹の向こう |
2.1.2.1 その先へ | ||||||||||||
1 その先へ 旅は、沖縄から始まった。
1980年ゴールデンウィークに、初めての旅、それもひとり旅が沖縄本島から始まった。何もかも、初めての体験をした旅だった。
私は、中学2年の時から昆虫採集を始めた。札幌近辺には、多くの採集に向いた場所がある。そして、その後も生活空間の近くで採集していたので、泊まりがけまでしての採集はなかったのである。ただ出不精だけなのだが。
昆虫は、大好きである。採集も大好きである。そして、それ以上に緑の中を歩き廻るのが、大好きなのである。
沖縄本島から石垣島、西表島へと昆虫採集の旅は続いた。 《沖縄本島》 山原の中心・辺土名に着くが、乗り継ぎのバスは発ったばかり、諦めて歩き始めるとおんぼろトラックが横に来て赤ら顔のおじさんが泡盛片手に、「おい!乗ってきな」。朝靄の中、トラックは突っ走る。泡盛を気持ち良さそうに、一口飲んで「飲まないか?」・・・断る理由もないし・・・ラッパ飲み。私を降ろした後、そのトラックは、地元のおばさんを乗せて、また・・・お忙しいこと!
奥地へと向かう。白い雲の浮かぶ真っ青な空には、黒く翅を染めたカラスヤンマが朝陽を受けて、悠々と夢に舞っていた。 《波照間島》 日本最南端の島・波照間は陽炎の中、静かに夢微睡む。容赦なく降り注ぐ日射しを浴び、心も、躰も渇ききる。そして、陽は沈む。とっぷりと暮れた島の空を妨げる灯りは、何ひとつない。あくまでも澄みきった空は、輝く星が透き間ないほど、ひしめき合っている。北の空には、北極星が低く煌めいていた。南の空には、南十字星が煌めいているはずだったのに、星があまりにも多すぎて・・・。流れ星が、ひとつふたつ夢を届けに舞い降りてゆく。
西表の緑深いジャングルを掠めるかのように 《石垣島》 歩き疲れて店の前のベンチに腰を下ろす。バスは、そのうち来るだろう。すぐ近くで、畑仕事の小柄なおじさんが店のおばさんと話し込んでいる。陽に灼けた顔や手の皺に刻み込まれた真っ黒な染みが、農夫としての厳しかった人生を物語っている。
そう!この顔こそ、私の大好きな人間の顔である。この厳しい亜熱帯の風土の中で、生き抜いてきた男の顔。
そう!それは、澪標。 10月12日 雨上がり。煌めく光の中で、けたたましく啼く、青く美しいイワサキゼミ。ここは夏。真っ青な光に溢れた南の果ての島、石垣。
30℃、灼け付く炎暑の中で、久し振りに心の中まで火照る。驟雨に洗われた蒼い樹の葉、照り返す陽が眩しい。叢林の小径を歩く。路傍の叢らから、可憐なルリウラナミシジミが瑠璃色した翅をしきりと閃かせて消えてゆく。暑い。喉が渇く。小川の細流が涼しそう。ここは、紫紅色した華奢なベニトンボのテリトリー。侵入者をパトロール、それとも、この夏お逢いしたことを想い出して、ご挨拶に伺ったのかも。
1984年10月12日 沖縄県石垣島にて |
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