和歌と俳句

富安風生

わが干支の八たび還りて酉の春

根性を授からんとぞ初詣

負独楽を愛し勝独楽に目もくれず

掌につつみ豆羽子板を愛しけり

初仕事俳句の蟲をもて任じ

松の内松過と日は経ち易し

元日の午下の日のなほ蕩々と

二日はや元日といふ過去を負ふ

幕あけは春日の社頭初芝居

山を見る一つ加へし齢もて

何を欲る老の敷寝の宝舟

屠蘇祝ぎて米壽とはそらぞらしけれ

長らへし業やまじまじ初鏡

うろたへて八十九齢去年今年

年々歳々歳々年々年の花

九と刎ね一と引きすゑ試筆かな

初渚ふみ来し迹のもつれなき

初凪の海は陸より秘めにけり

パリリと展く文芸手帖初日記

一齢をまた偸みたる屠蘇祝ふ

この一齢を生き疲れたる屠蘇祝ふ

世の中がふと面白く老の春

二閑叟五万米の歯軋り笑ひあひ

初夢の煩悩穢れなかりけり

餅花の一つ一つの柔かさ

臨終にして初春吟を書き残す