人寄せぬ櫻咲けり城の山
春がすみ鍬とらぬ身のもつたいな
穀つぶし櫻の下にくらしけり
なの花にうしろ下りの住居哉
春の風艸にも酒を呑すべし
陽炎や寝たい程寝し昼の鐘
行春の空はくらがり峠かな
陽炎にさらさら雨のかかりけり
うら門のひとりでに明く日永哉
古郷や餅につき込春の雪
夕東風に臼の濡色吹れけり
春風に箸を掴んで寝る子哉
鶏の人の皃見る日永かな
夕燕我には翌のあてはなき
艸の葉も風癖ついて暮の春
梅咲くやあはれことしももらひ餅
鶯や懐の子も口を明く
初蝶の一夜寝にけり犬の椀
梅咲て一際人の古びけり
やぶ入のかくしかねたる白髪哉
梅が香をすすり込だる菜汁哉
梅が香に引くるまりて寝たりけり
陽炎のづんづと伸る葎哉
帋漉にうるさがらるる小てふ哉
箍かけよ臼の目切よ門のてふ
畠打やかざしにしたる梅の花