長谷川かな女
菊枯れて対座の人と離心もつ
貧しけれどもクリスマスの夜父ありぬ
木曾の旅終へし夫に初冬かな
初冬の苔枯れ寂びぬ光悦寺
芋少し煮えて冬至を祝ひけり
柑子剪る庭石凍る手燭かな
冷飯に鳴らして寒し銀の箸
凍てる廊にころび哭きけり声あげて
痛み侘びて信心もなし霜の声
人呼びてわれは凭り居る蒲団かな
霜やけをこすり歩きぬ古畳
雨に映りて燃え上りたる焚火かな
塀のそとに山茶花ちりぬ冬の町
枯芒刈れば日あたる堤かな
松のあひだに鎌倉はある冬日かな
初冬のつくりごと書く筆軽し
争ひて路ゆく人の冬めきし
書斎出ぬ主に客や漱石忌
時雨るゝや又少しのむ熱さまし
焚きのこす芒の株の枯れにけり
枯芝の音立てゝ見よ鴛鴦の沓