和歌と俳句

山口誓子

一隅

黛を落さず祭稚児通る

万緑に吊橋動を経ては静

巣燕も覚めゐて四時に竈を焚く

一力の古扇風器風起す

青田より直ぐに高嶽信濃なり

姥捨へせり上り来し青棚田

手力男擲げたる青嶺注連を掛け

護摩壇のぐるり青嶺のとり囲む

高きより青淡路見る鳥の眼で

鮎に張る鶴翼の陣下り簗

芒原熔岩流が凝固せる

石原に溶岩流が凝固せる

神の田の二つ田稔り同じなる

深草の田ほど黄ならず神の田は

沙羅双樹時を同じく紅葉して

重き材を宙にぶらりと紅葉谷

君見ずに並木の銀杏黄となるよ

蕊張るは物を云うなり曼珠沙華

渦潮に竜骨の残甲板の破

夜の枯野来る両眼の爛々と

生きてゐる牡蠣その殻のざらざらに

牡蠣の実の粒粒生ける盛り上り

牡蠣殻を積みては山を高くする

牡蠣殻の同じ高さの双子山

枯洲より見る南面の福山城

欠伸して顔の軋みし日向ぼこ