和歌と俳句

川端茅舎

1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11

たぎちながれ絶対安静に

夜もすがらの十字架背に描き

三時打つ烏羽玉の汗りんりんと

微塵身は冷静の憤

夕立来と烏蝶飛び烏飛び

芭蕉葉の露重畳の今朝は蒸す

芭蕉葉の露集りぬ青蛙

青蛙はためく芭蕉ふみわけて

青蛙両手を露にそろへおく

を打つ神より弱き爾かな

蝿打てば即ちの罷り出づ

兜虫み空を兜捧げ飛び

かたつむり露の葛の葉食ひ穿ち

心頭のみんみんといさぎよし

みんみんや鼻のつまりし涙声

好きといふ露のトマトをもてなされ

茄子汁の香に久濶の何も彼も

老鶯に篁夕日青丹寂び

蟻の列いま粛然と夕焼けぬ

白牡丹われ縁側に居眠りす

ちり牡丹七花八裂して白磁

玉の鳩尾をおちゆきにけり

玉の簾なすなり背に腹に

月見草ランプの如し夜明け前